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​MSLG ブログ

Form I-539についての変更

2/28/2019

 
最近移民局は Form I-539 を一部訂正すると発表しました。I-539の項目がいくつか追加になり、さらにI-539AというI-539への補足書類も新たに加わります。これは2019年3月11日提出分より開始します。なおI-539ですが、非移民ビザ滞在資格の延長や資格変更の際に用いられます。

過去記事「 契約変更の注意点」

2/28/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。

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今回は一般的ですが、契約をすでにしている当事者間でその契約の内容を変更する場合の注意点について考えてみたいと思います。具体的な例を使って考えてみましょう。たとえば、身近なところでは、家を借りるといった賃貸借契約でしょうか。1年間といった継続した期間、お金を月々支払い、その対価として、家やアパートなどを使えるという契約です。ところが、長年にわたり賃貸借契約のように当事者間を縛る契約では、時間の流れや事情の変更で、契約内容が変更されることがあります。賃貸借契約などでは、たとえば、車を買ったから車庫を借りる項目を追加するとか、家賃が値上げになるといった場合です。
 
こういった変更を口頭で両当事者とも納得して、従う分は構いませんが、当事者間で問題になったときや、また契約をしていない第三者が契約当事者の地位を受け継ぐといった場合に問題となる可能性が生じます。簡単に言うと、契約の内容が変更されても、その変更された内容がちゃんと書面になっていないと、第三者が見たときに、そのような変更を客観的に知り得ないことになってしまいます。そうすると、契約内容が曖昧になってきて不利益を被ってしまうかもしれませんね。ですから、契約内容を変更する場合、たとえば上記で例として使った賃貸借契約ですが、書面でどのような変更があったのか、たとえば車庫を追加で利用する場合には、その旨を記載した書面をつくっておくことが大事になります。驚かれるかもしれませんが、契約書で訴訟になるという場合には、この変更点を書面にしてあるかどうかというポイントが争われることが少なくありません。
 
ところが、アメリカは契約社会ですから、簡単な追加書類では事足りない場合があります。まず、皆さんが確認しないといけないのは、元となる契約書です。たとえば、売買契約やリース契約、それに賃貸借契約などでも、必ず契約の内容を変更したり、追加条項を加えたりする場合の制約が書かれています。もし、家を借りている、何かものをリースしているといった場合には、そもそも当事者が締結した契約書を確認する必要がでてくるのです。
 
契約書で定型的に使われるのは、契約上の双方が書面によって合意した場合でなければ、契約内容の変更や加除は認められないということが書かれています。ですから、口頭で契約が変更されても有効では無い場合があるのです。上記の例を使って考えると、車庫を追加で借りるといった場合、元の賃貸借契約書に書面によらなければ契約の変更ができないと書いてあると、口頭で車庫を借りる契約をしていたとしても、有効に元の賃貸借契約に組み込むことができなくなります。もし、友達に自分が住んでいるところを引き継いでもらおうなどと考えている場合には、後から「車庫は使えないよ」と言われてしまう可能性があり、そういわれた場合、反論が難しくなる場合があるのです。ですから、特に継続的に契約をしている(賃貸借契約など)場合には、元の契約内容に変更点があったときには必ず元の契約書に沿った書類をつくっておいた方がよいことになります。
 
もちろん、元の契約書に沿った内容の文言をつくらなくては効果が無い場合がありますが、以下簡単にどのような内容を盛り込むことが必要か考えておきましょう。 
 
まず、基本となる契約書の内容を修正するという内容をはっきり盛り込む必要があります。いつつくられた契約書をどの当事者で修正(Amendment)するのかを最初に書きましょう。
 
次に、基本となる元の契約書のどの部分を修正するのか、また新たに追加するのかはっきり記載しておく必要があります。条項を修正するのであれば、その元となる条項、それに新しく修正される、削除される、または追加される内容をはっきり記載しておく必要があるでしょう。
 
その他、いつ実際に修正条項が有効となるのか、また元の契約書の条項は修正された以外はすべて有効に存続するなどの項目などをいれる必要がでてきます。
 
個人の契約などに関しての修正では当事者同士が話し合いをすればさほど問題は発生しないと思いますが、何十万ドルにもおよぶ不動産リースなどをしている会社は契約の内容を変更したいと思うときには必ず法律的なアドバイスを受けることをお勧めします。

法律ノート 第1149回

2/27/2019

 
MSLG弁護士による「法律ノート」第1149回がメーリングリストにて配信されました。

【小説シリーズ】陪審喚問の時 (The Grand Jury)

2/26/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第5回目です。

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第5章 予審(Preliminary Hearing)
 
真治君が18歳以下の未成年ということで、予審は成年被告人とは別にイン・カメラで行われることになりました。未成年者の場合、通常公開の法廷ではなく法廷の裏で審理されるのです。8時半ごろ出廷した私は、法廷内で、シェリフ(廷吏)に真治君のラインナンバー、つまり順番の番号を述べ代理人であることを告げました。その後法廷の裏にある裁判官の控え室に行きました。担当検事はキャサリン・バードという紺のスーツにブロンドの髪が映える女性検事、裁判官は予審判事の一人ブレナン判事でした。60歳ほどの銀髪のユダヤ人です。お互いに挨拶をして、検事とは名刺を交換し、真治君の代理人であることをラインナンバーで告げました。他の事件に先立って審理をしてくれるということになり、裁判官の指示でシェリフは控え室に待機していた真治君を呼びにいきました。ブレナン判事、バード検事それに私が、裁判官控え室の脇にある部屋に移動しました。
地裁レヴェルでの判事の控え室は異動が多いため、煩雑で部屋も質素なことが多いのですが、連邦レヴェルの判事はアメリカ大統領による任命によるため、異動が少なく、家具や調度も高価なもので揃えられています。別室も例外ではありません。
革の椅子に腰掛けてしばらく待っていると、オレンジの収監服を着た真治君が手錠をはめられたまま別室に入って、入り口付近の木の椅子に座らされました。太鼓腹のひげ面シェリフも無言のまま、真治君の横に座っています。
判事は大きな机を挟んでちょうど真治君の正面に座っており、裁判官から見て左が検事、右に私が座りました。厳密なルールは決まっていません。ただ、検事の横に弁護人が座るということはまずないといってよいでしょう。座りたくないです。
ブレナン判事は「さて、ラインナンバー8番にあるシンジ・フクモトの予審をはじめます。」といって手元にあるリーガルサイズのフォルダを開きました。
バード検事が、ゆっくり起訴事実を読み上げます。私も、予審直前に手渡された起訴状に目を落とします。
「起訴事実の要約としてはシンジ・フクモトは自己が居住する住所地において、ヘロインを約30パウンド所持してため、起訴を認めるに相当な嫌疑がある。」
とバード検事は無表情で読み上げました。ブレナン判事はうなずくと
「弁護人は何か。」
と私を見ました。実際のところ、プレリムで無罪を受けて釈放してもらえるという事例はほとんどないでしょう。実際のところ99パーセントの事例では、保釈の請求をしてなんとか保釈金を逃れるか減額させるかを判事に印象づける舞台です。とにかく私も口を開きました。
「判事、この事件においては私のクライアントはまったく関係ありません。事実、麻薬を所持していたという事例ではない。それに、ヘロインはクライアントの父親が使用していたアイスクーラーから発見されたのであり、ここに座っている彼がコントロールしている範囲でのできごとではありません。実際の麻薬の売買や所持にかかわりのある証拠が少しでもない限り、検察の主張を維持することは難しいでしょうね。判事、この麻薬に関しては何らか別の組織が絡んでいて、私のクライアントの関知しないところで、物事が動いています。私のクライアントもその組織の被害者です。」
私は少々の賭けをしてみました。別の麻薬組織が動いているという証拠はまったくないのですが、それらしき匂いはしますよね。判事はすかさず、
「別の組織が動いているという証拠でもあるのですか。」
「私が、クライアントの家に入り内部を検分していると、いきなり覆面を被った男に頭と肩をバットで殴られました。これが診断書です。」
私は昨日もらってきたばかりの診断書を判事の目の前に差し出しました。真治君は、私が襲われたことまでは知らなかったので、驚きの表情を見せていました。
「その二人組は、私のクライアントの家に無断で立ち入り、彼の部屋に置いてあったコンピュータを盗み逃走しました。FBIが捜索した現場からさらに何かを持ち出すなんてことは、通常、犯罪にかかわっている人間しかやらないでしょう。ですから、私は別の組織が動いていると主張しているのです。」
私のドラフトした書面と診断書に判事も検事も目を通していました。間髪を入れず、私はORを請求しました。ORとはOwn Recognizanceの略で、保釈金を一切積まずに保釈してくれという命令です。検事は立ちあがって猛烈に反対しました。インテリ風の彼女もいざとなると法律論で攻めてきます。反対の理由は証拠隠滅の恐れと、逃亡の恐れがあることと主張しました。検事は更に少なくとも10万ドルの保釈金を課すべきだと主張しました。そのような金額では一遍に用意するのは難しいですし、ベイルボンズ(いわゆる保釈請負業)に頼んだとしても10パーセント、つまり1万ドルを手数料で取られてしまいます。
ブレナン判事は無表情で少し考えると、私に、
「このミスター・フクモトには身を寄せる場所がないんですよね。両親とも他界しているとか。」
「間違いありません。」
「それでは、家に帰すことはできませんね。」
私が、すかさず、
「それでは私がクライアントの身柄を引き取ります。私と一緒に暮らしていれば問題ないでしょう。ひとりで家に帰すとまた暴漢に襲われる恐れがありますし。」
バード検事は薄笑いして、
「正気なのですか、前代未聞です。刑事被告人の身柄を受ける弁護人なんて。許されるべきものじゃないでしょう。」
うるさいなピーチクパーチク、と思いながらも、私は判事に向かい冷静に言いました。
「許されるかどうかは、判事、あなたが決めてください。彼も学校へ行くという仕事があるのです。」
しばし沈黙が続いた後、判事は私に軍配をあげました。真治君の顔を見ると、彼は私の目をずっと見つめていました。バード検事は肩をすくめると、法廷にさっさと帰って行きました。
判事と握手した後、シェリフがいくつかの書類を持って来ました。私が保護者となってしまったようなものですから、複雑な気持ちでいろいろ署名をしました。本日で真治君を釈放する、ただし次回から出廷しなかった場合、即座に逮捕令状が発行されるという命令書に、判事は事務的に署名をしました。判事も、これから昼まで続く予審のために、「グッドラック」と一言私に言い残し法廷に向かいました。
真治君はその場では釈放されません。CJ-9に帰って、釈放の手続きを済ませてから出られるのです。私は簡単にそのことを説明し、真治君と別れました。まずは、うまくいったことに満足でした。
法廷を出ると、私は風もなくのんびりした空気を吸い込み、CJ-9に向かいました。1時間ほどして、真治君は釈放されました。逮捕のときと同じ服を着ていました。ちょっとやつれているものの、だいぶ平常心に戻ったように感じられます。
「先生、本当にありがとうございました。それにしても、頭大丈夫ですか?」
「なんだよ、『頭大丈夫』なんて聞かれると、自分が変わり者かどうか考えちゃうじゃないか。」
やっと真治君は笑顔を見せてくれました。
「もうお昼だから、何か食べようか。」
日本食が食べたいと言う真治君の希望をかなえ、ダウンタウンにあふれるようにたっている日本食屋をひとつ選び、二人とも満足したところで、事務所に立ち寄りました。
千穂さんは真治君の学校にもう連絡を取ってくれていたようでしたが、私と真治君を見ると非常に喜んでくれました。
「よかったですね、出られたんですね。」
「そうなんだ、本当によかった。でも、これから裁判が終わるまで僕が真治君の身柄の引受人になっちゃったんだ。」
「えっ、大丈夫ですか。」
「君は無実だよな、真治君?」
と言って真治君の顔を見ると、真治君はまじめな顔をして、
「絶対に無実です。信じてください。」
と私の目を見ました。千穂さんは、ちょっと大丈夫かしらんいう顔をしていました。三谷先生の部屋にも報告に行きました。話を聞いていた三谷先生は、真治君をドアの外で待たせておいて、私に言いました。
「刑事事件のクライアントはうそをついていることが少なくない。君はまだ若い弁護士だから、わからないかもしれないが。そんなにクライアントを信用していちゃ、この仕事体が持たないよ。」
「わかっています。でも先生、彼、今では孤児なんです。誰かが全面的に信用してあげないと、彼、どうなっちゃうかわからないんです。」
「うん、君がそこまで言うなら、弁護士は自己責任だからかまわない。でも、くれぐれも気をつけるんだよ。」
「はい、ありがとうございます。」
真治君を少し待たせておいて、一通りの急ぎの仕事を終わらせて、一緒に外に出ました。私は事務所の前で信号待ちをしながら、ぐっと息を吸い込みました。そして真治君の顔を見て言いました。
「本当の闘いはこれからだぞ。」

法律ノート第1148回

2/21/2019

 
MSLG弁護士による法律ノート第1148回がメーリングリストにて配信されました。

健康診断書の有効期限

2/20/2019

 
永住権申請において、最後のステップであるI-485申請(資格変更手続)の際、申請者は移民局の指定医で健康診断を行い、その診断書を移民局に提出する必要があります。
診断書の有効期限は医者がサインした日から1年間でしたが、2018年11月1日以降に提出する分についてはサインした日より2ヶ月間有効というように変わっています。ですので移民局の提出前の健康診断のタイミングを図る必要があります。

【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

2/19/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第4回目です。

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第4章 証拠探し (Informal Discovery)
 
けたたましい電話の音で起こされました。時計をぱっと見るともう朝の10時。急いで受話器を取ると、千穂さんでした。
「先生、大丈夫ですか? 昨夜、さんざん電話したのに。」
携帯電話をチラッと見ると、電池切れです。
「あれ、携帯は電池切れみたい。」
「彼女でもできたんですか、 それならそこの連絡先も教えてもらわなくちゃ。」
「そうだったら良かったんだけどね。申し訳ない、一晩中、福本君の事件で走り回ってた。」
頭をぽりぽり掻くと、昨日頭から出た血が粉状になって手につきました。頭と右肩がまだ、ずきずきします。でも、腫れてはいないことから骨には異常がないな、と再確認しました。右腕を動かしてみます。
「福本さんの件なんですが、まだ、遺体はもらい受けられそうにありません。学校には留守電を残して置きましたが、まだ連絡はとれていません。土曜日ですから。」
「遺体はいつ頃もらえるって?」
「まだ、見当がつかない様子でした。監察医がいませんでしたから。」
「遺留品は?」
「それも渡せないって。」
「…。FBIが手を回しているな。学校には月曜日でいいからなんとか連絡しておいてね。」
「わかりました。でも、起こしちゃったみたいで申し訳ないですね。」
「いいんだ。起こしてくれてありがとう。あとね、月曜日には、真治君のプレ・リムが朝9時からだろうから、 カレンダー(出廷の日時を記録)しておいて。念のため検察に確認しておいてね。」
「でも、他の法廷が入っていたと思いますが。」
「悪いけど、三谷先生に頼んでおいてくれないかな。真治君を助けなきゃ。」
「わかりました。伝えておきますね。」
「ありがとう。」
受話器を置こうと思って、私は寝ていたソファから落ちてしまいました。ああ痛い。気を取り直して、シャワーを浴び、血をぬぐって、Tシャツにジーパンをあてがい、家を出ました。近所で、いつも飲んでいるピーツ・コーヒーと朝食代わりのクロワッサンを買いました。奥さんがいれば家で朝ご飯も食べますが、こんな仕事をしていると出会いがないのです。
行き先は真治君のお父さんが眠っているところです。サンフランシスコの郊外、そして爆発のあったサンフランシスコ空港のそばの検死局に車を飛ばします。まだ、少々からだの調子が良くないですし、時差ぼけで頭がボッとしています。気分を積極的にするために車の窓を全開にして、ラジオをつけます。ニュースではなくソフト・ロックです。コーヒーをすすりながら、目的地に向かいます。検死局は四角い巨大なさいころのような無味乾燥した外見をしていて、味気ない政府の建物という雰囲気をぷんぷんさせていました。遮断機にボブワイヤ(有刺鉄線)が入ったゲートで弁護士証を見せ入ります。雲がちょっとありますが晴天で、コーヒーだけでは唇が乾きます。
モルグ(死体置場)があるコロナーズオフィス(死体管理局)の建物の中はひんやりしていました。受付で所定の書類に記入しました。真治君はお父さんの相続人ですから、相続人の代理と記入しました。私の弁護士証で身分確認を済ませた後、土曜日なのに働いている黒人の女性係員は2秒ほど笑えるジョークを飛ばしながら、ファイルを検索してくれました。
「ミスター・フクモトね。死体は見れないわ。」
彼女は残念そうな顔をして私に告げました。
「ひどいのかい。」
「爆発に巻き込まれたみたいね。見るのはちょっと無理ね。」
「遺留品は?」
「それなら…、えっと、なんとかなるわね。着ていた洋服と、かばんとその中身の一部はあるわ。」
「とにかく見せてください。」
 
ちょっと受付で待たされた後、別室に通されました。窓がないので、湿っていてとにかく暗い。壁はコンクリートが剥き出しのまま冷ややかに見えます。リノリウムの廊下を歩く足音が響きます。かすかに点滅する長めの蛍光灯が煌煌と光る部屋に通されると、ビニールの検診台の上に遺留品が置かれています。
「誰か、ほかの人が検分に来ていた?」
「昨日の夕方、確か警察が来ていたようだったけど。」
「FBI?」
「そうね、確かマックブライドとかいう捜査官だったわ。」
私は口を歪めました。係官が差し出したチェックインリストにサインをし、遺留品リストにもサインをしました。遺留品リストからわかるようにまだ、何も持ち出されてはいません。
「終わったら、内線で105を押してね」と、壁にかかった電話を指差し、ウインクをした受付の係官は部屋を出て行きました。
感謝の言葉を述べましたが、FBIの後手に周っているのは気分がよくありません。
遺留品に目を向けると、血みどろになった洋服の一部がありました。所々焼け焦げ、洋服のちぎれ方も爆発のすごさを物語っています。
「探し物はあるかいな。」
私は独り言を言いつつ手荷物であろうと思われるかばんの中を見てみます。所々が焦げたかばんを探すと、ラップトップがでてきました。ところが、一部は原型をとどめていないほど高温で溶けているようです。私が落ち込んだのはハードドライブが破損しているのを見つけたときです。肝心のデータが入っているハードドライブが半分以上高温にさらされて溶けています。これでは、データの解析もままならないでしょう。次に手帳型のコンピュータを探して見ますが、陰も形もありません。洋服も焦げていますから、胸ポケットに入れておいて落としてしまったのかもしれません。次に鍵を良く見てみました。キーホルダーについた鍵は、私が真治君の家から借りているものとほぼ同じでした。いくつか見なれない鍵もついていましたが、その中に車の鍵があり、メルセデス・ベンツのマークがついていました。他にこれといった鍵は見当たりません。手詰まりだな、と感じてがっくりしていましたが、気を取り直して壁掛けの電話の内線を押して、建物を後にしました。
 
お腹が減っていたので、ハンバーガーを買うことにしました。昨日は晩ご飯もろくに食べられなかったですからね。ドライブスルーでジャンクフードを買い、そこの駐車場でダイエットコークをすすっていたとき、車のシガーソケットにつないで充電しておいた携帯電話がけたたましく鳴りました。出ると、三谷先生です。
「どうしたんですか、土曜日に。」
「今、ちょうど事務所にいるんだけど、君に電話が入った。とっても急用だとさ。」
「誰ですか、急用って言っているのは。」
「ミス柏木だって。」
三谷先生はアメリカ生まれなので、ちょっと訛った日本語で、私に電話をかけてきた日本人の名前を告げました。
「柏木ねぇ、知りませんね。とにかく電話番号をください。」
事務所に残された番号に電話を返すとワンコールで女性が応答しました。
「あの、私、弁護士の小山といいます。お電話もらいましたよね。」
「あ、小山さん。よかった、かけてきてくれて。」
「えっと、あの…。」
「おととい、フライトのときお会いしたじゃないですか。名刺をくださって。」
「あー、まりこさんですね。」
かっこよくてきれいなアテンダントの方ですね、という言葉は飲み込みました。
「そうです、そうです。」
「お疲れ様でした、どうしたんですか?」
「空港で爆発騒ぎがあったでしょ。それで福本さんの息子さんの弁護をされていると聞いて電話しているんです。」
「どこからそんなこと聞いたんですか。」
「ジムです、彼とは知り合いなんです。」
「はは、狭い世界ですね。どこでつながっているかわかりませんね。」
私は、まだ食べかけのハンバーガーが冷えるのを目でじっと見ていました。
「それで、福本さんがお亡くなりになる前、確か10日前だったけど、サンフランシスコからサンディエゴに行く飛行機に私が乗り組んでた時に、福本さんにお会いしたことがあるんです。」
そういえば、今回、福本氏が乗ってきたフライトは日本からではなくて、メキシコからだったということを思い出しました。
「国際線だけじゃなくて国内便も飛ばれるんですね。」
「私は、サンフランシスコ採用だから、どんなフライトにでもスタンバイしていなくちゃならないんですよ。アメリカの航空会社は人使い荒いから。」
「福本さんはサンディエゴからメキシコに入ったというわけか…。」
「そのフライトのときね、福本さんにお食事に誘われたの。何でも奥さんが亡くなって一人だとかで。」
なるほど、やはり食事のお誘いがカギなんですね。私ももうちょっと利口にならなくては。
「それでね、私も悪い気はしなかったから、現代建築にも興味あったし…、携帯電話の番号を教えたのね。」
そうですか、建築ですか。どうせ法律はつまらないですよん。
「そうしたら、自分の電子手帳がないって福本さんが騒ぎだしちゃったの。」
「騒いだって何を?」
「電子手帳がないって。それで、手荷物や席の周りを散々探したんだけどなかったのね。もう、探しているときは私の電話番号のことなんか忘れちゃっていたみたい。」
私は、電子手帳というのはパームパイロットのことだなと直感しました。どこかにやってしまったので、死体にはかけらも見られなかったのだなと。
「それでどうなっちゃったの?」
「結局、一緒にいた白人の男の人がなだめて一段落したけど、すごく落ち着かなかったみたい。」
「連れの人がいたんだ。」
「なんか仕事のパートナーだったみたい。それから福本さんはムスッとして一言も口を聞かなかったわ。なんか、無駄話になっちゃったかしら。ごめんなさい。福本という名前を聞いて、びっくりして電話かけちゃったの。」
「いや、ためになった。ありがとう。」
「もし、何かあったら連絡して…。」
と言い、まりこさんは私に彼女のサンフランシスコの自宅と携帯電話の番号をくれました。「何かあったら」っていうのはデートのお誘いも含むのでしょうか。それよりも、知らなかった事実がいくつかわかって、冷えたハンバーガーを噛みながら、私はまた考えだしました。
午後になって私が向かったのは真治君の家でした。わずかな望みを抱いてそしてLgodとJgodを求めて、パームパイロットを探しました。2時間ほど探しましたがでてきません。今回は私も警戒して、ゾーリンゲンのナイフを懐に収めていましたが、賊はしなければならない仕事を達成してしまったのでしょう、もう出ませんでした。あきらめて、真治君の家を出ました。
もう夕方です。車に乗り込み名刺を見ながらマックブライド捜査官に電話をしようとしましたが、やめました。警察の調書もまだ作成されてないでしょうし、何も教えてくれないだろうと思ったからです。代わりにジムに電話をかけました。かったるそうな声で電話に出たジムは私とわかると、声が変わってしゃきっとしました。
「ジム、体の調子はどうだい。今日、真理子さんから電話があったよ。」
「体は大丈夫さ、今のんびりバスケを見ながらビール飲んでるよ。マリコも俺も日本人を相手にしているからな。仕事でよく会うんだよ。」
「いいな、あんなべっぴんさんと仕事できるなんて。」
「あはは、俺にはワイフとキッズがぶら下がっているから、いいことなんかじゃないけどな。」
「ところで、ジムが福本さんを迎えに行ったとき、福本さんには連れがいたのかい?」
「おー、いたよ。残念ながら男だけどな。なんていう名前だったけな。今日の新聞に載ってたぞ名前は。えーっと、そうそう、ジャック・ロビンスだ。」
「今日の新聞にあの爆破のこと詳しく書いてあるかい?」
「死傷者の名前とか、麻薬関連だとかね。」
「サンキュー、ジム。ロビンスね。」
「ノープロブレム、バディー。ところでシンジはどうしてる? 連絡はあったかい。」
「今、麻薬の容疑に巻き込まれて収監されている。」
「え、やっぱり麻薬が絡んでいるのかい?」
「絡んでいるだろうけど、彼は絡んでいないだろうと信じている。」
「それは大変になってきたな。がんばれ。何かあったら俺に言ってくれ、力になるぜ。」
「ありがとう、リサによろしく。おやすみ。」
電話を切った私は、再び真治君の家に向かいました。その途中、真治君の家の近くにあるコーナーリカー・ショップ(酒屋)で新聞を買いました。一面です。爆破現場の写真や、亡くなった人たちの遺族のコメントが載っています。ジャック・ロビンスはすぐに見つかりました。建築家であること、サンフランシスコのトレードセンターの建築をするにあたり福本氏のもとでチーフデザイナーをする予定だったことが書いてあります。温厚そうな顔立ちの白人です。40歳くらいでしょうか。福本氏と一緒にメキシコに飛び、NAFTA(北米通商条約)で風通しのよくなったメキシコとサンフランシスコの橋渡しをするために会議に出席した帰りと書かれています。ロビンス氏の家族もさぞかしつらい思いをしているだろうと思いました。
福本家は相変わらず散らかっていて、がらんとしています。なんとかロビンス氏の家族に連絡をつけたいと思いましたが、FBIが住所録を真治君の家から持っていってしまった様子で、日本の福本建築事務所に連絡をとる道しか残っていませんでした。電話番号案内にも確認しましたが、ロビンス氏の家には連絡をすることができませんでした。私は月曜日のプレ・リムを考えて少々証拠がないことに焦りを覚えていましたが、もう日も暮れているので、その日は切り上げて家に帰りました。シャワーを浴びると、お酒を口にする元気もなくベットに倒れこみました。
 
朝起きると、頭痛はほとんどしなくなっていました。寝ることが一番ですね。でも早く病院に行かなくては、などとふと思います。朝までぐっすり寝ることができた私は、撥ねた髪を整え、真治君の接見に向かいました。日曜と言うのにダークスーツを着ている私を見て、近所のおばさんが不思議そうな顔をして私を見ていました。今日もピーツのコーヒーを買うのは忘れません。
拘留施設の入り口で刑務官と話し、明日のプレ・リムに真治君が出廷することを確認しました。サンフランシスコの連邦裁判所、朝9時です。真治君はやっと眠れた様子で、血色がよくなっていました。今日は、会う前に差入れ用のお金をやる気のないクラークに預けておきました。いくらかのお金を留置場に渡しておくと、中で歯ブラシやいろいろなものが買える仕組みになっているのです。
「真治君、明日は保釈してもらえるようにがんばるけど、いくつか質問があるんだな。」
「はい。」
「まず、前回会ったときにお父さんはラップトップを持っているという話をしたよね。お父さんは一台しかラップトップを持っていなかったよね。」
「メキシコに持って行った一台だけです。」
福本氏は私が検死局で見た一台しかもっていなかったのですね。ラップトップからEメールの情報を引き出すのは不可能のようです。
「そうか、あの一台しかないのか…。」
私はちょっと行き詰まった気分になって下を向いてしまいました。
「あ、そういえば、お父さんがメキシコにいるときに電話をかけてきて、コンピュータについて話しました。」
「え、何を?」
「えっと、ラップトップは問題ないけれど、パーム・パイロットをどこかでなくしてしまったと言っていました。」
「あ、そう。」
真理子さんの電話がよみがえります。
「家にないか確かめてくれと言うことで、ずいぶん探しましたが、出てきませんでした。」
「そうなんだ。」
「ですから、ラップトップは持っていたと思います。」
「パームはどこにあるのかなぁ。」
「さあ、わかりません。」
私は話題を変えました。
「ロビンスという人を知っているかい。」
「お父さんの仕事仲間ですね。何度か家にも来たことがあります。今度のトレードセンターの仕事も一緒にやれるって喜んでいました。10年以上付き合っているんじゃないかな。お父さんがサンフランシスコに家を買ったのもロビンスさんがここにいたからだと思います。」
「君は親しくないのかい?」
「僕は付き合いはなかったです。ロビンスさんには子供さんもいなかったし。」
「そうか、子供がいないんだ。お父さんとはそんなに年は離れていないだろ?」
「そうです、年が近かったのも仲良くしていた理由じゃないかな。」
「どこに住んでいるか知っている?」 
「さあ、奥さんと二人で確かサンフランシスコ郊外のヒルズブローに住んでいるというのは聞いたことがありますけど。」
「そうか、うん、ありがとう。とにかく今日は明日の準備をするから、明日法廷で会おうね。」
「お願いします。父のためにも。」
真治君の目に強さが感じられてきました。眠ったこともあってようやく気持ちも落ち着いてきたのでしょうか。CJ-9を出た私は、日中の照り返す日差しの中、病院の緊急病棟に立ち寄りました。頭部の傷と、右肩の腫れについて診断書だけ書いてもらうと、そのコピーをもらい、またもや真治君の家に向かいました。アメリカの病院では症状が重くないと緊急病棟とはいえ、何時間も待たされるのには閉口します。車の中で診断書を見てみると頭部と右肩の打撲となっています。
静まり返った福本氏の大邸宅前に車を停め、中に入ると無機質な薄暗い室内が散らかっていて、なんとも寂しい感じがします。もう一度福本氏の書斎と寝室を検分しましたが、これといって何も出てきません。夕日が差し込むリビングに戻り大きな本棚に飾ってある写真を見まわしていました。福本氏が設計したビルの写真などがありましたが、中に福本氏と真治君が笑ってコンバーチブルのスポーツカー、シボレーのコルベットに座って写っている写真がありました。こんなふうに笑っている真治君に早く戻ってほしいなと願いました。写真立てを置いたところで、ふとあることを思いだしました。あの時、モルグで見た車の鍵は、ベンツのカギ。そして、大きな駐車場に一台とまっているのはコルベット。ベンツはどこにあるのだろう。家にある引出しという引出しを全部捜したところ、台所の引出しから、ベンツマークが入った鍵が見つかりました。2つのスペアキーともポケットに入れて、真治君の家を後にしました。
帰宅途中で、日本の福本設計事務所に電話をしたところ、事務所では福本死亡のニュースを聞いて大混乱が起きていました。今、私が真治君を弁護していることを伝え、今のところは正常にビジネスを続けて欲しいと頼みました。ロビンスの連絡先を聞くまでに相当な質問攻めに遭いました。ロビンスの電話番号を教えてもらった礼を言って電話を切り、今度はロビンス宅に電話をしてみましたが、留守電になるのみです。私の身分を伝え、折り返し電話が欲しい旨を残して電話を切りました。留守電は死んだロビンス氏の声のようで、非常に柔和そうな声で、ゆっくりしたメッセージが入っていました。
私は、家に戻って明日の朝の書面作りに励みました。12時を回って、目が疲れてきたので明日に備えて寝ました。また、忙しい1週間の始まりです。

法律ノート 第1147回

2/15/2019

 
MSLG弁護士による「法律ノート」第1147回がメーリングリストにて配信されました。

ビザ取り消し

2/13/2019

 

最近、米国国務省は DUI(酒酔い運転)により逮捕されたときは、ビザスタンプが取り消しになることについて再確認したことを発表しました。
 
実際取り消しの効果が生ずるのは米国を出国する場合になります。出国した場合は自分の母国の米国大使館(または領事館)でビザスタンプを取り直す必要があります。なおI-94(滞在許可)には影響を及ぼさないので、出国しない限りI-94の滞在期限まで滞在が可能になります。

過去記事「インタビューの留意点」

2/13/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。

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日系企業がアメリカに進出してきて、基本的なビジネスのセットアップ、たとえば会社の設立やビザの問題などを解決したとしよう。次のステップとして考えなくてはいけないのが、人を雇用することだ。往々にして日本から進出してきた企業は忘れがちだが候補者のインタビューの際には質問等で気を付けなくてはいけないことが多々ある。やはり人種問題など日本にはあからさまには存在しない問題があり、インタビューの質問の際にも注意しなければならない。雇用者と被用者の間に立ち、斡旋を行う業者の中には的確なアドバイスを行うところも少なくない。しかし、雇用に関する法律は人種差別、年齢の差別それにセクハラなどの問題と、議会を通してではなく、裁判を通して判例で形成される場合が多い。言葉を返せば、日々裁判所を通して形成される判例が実務上重要になってくる分野である。もちろん顧問先の企業であれば私でも状況に応じたアドバイスが可能であるが、気軽に相談できる弁護士がいない場合には、できるだけ雇用に関する情報は手に入れるようにしたい。インターネット上でも有益な情報は散見する。以下、候補者のインタビューに関して、注意したい点を考えていく。以下の点は連邦の法律により規定されている。
 
まず、個人に関する情報で質問してはいけないものに、出生地(家族の出生地を含む)、年齢、結婚しているかどうか、性別(Mr. Ms. Mrs.などの質問を含む)、家族の出生地、家族の住所などについては質問することはできないし、また答える必要はない。 出生に関することは本人だけではなく、配偶者、子、親やその他の親族に関しても質問することができないことを念頭に置いてほしい。また、就職のインタビューにおいて、出生証明などの出生に関する書類を提出させることも許されていない。 また、名前についても、法律的に裁判所が認めた改名前の名前や結婚する前の姓についても質問することはできない。個人情報に関しては名前などの基本的な質問はすることは許されているし、年齢も聞いてはいけないというのが通常の考え方だが、未成年者でないことを確かめるために18歳以上かどうかを聞くことは許されている。住所や過去に住んだ場所などを聞くことも良い。
 
次に個人の肉体的なことまた精神的なことについて聞いてはいけないことがある。まず身長や体重、それに肌の色、仕事に直接関連していない身体的、精神的な障害などについて聞くことは許されていない。直接インタビューをしたときに候補者を観察することができるので、つい身体的なことなどに言及する例があるがあくまでも仕事の内容に関係がなければ聞くことはさけた方が良い。もし、採用を予定しているポジションが特定の身体的・精神的な能力を要求する場合には、その仕事に関して候補者の能力が適切であるかどうかを判断する材料として、障害の有無については聞くことが許されている。また、採用を決定する前に候補者の写真を要求してはいけない。
 
第三点目だが、個人の宗教には言及できない。所属している団体を挙げさせる場合には、差別に該当しない程度なら許される。性的なオリエンテーションについてはもちろん質問は許されない。教育については、学校教育については聞けるが、外国語をどのようにして習得したかを聞くことは許されていない。また、過去の職歴について聞くことは可能である。 市民権を持つかどうか、また有効にアメリカにいる権利があるかどうかについては質問することは可能だが、最低限度の質問に抑えておいた方がよい。
 
以上のように、質問して良い事項といけない事項がたくさんあるわけだが、人を雇用するにあたり、どのような点に気をつければよいのかを考えたい。 まず、雇用を行う上で、必要な事項、すなわちポジションが要求する事柄について集中した質問をすることである。一般的に言う「無駄話」は極力さける必要があるのだ。
 
また、会社において、インタビューを行う者の教育も非常に大事だ。インタビューを行うものは、その経験がある程度あることが必要であろう。 また、一人でインタビューに望むのではなく、状況が許せば複数人でのインタビューということも考えられるだろう。 また、画一性を得ながら、違法性を最小にするために、インタビューに関しての用紙を用意しておくのが無難だ。 事前にインタビューに必要な条項を紙にまとめて会社でシェアしておくとよいであろう。このインタビューシートを弁護士などと相談して作っておくのも手だ。会社にとっても候補者にとっても大事なインタビュー、ぜひ必要最小限の知識は備えておきたいところだ。

【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

2/11/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第3回目です。

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第3章   拘留(Incarceration)
 
FBIでもサンフランシスコ市警察でも被疑者の身柄を押さえると、まずCJ-9と呼ばれているサンフランシスコ市内の収監施設に連れて行きます。そこで、指紋を採取したり、前から横から写真を撮ったりするのです。住所やその他の情報についても尋問されることになります。私は、夜の霧がかったサンフランシスコの街に車を走らせながら、まず事務員の千穂さんに車から電話を入れました。ポケベルでつかまえられた彼女はすぐにコールバックをしてくれました。彼女に、いつ福本氏の遺体をモルグ(死体安置所)から引き取れるのか確認してもらうこと、真治君の学校に電話してもらうこと、それからいるならば真治君の親族、そして友人たちに連絡してもらうことを頼みました。その他、事務的な会話をして電話を切りました。次に三谷先生に報告がてら電話をし、真治君の事件を受任したこと、それに応援が必要になるかもしれないのでよろしくと伝えておきました。二本目の電話を切ったところ、ちょうど目的地に到着しました。空いているパーキング・スポットを見つけ、夜の街をCJ-9に向かって歩いていきます。ダウンタウンに近いエリアの高速道路の脇にCJ-9は建っています。夜の接見は弁護士のみに限られていますから、待合室はがらがらでした。中に進みコントロール室にいる刑務官に弁護士証を見せると、鉄の重たい扉を開けてくれました。その制服を着た刑務官は私とよく顔を合わせるのですが、刑務官は弁護士には挨拶以外の馴れ馴れしい会話をしませんから、私もいつものようにあえて言葉少なに留置場内に足を進めました。一般のエリアと留置場を遮断している鉄の扉が私の後ろで音を立てて閉り、面会室へ入りました。CJ-9はここ3、4年にできた建物なので、非常に新しく清潔で「サンフランシスコ・ヒルトン」などと呼ばれていますが、面会室でも壁紙が張られておらず、コンクリートのブロックの上に白いペンキが無造作に塗られているだけのところがホテルとは一寸違います。窓のないその部屋で待っていると、刑務官が面会できるまであと少なくとも30分はかかると言っていました。時間をつぶすのに、今までの一連の情報を思い出してみました。しかし情報が徹底的に不足しているので考えは憶測のみでぐるぐる回ってしまいます。とにかくか細い真治君が心配です。
時間が経って重たい鉄の扉が開くと同時にオレンジでVネックの囚人服を着せられた真治君が入って来ました。体の前で手をつないでいる手錠が細い腕に痛々しく見えました。
「小山先生。」
悲痛な響きで真治君は私に話しかけました。
「真治君、大丈夫かい。何もしゃべってはいないよね。」
「はい、それは大丈夫です。だけど、僕、わけがわかりません。どうして僕がこんな目に遭うのか。」
「うん、君が関係ないことをあと2、3日の間に解明しなくちゃ。プレ・リム(Preliminary Hearing:予審)がたぶん、次の月曜日だからね。でも、それまではここにいなきゃならないかもしれない。」
「こんなところにいられません。早く何とかしてください。」
「わかっている。ところで、君の家のカギを借りてるけど、それを使って家の中に入ってちょっと調べさせてもらってもいいね。」
「先生は僕を疑っているのですか?」
「まさか。僕は君の弁護人だよ。君をここから出す証拠を探すのさ。」
私はにっこりしてみせました。
「先生、お願いします。僕、本当に怖いんです。」
真治君はまた震えています。
「真治君、君がまだ若いのも十分承知している。それに、この国に来てからそんなに時間が経っていないのも知っている。今、君が怖い思いをしているのもよくわかる。だけどね、脅すわけじゃないけれど、お父さんもお母さんもいなくなって、こんなことでへこたれちゃいけない。これから先、もっと苦しいことや辛いことが起きるんだ。もう、自分の両足でしっかり立って、自分を支えていかなけりゃ。お父さんだって本当に麻薬にかかわっていたかもわかっていないんだ。君がしっかりしなけりゃ。今は君がお父さんを助けてあげる番なんだよ。そのためには僕は全力で君を助ける。
こんな時に、自分の話をするのもなんだけどね、僕も両親を君の年に事故で亡くしたんだ。そして、アメリカに来て、奨学金をもらって、貧乏だったけど必死でがんばった。怖い思いも孤独も、嫌になるほど味わった。君も、今は胸が張り裂けそうな状態だと思う。でも、その地獄から這い上がって、落ちて、それでもまた這い上がってこそ、君という人間ができてくるんだ。だから、今の状態を恐れないで、勇気を持ってがんばるんだ。僕も君のためにがんばるから。」
じっと下を向き唇を噛みながら考えていた真治君の目から出ていた涙はもう止まっていました。
「先生、僕のお父さんは絶対に麻薬になんか手を出す人じゃない。お父さんが麻薬に関係しているなんてありえない、絶対に。」
真治君は声を殺していましたが、お腹の底から発声していました。
「とにかく、まず君を出すためにがんばるから。待っているんだよ。」
「先生、お願いします。」
 私は真治君の手をぎゅっと握りました。握り返してくる真治君の手は冷たくはあるのですが意外に力強く、なんとか彼はがんばれそうかなと思わせました。
真治君に別れを告げ、CJ-9の外に出てみると、風が肌寒く身震いしてしまいました。サンフランシスコは夏でも夕方になると平均気温が16度くらいでしょうか、5月の夜はまだ寒いくらいです。まだ時差ぼけが体の中に住んでいる感じがして、さらに今日の顛末で疲れてはいますが、目は冴えています。まだやらなくてはいけないことがあります。車に乗り込み、家には帰らず、真治君の家に向かいます。もう夜も12時を回ろうとしているところですから、車どおりはそんなに多くありません。酔っ払いがふらふら道を横断しようとして、急ブレーキをかけた車の運転手と言い争いをしています。CJ-9の周りは結構スラムっぽいんですよね。
 
気がついたのですが、そういえば昼から何も食べていません。お腹が空いたので、途中深夜営業の中華料理でチャーハンをテイクアウトしました。チャーハンしかオーダーがはいらなかったので、親父はあまり機嫌がよくありませんでした。お金を払い、車に戻り、真治君の家に向かいます。繁華街を通ると若い男女がデートの帰りなのでしょう、腕を組んで楽しそうに歩いています。いいな。歩く人もほとんどいなくなり、車はシークリフのエリアに向かっていきます。真治君の家は外に電気もなく真っ暗でした。夜、明かりのない鉄柵に囲まれた大きな家をみるとちょっと不気味ですね。手探りでゲートを開け、カギを使い玄関のドアを開けます。防犯システムは鳴りませんでした。ドアを開けて入ってみると、捜索されたときの名残が各所に見られました。散らかっています。整理整頓を口癖にしてくれると、警察ももうちょっとは評判があがるのでしょうけど。関係書類等はFBIが運び出してしまったでしょうから、他にカギになるものは何かかないものかとあたりを見まわしました。相当広い家ですから、電気のスイッチを探すだけでも一苦労です。幸い台所で懐中電灯を見つけたので、私はそれを手にきょろきょろ電気のスイッチを探しました。電気のスイッチを入れるたびに家が明るくなります。真治君のお父さんの寝室と書斎は、FBIに特に念入りにチェックされていた様子で、書類はほとんど見つかりませんでした。
福本氏の寝室の隣が真治君の部屋でした。ジャズが好きなようで、チャーリー・パーカーやビル・エバンスのポスターがかかっていました。良い趣味です。引出しには学校用品ばかりあり、ベッドの下にあった日記にもこの事件に関するようなことは書かれていませんでした。若者の部屋という感じがします。興味をひいたのは机上にあるコンピュータでした。FBIにもタッチされていない様子です。この部屋自体あまりFBIにタッチされていません。子供部屋なので気を抜いていたのでしょうね。私もあまり期待せずにコンピュータのスイッチを入れました。コンピュータが立ちあがるまでに少々時間があったので、私は買ってきたチャーハンを持ってきて、コンピュータの前の椅子に腰掛けて食べ始めました。
食べながら、何かないかなとぶつぶつ独り言を言い、立ちあがったコンピュータを調べていましたが、Eメールのブラウザを開いてみると、相当な量のメールがあることが判明しました。すべて個人用のようです。たくさんのメール友達がいるんだなと感心しつつ手がかりを探していましたが、手がかりらしきものは見つかりません。あきらめかけたとき、送信済みのフォルダがあったので中を見てみると、一回だけ使われている送信先が二つ目に入りました。あて先のLgod@というのとVgod@というのがあることから、苗字か名前はLとVから始まる人だと言うことが推測できます。そのメールを開いてみようと割り箸を置いてマウスをいじって、英語のメールだということを確認したとき、背後に人の気配を感じました。
振り返ると黒いスキー帽をかぶった私くらいの背をした人間が木製のバットを振り上げていました。とっさに椅子から転げ落ちると、その賊は空振りしたバットを持ち直してから再度私に向けて振り下ろしてきました。そのときに発した声から、男だとわかりました。今度のバットは避けられず、私の右肩に直撃しました。ものすごい激痛ですが、骨は折れていないようです。もう一度振りかぶったときにスキー帽の目のくりぬきから、私はコンピュータの画面に反射した青い目を見ました。私が転げ落ちた椅子が足元にあったので、思いっきりそれを蹴ると滑車が助けてくれてその男に激しく接触しました。チャンスとばかりに立ち上り、その男に近づこうとすると、背後から、頭を鈍器で殴られました。賊は一人とは限らないのですよね。頭にキーンという高音が走り、目が回ってハードウッドに顔から倒れ落ちました。私が床とラブシーンにふけっているとき、その二人組の賊はコードを簡単に抜き、コンピュータを持って私の目の前から消えました。目はなんとか見えていたのですが、賊のMO(風体)についてはわかりませんでした。
しばらく体が重く、立ち上ってもふらふらしますが、打撲程度でしょう。ちゃんと健康保険を払っていたかななどと思いながら、リビングに戻り、大きな革のソファに崩れ落ちました。今度は意識が遠くなります。疲れていることもあったようです。
時計を見ると2、3時間眠ったようです。目を開けると頭に針を刺されたような痛みが走ります。それでも、起き上がりキッチンの蛇口をひねり近くにあったコップで水を腹いっぱい飲みます。一息ついて真治君の部屋に帰ってみると、私の食べかけのチャーハンが床に散らばっていました。コンピュータはきれいさっぱりなくなっています。他の部屋も見てみますが、あまりFBIが散らかしていった状態と変わりがないようです。ただ見まわってみると、シャワールームについた窓が枠ごと外されていることと、リビングから庭に出る窓が少々開けっぱなしになっていたことがわかりました。シャワールームにある窓は、そのままにしておき、すべての窓とドアに施錠して、ふらふらのまま、私はまたCJ-9に車を走らせました。夜が明けてきて、小さな黒い鳥がばたばた飛んだり、街角に置かれたごみ箱の周りでたむろっていました。
再度、CJ-9の面接室までたどり着きました。右肩が非常に痛みます。守衛は私が血まみれになっている様子を見て接見させるかどうか躊躇していましたが、弁護士証を見て事務的に問題がないことを確認した後では通さなくてはなりませんでした。20分ほど待たされて真治君にやっと会うことができました。真治君は眠っていなかった様子で、疲労の色が濃く見えました。
「どうしたんですか、先生。シャツに血がついてる。」
「それより、君の持っていたコンピュータについて教えてくれないか。」
「僕の部屋にあるやつですね。」
「そうだ。お父さんもあのコンピュータを使っていたことがあるのかな。」
私は真剣な眼差しで真治君を見ました。
「ないとおもうけどなぁ、う~ん。」
真治君は懸命に過去の記憶を引き出そうとしていました。天井を見たりしていました。
「あ、あるとすれば、多分お父さんのコンピュータが壊れたときかな。確か3ヶ月くらい前、お父さんの使っていたラップトップが内部電池が壊れたとかで、1週間くらい修理に出していたときに使ったと思います。」
「誰にメールを出すとか、知らないよね。」
「それは知りません。仕事のことだと思うけど。東京の事務所ではたくさんコンピュータを使っているけれど、 外国に出るときはもっぱらラップトップを使っていました。」
「お父さんが誰にメールを書いていたかはわからないよね。」
「あ、でも僕のコンピュータは送信済み履歴がすべて残っているから、それを見れば…。」
「そうなんだよね、 僕も見てみたんだ。だけど…、」
私がうつむくのを見て、真治君は私の言葉を待っているようでした。
「賊が君の家に入ってきて、コンピュータを奪い取っていった…。」
「えっ、僕のコンピュータを…。なぜだろう。」
「真治君はメール友達が多いけど、日本語がほとんど?」
「ええ、学校の友達のマイクとジュディ位かな、英語のメールをしてるのは。」
「メールアドレスはわかる?」
「うーん、はっきりとは覚えていないけど学校のアドレスだからね。確かMikeK@Univhigh.edu と[email protected] かな。University.eduっていうのがうちの学校のドメイン名だから。」
「LgodっていうのとJgodっていうアドレスを知っているかな。」
「いや。知りません。僕のコンピュータにあったんですか。」
「そうだ。全文英語だったことはわかっているんだけど。」
「英語でねぇ。僕はまだ英語がそんなにできないから、英語で出していたら覚えているんだけどな。」
「そうか…。」
やはりLgodとJgodに送られたメールは真治君ではなく彼の父親が送ったメールであることがはっきりしました。
「お父さんのラップトップはどこにあるかな。」
「いつも一緒に持って行っていたから…。」
「事故現場、か。」
「そうだと思います。」
「お父さんは、サンフランシスコに事務所を持っておられるの?」
「いいえ、事務所は日本だけです。家はフランスとかオーストラリアにも持っているけど。」
「それじゃ、メールはラップトップでしていたんだね。」
「はい、ラップトップでしていたと思います。事務所のコンピュータは従業員がみんなアクセスできてプライバシーに問題があるからとか言っていました。僕が遊びに行ったとき、そうですね、去年のクリスマス頃にはインターネットにはまだ接続していなかったと思います。」
「そうしたら、そのラップトップが個人用の情報を持っているんだね。」
「そうだと思います。あ、それからお父さんは手帳型のコンピュータも持っていました。いわゆるアメリカで流行っているパーム・パイロットというやつですね。多分、その中にラップトップにあるのと同じ情報が入っていると思います。バックアップを取っていましたから。お父さん、バックアップの取り方で僕に質問しにきたことがあったし。パーム・パイロットもいつも持ち歩いていたな、お父さんは。」
「何で同じ情報が入っているってわかるんだい?」
「情報をシンクロ(同期)させられるんですよ。だから同じ情報が読みこまれるんです。僕がそのプログラムをラップトップに載せてあげたからよく覚えています。」
「そしたら、どっちかのコンピュータを見つけられれば、情報が見つかるんだな。」
「え、何の情報です。」
「ちょっと、探しものがあるんだ。君の出廷は月曜日だろうから、それまでに探さなくちゃ。」
「どんな探し物ですか?」
「コンピュータの中の情報なんだ。君のお父さんが送ったメールだよ。」
「一体どんな?」
「しつこいかもしれないけどLgodとかJgodって知らないよね、メールアドレスなんだけど。」
「知りません、というか覚えがないです。」
それからちょっと取り止めのない話をして再度施設を後にした私は、今度は自宅に戻り、ソファにちょっと腰掛けるつもりが眠ってしまいました。まだ相当な頭痛がしますが、眠いのが先です。

2月12日(火曜日)および 2月18日(月曜日)の業務について

2/11/2019

 
2月12日(火曜日) Lincoln's Birthday、2月18日(月曜日)President's day は祝日のため、お休みさせていただきます。ご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。

当事務所はカリフォルニアのコートホリデーは休業日になります。
http://www.courts.ca.gov/holidays.htm

移民局のビザ申請審査時間

2/6/2019

 
当事務所でも労働許可申請(I-765)と旅行許可申請(I-131)をサポートしておりますが、最近は以前に比べ審査時間が長引くことが多くなっております。
移民局の公表によると、例えば永住権申請の際のI-765申請にについては4ヶ月~6ヶ月となっていますが、実際はそれ以上時間がかかるケースがあります。またI-131ですが移民局の公表は4ヶ月~6ヶ月ですが、これもこの時間より長引くケースがでて来ているようです。移民局が規定する条件に合う方は優先審査の希望を出すことができます。これが認められれば通常より早めに許可書を受け取れることになります。

過去記事「家賃」

2/5/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。

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今回は、最近のベイエリアでの家賃の動向に連動した法律の問題について書いてみようと思っています。ドットコムは生き残るところはちゃんと生き残り、消えるところはどんなに大きなところでもフェードアウトといった方向性がはっきりしました。景気が悪くなれば失業率が高くなり、ベイエリアを離れていく方も少なくありません。日本の会社でも日本に撤退するなどという話もひとつやふたつではないのが現状です。ベイエリアの住宅事情も一時期は家一件を借りるのに、通常の人の給料よりもどうみても高い金額を支払わなくてはならないような時期があったわけですが、最近ではだいぶ家賃も落ち着いてきたみたいですね。まず、サンフランシスコを含めて商業物件の空きが目立ちはじめて昨年末は街を歩けばAvailableの看板をどこでも見かけることができました。次に住宅物件の値段が下がりはじめました。すごい勢いで下がっているようで、一ヶ月分無料、セキュリティーデポジットもほとんど無し、なんていう状況になってしまいました。
 
このような状況になって「むむむ、」と唸ってしまっている方々は、ちょうど家賃の値段がピークの時に、一年間などの期間で賃貸借契約を締結された方々でしょう。同じような家に住んでいるのに、新しく入ったお隣さんの家賃が自分が払っている値段よりもずいぶん安い、知り合いの不動産屋さんに聞くと「ちょっと高いですねぇ」なんて言われてしまっている方たちです。また、横目で見ていると、ちょっと前までは競争が激しく借りられなかったようなアパートや家がごろごろマーケットにでている訳です。そうするとおもしろくない。なんとかして、現状縛られている賃貸借契約から解放されたい訳です。私のところにもこのような相談がよくあります。
 
まず、賃貸借契約に、商業用でも住宅用でも期間の定めがある場合、原則としてその期間は賃貸借契約に縛られることになります。ですから、賃貸借契約を締結するときに、たとえば月々4000ドルで三年の契約を締結すると、その契約書に署名した時点で、賃借人には基本的に14万ドル以上の家賃支払義務が生じるのです。特に住宅用の賃貸借契約に関しては、サンフランシスコ市などでは条例を使って家賃の値上がりを一定の金額に抑えたり、正当事由がないと大家はテナントを立ち退かせることができない、といった特殊な法律が存在するのも事実です。しかし、基本は通常の契約ですから、一年間借りるといえば、一年間、三年間借りるといえば三年間縛られることになります。
 中途解約が賃借人の方から認められる場合というのは、まず大家が契約違反をしている場合です。たとえば、契約上大家がしなくてはいけない修繕をしなかったり、物件の引き渡しをしなかったり、契約の対象となる物件を引き渡せなかった場合などです。また、大家が破産をした場合などは、契約が解除できる旨が契約書に明記されている場合が多いです。
 
上記の様に正当な事由が無い場合には、基本的には中途で借りている家を出てしまっても、その後の家賃は賃借人の責任になってしまいます。もっとも、大家さんは、賃借人が出ていってしまった後、必ず全力をつくして、新しい賃借人を見つけなくてはなりません。つまり、たとえば、あと半年分契約上は家賃が前の賃借人からもらえるという権利があるとしても、新しい賃借人を探す努力を何もしなければ、六ヶ月分をすべて請求することは難しくなります。
 
とはいえ、借りている物件を勝手に出ていって、大家さんからの請求を待って考えようというのは、ちょっと考え物ですよね。やはりどうどうと処理できるかどうか、話し合うのが一番よいのです。話し合いの可能性としてはメジャーな方法が2つあります。
 
一つは、大家さんに事情を話し、契約に記載されているか、話し合いで決めて、ある程度のペナルティーを支払って契約を終了させてもらうことです。大家さんが良い人であれば、この方法も充分に可能だと思います。
 
二つ目の方法は又貸しをする方法です。契約書には大家さんの同意をとった場合又貸しができると記載されているものをみかけますが、自分で新しい転借人を見つけ、家賃を交渉し、必要があれば差額などを損になりますが払い、出るという方法です。ただし、この方法は、転借人が住んでいる間は、もともとの賃借人も責任を負う可能性が大ですから、リスクはあります。
 
どちらにしても、ある程度金銭的に泣くことが必要になるかもしれませんが、後で訴えられる可能性を考慮すれば、億劫がらずに大家さんと話しておくことが大事なのです。
 
私の事務所内でもこのところ引っ越しをする人が多くなっています。高級そうなアパートなどでも、ずいぶんリーズナブルになったようで、私が見ていても、「いいなー」と思うようなところに引っ越しをしているようです。私の事務所の近くにもとてもブルジョア的な高層アパートがあり、そこにもうちの事務所の人達が何人か住んでいます。事務所に通うのに五分もかかりません。確かに便利なのですが、家と事務所関係なく仕事の事を考えそうで、私自身はちょっと考えてしまいます。仕事時間と自分の時間を最大限につくるには、家と仕事場が近い方が良いそうなのです。まったく頭が下がります。
 
事務所でも独り者の人達は、気軽に引っ越しをしたりできるのでしょうが、家族となると、スペースも必要だし、なかなか動くのも大変そうです。ある程度広さを確保するとなると、今までは郊外にしか住めなかったのが、家賃が下がってきたおかげで、「やっと念願のサンフランシスコ組に入りました」などと言っている人もいます。バスや電車で比較的どこにでも移動できますからね。住むところは大事ですから、私もみんなが満足している状況で住める環境になってきたのが、人ごとながらとっても嬉しいのです。ところで、引っ越しパーティーを主催するといっていた事務所の人達がいましたが、未だにインビテーションをもらっていませんねぇ。

法律ノート 第1146回

2/4/2019

 
MSLG弁護士による法律ノート第1146回がメーリングリストにて配信されました。

【小説シリーズ】 陪審喚問の時 (The Grand Jury)

2/4/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第2回目です。

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第2章 捜索・押収そして逮捕 (Search and Seizure, Arrest Thereafter)
 
まだ時差ぼけが残っているので、朝起きるのは本当につらいものです。アメリカから日本へ行くときには問題なく適応できるのですが、日本から太陽の進む方向に逆らってアメリカに帰ってくるとなかなか適応できません。快適な寝起きとはいい難い朝です。無機質で乾いたベルの音が私を起こします。目覚し時計に、ぶつぶつと睡眠妨害罪の有罪認定をしながら、用意をして事務所に出るともう9時近くなっていました。カリフォルニアの裁判所での出廷時間は朝8時半とか9時なので、法廷が入っていたらこの状態ではアウトでした。
金曜日ということもあり事務所は比較的平和で、破産の新件が入って来たり電話で訴訟の打ち合わせをしたり、午前中は無事に過ぎていきました。やっぱり昨日無理しても仕事をしておいて良かったと思いました。三谷先生は相変わらずのんびり、いえいえ、マイペースで仕事をされているようです。千穂さんは相変わらず忙しく動き回っています。
昨夜会った真治君から電話が入ったのは、午後2時ごろでした。直通電話番号を教えておいたのに、どうも名刺に印刷された代表番号にかけたらしく千穂さんが取り次いでくれました。
「 あの、昨日お会いした、あの福本です。えっと、警察の人が、その、今来ていて、どうすれば…。」
「あ、こんにちは。」
「先生、警察が来ているんです。」
「何も話す必要はないんだよ。はっきり言えばいいんだ。弁護士を通してくれって。」
「でも、その三人も来ていて、あの…。」
私は相当まどろっこしく感じたので、
「電話をかわってくれる?僕が話す。」
と言いました。彼はほっとした様子で、すぐに何か訪問者と話している声が聞こえてきます。張りつめた無機的な声が受話器を通して私の耳に入って来ました。
「オフィサー・マックブライド、スピーキング(マックブライド捜査官です)。」
「私は弁護士の小山といいます。はじめまして。私のクライアントとは、私の許可がない限り話してもらっては困ります。」
「弁護士さん、ご存知かもしれないが、彼の父親が昨日亡くなった。それで彼に聞きたいことがある。」
「亡くなったということは聞きました。で、捜査官が聞きたいことというのは?死亡したという事実の単なる確認ですか、それとももっと何かあるとか。」
「今捜査中なので詳しくは言えません。」
「お決まりですね。」
死亡している事実はわかっているのだから、まさに何かプラスの捜査事項があるのです。
「捜査の方向性がわからない限り、私のクライアントは連邦憲法修正5条(5th Amendment to the US Constitution)の権利を主張します。」
「黙秘ですか。」
「麻薬がらみだということを耳にしました。それに連邦捜査局が出てきているんだし。」
「…。」 
ちょっとしたため息をつきながらマックブライド捜査官は、
「それではあなたが同席しているところでシンジに質問できますか。」
「それはやぶさかでない。」
「では、できれば早急に…。」
「早急にって、いつですか。」
「今すぐです。」
相手のペースが、私のスケジュールのことを念頭に置いてくれてないなと思いつつ、私は、千穂さんに合図してスケジュールをチェックしてもらいました。緊急の用事はないので今から真治君の家に向かうことを捜査官に告げ、事務所を飛び出ました。
もう、5月も終わりです。サンフランシスコには梅雨というコンセプトはないので、昨日に引き続きからっとした天気です。何も考え事がない時の青空はなんともいえずすがすがしいものですが、今日のように考え事をしている状態ではずっしり重たく感じます。私が愛用している、10年間風雨にさらされて白いペンキが光沢を失った四角いボルボは、のそのそ真治君の家に向かって加速していきます。
何気なく、いつも聞いているラジオの88.5FMのニュースに耳を傾けると、女性キャスターが、昨日の事故は間違いなく爆発物によるものだと淡々と言葉を並べていました。ヴォリュームのダイアルを右に回しキャスターの声を車いっぱいにすると、声は死者は12名、負傷者は60名以上にのぼることを述べ、さらに大量のヘロインが爆破現場で検出されたことを報じていました。結論はまだ出ていないが、どうも麻薬の密輸やマフィアに関係があるだろうと推測していました。死亡した人の名簿の中に福本氏がはいっていました。捜査は続行しているということでニュースは終わりました。ダイエット食品のコマーシャルにかわったので、私はラジオを切りながら、軽く舌打ちをしました。父親の死、それに麻薬の捜査。あのか細い真治君が正直言って心配になってきました。昨日会った彼は非常に無口で、一言で言ってしまえば「世間知らずのおぼっちゃま」という感じです。アメリカの刑事システムは、悪く言えば非常に雑なところがありますから、果たして彼はうまく乗りきれるのか…。依頼人を選択するのも弁護士にとっては非常に大切なことです。まあ、なるようになっていくでしょう。
 
方向音痴のわたしもサンフランシスコ市内であればそれほどガソリンを無駄遣いせずに目的地を検索できます。3時半には真治君の家を発見することができました。シークリフは、一般にいう「成功した人」や「えらい人」が住んでいる高級住宅地で、小さい家でも一億円では買えません。飛行機の席ごときでぶーぶー言っている私にはまったく縁のない地域です。福本家も緑に囲まれたスパニッシュ風の大きな家でした。白い壁に、レンガがふんだんに使われ、鉄柵には蔦なんぞが絡まっています。ガレージも車が3台入るスペースがあるようですが、今はガレージの前にFBIのものと思われる汚い黒塗りの大きなフォード・クラウン・ヴィクトリアが二台、無造作に停められてふさがっています。アメリカのフルサイズ・カーは本当に畳が走っているように大きい。私は自分の車を路上駐車して足早に入り口の大きな鉄柵のゲートに向かいます。入り口付近にロダンの考える人のようにあごに手をもっていきつつ腕を組んでいる白人が二人、玄関のドアが開いたところに扉が閉らないように靴で押さえているヒスパニック系のひげを生やした捜査官が一人、目に入りました。全員ダーク・スーツ姿ですが、腰のところが不自然に膨れているところをみると銃と手錠ですかね。私を認めた白人の捜査官のひとりは、マックブライドと名乗り、近づいてきました。私は紳士的に握手をして、真治君の居場所を尋ねました。その私より背の低い警官はあごと目線で家の中を指しました。まず、真治君と二人だけで話がしたいことを告げ、ヒスパニック系の捜査官を押しのけるように家の中に入りました。ドアは閉めました。アメリカの家は結構薄暗いことが多いのですが、この家も多分にもれませんでした。また非常に広く開放的なリヴィングがありますが、電気がついていないためか、大きな革のソファにすわっている真治君がえらく小さく見えました。震えています。相当に広い家で、貧乏性の私はちょっと落ち着きません。
「真治君、僕だよ。大丈夫かい。」
真治君は私を認めると、少しほっとした様子で、こっくりうなずきました。
「何か、聞かれたりしたかい。」
「名前を聞かれました…。それからほかに誰か住んでいるかどうかも聞かれました。それで怖くなって先生に電話したんです。」
怖くて唇が乾いているのか、スムーズに話せない様子です。
「それ以外のことは話してないね。」
「はい。」
「ちょっと、待っててね。」
私は、家の外に立っている捜査官に近寄り、名刺を渡しました。捜査官は名刺の代わりにバッジを提示しました。やはりFBIです。ちなみにFBIのバッジというのは、二つ折になっている革のケースの内側の一方に金属でできたバッジがついていて、もう一方には淡い青や緑で大きくFBIと書かれています。テレビに出てくる刑事コロンボのとはちょっと違いますね。
「彼に何を聞きたいんですか。どういう背景があるのですか。」
30代のヒスパニック系のトニーという捜査官が私に対して挑戦的に口を開こうとして、マックブライドが制しました。もうひとりのダグラス捜査官は、マックブライドの背後で鋭い目をして傍観しています。マックブライドが一歩前に出て
「弁護士さん、さっきも電話で言ったとおり、今は捜査段階です。詳しくは話せないんです。」
と言いました。
「真治君の父親に何か関係があるとか。あの爆発ですかね。」
ちらっと捜査官らの表情が曇りました。しかし、彼らもプロです。間髪を入れずに、
「なんらかの関係を否定しているわけではありませんが、シンジは重要な証人です。現在のところ。」
「まずは、私自身が真治君に知っている範囲の事情を教えてもらわねばなりません。麻薬関係のことですよね。」
「そうです。シンジの証言に非常に興味あるのです。」
「今、彼は気が動転していますから、また日時を改めましょう。」
私は断定的に言いました。
「今、というわけにはいきませんかね。」 
捜査官のものの言い方が少々、威圧的になってきました。緊張がはしります。ほかの捜査員の目も厳しくなります。
「お断りします。その名刺にある私の電話番号に、明日にでもお電話ください。お互いに空いている時間を設定しましょう。」
また、トニーが乗り出して挑戦的に言います。
「われわれは今がいいと言っただろ、令状を取って…、」
それを制したマックブライド捜査官は、形式的な礼を述べ、あとの二人を従えて黙って車に戻っていきました。ガレージの前から遠ざかる車を確認して、私は暗い家の中に入り、重たいドアを閉めました。
無言のまま真治君の座っている大きなソファに近づき、真治君のそばに腰を下ろしました。しばしの沈黙。下を向いて震えていた真治君は、私の顔をすがるように見たかと思うと、
「これから僕はどうすればいいんでしょうか。本当にどうすれば…。」
私は彼の目をじっと見ながら、
「僕も今のところどうしていいかわからない。まずは君のことを教えてくれないかな。その前に何か飲もうか。」
「それじゃ、僕が何か…。」
「いいって。よいしょ、冷蔵庫はあっちだね。」
立ちあがった私は、大理石が敷き詰めてあるキッチンの奥にある巨大な冷蔵庫を開けました。そこにオレンジのサニーデライトの大瓶を発見したので、2つのグラスとともにソファに戻りました。二人で一気にごくごく飲んで、一息ついてから、私はまず真治君の父親のことを聞きました。
私の無知だったのですが、真治君のお父さんは世界的に有名な建築家であったこと、最近ではサンフランシスコ市のトレードセンターの設計を任されたこと、サンフランシスコが好きで二年前にこの家を購入したことなどを話してくれました。また、真治君のお母さんは二年前に病気で亡くなったこと、その死をきっかけに日本からサンフランシスコに移住してきたことがわかりました。
「あの、ダウンタウンのトレードセンターを手がけていたんだ、君のお父さんは。」
「そうです。」
「すごいね。もうすぐ完成するらしいけど、かっこいいデザインだよね。」
「父もすごく完成を楽しみにしていたんです。」
「残念だったね。」
私はちょっと真治君のお父さんに会えないことを自分で残念に思いました。日本人で世界的に活躍する建築家、きっと魅力的な人だったのでしょうね。トピックを変えました。
「それじゃ、君は今、学校に行っているんだ。」
「はい、市内のユニバーシティー高校にいっています。」
「あ、あの私立の。いい学校らいしいね。」
「でも、今日は休んでいます。」
「まあ、お父さんに不幸があったのだからしょうがないよ。昨日はどうしてたの?」
やっと、ジュースが胃に落ちついたようで、震えも止まった真治君は、うつむきながら言いました。
「学校から帰ってきたんですが、家にお父さんが荷物を置きに来た気配がなかったので、あちこちに電話をして聞いたんです。ハイヤー会社に電話して、やっと事情がわかって…。」
「それで、ジムと会ったんだね。」
「はい」と言いながら、真治君はぼろぼろ泣き出しました。唇を噛んでいます。
ため息をつきながら、私は真治君を勇気づけようとしましたが、まったくだめでした。見まわして、手元にあったティッシュを真治君に渡しました。
「お父さんがこんなことになっちゃって、僕、どうすればいいんでしょう。独りぼっちで。」
「…。」 
このまま、二人で感情ジェットコースターに乗ってしまうのはまずいので、事件のことを聞くことにしました。本題です。
「真治君、さっき警官が話していたんだけど、何か麻薬のことを知っているかい?お父さんが何かに巻き込まれていたとか。」
「そんなことは絶対ありません。お父さんが、そんな麻薬に手を出すようなことは、ううう。」
相当取り乱した様子ですが、真治君は何も知らない様子です。もうちょっと事情を聞きたいと思っても、彼の感情が収まるまで待つしかありませんでした。再度沈黙。時計を見るともう7時ごろですが、まだ日は高く、広い庭がくっきり見えます。
「真治君、何もないんだったらそれでもいいんだ。だけど、僕の仕事は弁護士だからね。君がすべてを言ってくれない限り、ベストの弁護はできないからね。落ちついて、なんでもいいから思い出して教えてくれ。」
「はい、できるだけ思い出してみます。」 
突然、静寂を破るようにけたたましい電話の音が大きな家中に響きました。真治君が動く様子もないので、私が音の発信源を見つけ、受話器を取りました。大きな家では電話を探すのも一苦労です。
「はい。」
「サンフランシスコ・クロニクル紙ですが福本さんのお宅ですね。ちょっとどなたか、空港の爆発に関することでコメント願えないですかね。」
「お断りします」と言いながら、私は受話器を置いてしまいました。間髪おかずにまた電話が鳴り、違う新聞社の記者らしき人が電話に出ましたが、言っている内容は同じです。うんざりしながら壊れたレコードのように「ノーコメント」を繰り返しながら、またもや受話器を電話本体に戻します。
真治君は内容がなんとなくわかるようで、あからさまに怯えていました。
「真治君、今のところ、本当にお父さんが何か麻薬にかかわっていたことは知らないね。」
「し、知りません。本当です。」
「わかった、とにかく僕がいないときには、誰にも何もしゃべっちゃいけないよ。」
「はい、でもどうなっちゃうんでしょう。」 
「どうなるかはわからない。でも、弁護士は依頼人を信じるしかない。」
「先生、本当に信じてください。」
「わかった。真治君を信じるから、君も協力してくれよ。」
そう言っている間も電話は鳴りつづけていますが、その電話の音にシンクロするように玄関のブザーが鳴りました。私が玄関に近づいたとき、今度は玄関のドアをどんどん叩きながらの、
「FBIだ、ドアを開けろ。」
という声が聞こえ、私がドアノブをひねると同時に、10人以上の男が私を押しのけるように、家に入って来ました。私の前にはさっき握手したマックブライド捜査官が立っています。彼は
「これはこれは弁護士先生、まだいらっしゃったのですか。」
と慇懃に言います。
「どういうことですか、ワラント(令状)は持っているんですか。」
「もちろんです。サンフランシスコ連邦地裁のカー判事のサイン入りでね。」
マックブライドはそう言いながら、サーチ・ワラント(捜索令状)を胸ポケットから出し、片手で私の目の高さに持ち上げて見せました。引っ手繰る様にして目を通すと有効な令状に違いありません。1時間前に発行されたのですから、充分準備をしてから連邦地裁に行ったのでしょう。プロバブル・コーズ(Probable Cause被疑事実)の欄には麻薬取引関連とあり、目的欄には麻薬の押収と記載されています。
その場で、私はパニックするよりも、なぜあの冷静なカー判事を説得するだけの被疑事実が見つかったのかを考えました。令状が発行されるのは裁判官が必要と認めた場合に限られますから、令状が発行されている以上何らかの物的証拠か、証人の証言があったはずです。私の
「ブツが出たんですか。」
という問いに、
「爆発したのは、福本さんの荷物なんですよ。」
とマックブライドは事務的に言い放ちました。
「え、空港での爆発の原因は福本氏の荷物だったのですか?」
「残念ながらそのようですね。」
そのとき、真治君の悲鳴が私の背後で聞こえました。振り向くと、真治君は二人の捜査官に床に押さえつけられ、フリスク(身体検査)をされていました。
「乱暴するな」と駆け寄った私に、
「弁護士さん、捜索現場にいる人物はフリスクの対象になるのをご存知でしょ。」
とさっきもいたヒスパニック系の捜査官、トニーがつぶやくように言いました。
「危険性も認められないのに自由を奪うような形でのフリスクは許されていない。真治君を離せ。」 
断定的に言った私に敏感に反応して、捜査官は手を緩めました。自由を取り戻した真治君はばねのように飛び起き、私の背後に隠れました。舌打ちをしたトニーはその場にいた自分の部下らしき二人の捜査官に他の命令を飛ばしました。その二人はトニーの命令に忠実に私の視界から消えていきました。
「それでは、紳士的にフリスクさせてください。」
とひとりになったトニーは私の背後に手を伸ばし、真治君にフリスクを始めました。真治君は権力の圧力を感じながら黙って耐えていました。
「あなたの態度は、捜査官としてちょっと問題がありますね。」
「捜査は捜査です。」
「弁護士の見ている前で、ああいうことをするとそちらに都合がいい証拠が見つかっても、裁判で違法収集証拠にされちゃいますよ。連邦憲法修正4条をご存知でしょ。警察学校で習っているはずだ。」
トニーはマックブライド捜査官にたしなめられたこともあって、早々にフリスクを終え、私の前から姿を消しました。結局、真治君からは何も違法なものは発見できませんでした。
捜査官としゃべってもこういう状況では意味がないので、捜索が終わるのを待ちました。真治君は不安を少しでも和らげるかのように私に寄り添っていました。私のそばに立っているマックブライド捜査官も無言です。どれほど時間が経ったでしょう、黙々と目的なく家中を散らかしていた捜査官のひとりが
「ガット・イット(あったぜ)」
と低くうなりました。他の捜査官も叫びました。
条件反射のように小走りにその声に近づくマックブライドの後を追って、私も真治君を連れてついていきました。ガレージに赤いシボレー・コルベットが停めてあります。その脇にある作業台の棚の回りを何人もの捜査官が屈み腰になって取り囲んでいます。
ほとんど捜査官の全員が満員電車のように福本家のガレージに集まっていました。ぱちぱち光っているカメラのフラッシュがまぶしい。キャンプ用の青いアイスクーラーの蓋があけられ、中には小麦粉をちょっと黄色くしたような粉末の入った透明なビニール袋が5つほど並んでいました。ポケットの中から簡易の化学調査薬を取り出したひとりの捜査官がビニール袋を開け、中の粉末を調査の液体と化合させると液体が赤くなりました。その液体を右手に持った捜査官は、左手の親指を上に突き出しました。
 「間違いありません。」
FBIと黄色い文字で背中に入ったジャンパーを着たほかの捜査員が屈み腰で袋を検査していましたが、全員立ちあがりました。マックブライドと目を合わせうなずくと同時に、捜査員が私のうしろに立っていた、か細く痩せた真治君の手を後ろに回してミランダ・ワーニング(逮捕時に被疑者の権利を告知する文章)を唱え始めました。
「被疑者には黙秘権が与えられる。」
「その黙秘権を知りつつ発言した場合には法廷で使われることもある」
「弁護士に委任する権利があり、充分な弁護士費用がない場合には公選弁護人がつくことになる…。」
私はミランダ・ワーニングをじっくり聞いていましたが、さすがにFBI、ミスはありませんでした。私はミランダワーニングが終わるのを待って、
「ちょっと待ちなさい。現行犯逮捕ではないではないですか。彼には関係がない。」
と指揮権をふるっているマックブライドに言いました。
「現行犯逮捕でない?立派に麻薬を所持しているじゃないか。」
「少なくとも彼が所持していたとは立証されないだろ。」
「それは、裁判で争ってください。弁護士さん。れっきとした麻薬がでてきたんだから。」
もう、声も出ない真治君はぼろぼろ頬に涙の線をつくり、私の目を見ていました。私は
「未成年なんですから、後で私が連れて出頭させます。」
と言いましたが、
「それはだめだ。」
とマックブライドは断定的に決めました。
麻薬の証拠、それに空港での物的証拠、逮捕には充分過ぎる材料です。私は先のことを考えました。
「絶対、何もしゃべってはいけない。すぐに君に会いに行くから。」
「何も持たせてもらえないのですか…。学校もどうしよう。父親のことは…。」
「とにかく今は君の嫌疑を晴らすことが先決だよ。とにかくすぐに行くから。」
真治君と私の日本語での会話を訝っていたマックブライドは、会話が途切れたところで真治君を建物の外に停めてあった先ほどの黒塗りのフォードの後部座席に押し込みました。
他の捜査員も探していた麻薬がでてきたこと、それに望んでいた逮捕ができたことで捜査に一区切りをつけ、ぞろぞろと家の外に出て行きました。ただし、福本氏の寝室や書斎にあった大量の書類はしっかり押収していました。すべての捜査官が家の外に出たところで、私も外に出ました。車の後部座席に座らされた真治君がすごくやつれ、小さく小さくなっていくのが見えました。振り向いて私を見ています。サンフランシスコの夜はとっぷり暮れて、私が勝手に家の鍵を探し、見つかったところで施錠して外に出たころには、闇が街を包み込んでいました。野次馬はいませんでしたが、隣家の窓についたカーテンの隙間から、こちらを伺っている様子がよくわかりました。昼間から置きっぱなしだったボルボに乗り込みイグニッションをかけて、ハンドルに両手をおきながら、私はこれからのことを考えて深いため息をつきました。

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