訳例:補償(場合によっては求償)
条文のタイトルには、「Indemnification」と書いてあるものが多いが、実際の条文では、例えば「ABC shall hold XYZ harmless for … and indemnify XYZ for …」などと記述されることが多い条項である。まず、ここから考えよう。ほとんどの訳文は、「hold harmless and indemnify」を単純に「補償」などと訳す。しかし、本来「hold harmless」については、「(ABC社からの請求に対し)XYZ社は責任を負わない」という「盾」の意味合いがある。対して、「Indemnity」は、「XYZ社は、(ABC社に対して)賠償・補償を請求できる」という「剣」の意味合いがある(Queen Villas Homeowners Assn. v. TCB Property Management, 149 Cal. App. 4th 1)。現在では契約書面が発達しているので、両方のコンセプトが融合して規定されているのは間違いない。しかし、契約書に携わる者であれば、飛ばし読みしないで丁寧に内容を理解しておくことが必要である。 カリフォルニア州法における「Indemnification」という言葉を正確に理解するには判例に当たらなければならない。カリフォルニア州最高裁判所の判例(Prince v. Pacific Gas & Electric Co. (2009), 45 Cal. 4th 1151)は、「Indemnification」には、2つの類型があると判示している。1つ目は、契約上に明示されているもの、2つ目は契約から発生する黙示(Implied)のもの(事実関係に基づいて衡平の観点から生じるもの)である。他に法定されているものがあるので、合計3つの類型があることになる。 2つ目の黙示の「Indemnification」は、契約書に「ここで明示されているIndemnification以外は認めない」といった文言があれば、原則として生じない。しかし、それでも、衡平の観点から例外的に補償責任が発生するリスクを完全には拭うことはできないので、契約締結時には判例等をあたって、リスクを想定しておくのが望ましい。 3つ目の類型に関しては、契約に適用される法の精査が必要となる。特に建築関係などには、Indemnificationに関する特則(Cal Civil Code § 2782.05)が用意されている。契約書締結前に適用条文を確認して、リスクを想定するべきである。 1つ目の明示のIndemnificationが、契約書に明記する内容になる。上記の2つ目、3つ目の内容を踏まえたうえで、契約内容を確認しなければならない。まず考えなくてはいけないのは、第三者だけでなく、当事者が出てくる可能性があるということである。パターンとして(1)第三者の請求によって一方の当事者に生じた損失を求償していく(補償する)場合と(2)当事者同士の補償・賠償の場合とが考えられる。規定の仕方によっては、日本の民法でいう求償と免責の両方がIndemnificationに含まれる場合がある。したがって、Indemnificationが実質的にどのような責任を生じさせるのか、契約の文言を確認しておく必要がある。日本の求償の条文にあるように、責任の割合に応じて按分して責任を負うといった場合も考えられる。Indemnification条項については、下記述べる制限はあるが、基本的には自由に決めることができる。 カリフォルニア州において、Indemnification条項には、(例外はあるが)過去の違法な行為も対象にできる(Cal Civ Code § 2774)。他方で、将来の違法な行為は、違法と分かっている場合、対象にはできない(Cal Civ Code § 2773)。日本法では、違法な行為に対する償いは「賠償」といい、適法な行為によって生じる損失の「補償」と区別されているが、Indemnification条項は、「補償」と「賠償」(の一部)の双方を対象に取り込める。したがって、「Indemnification」を単に「補償条項」と訳すのは、物足りない感がある。まとめると、Indemnification条項は「生じた損害の填補、補償、賠償」を含むので、厳密さを求めるなら、このように訳すのが実務上の意味に最も近いのではないかと思われる。 なお、カリフォルニア州法に基づいてIndemnification条項を精査する場合、カリフォルニア州民法第2778条(Cal Civ Code § 2778)に注意を払わなければならない。この条文には、契約上Indemnification条項で不明な点がある場合の解釈基準が規定されている。興味深いのは、賠償責任(Liability)と(第三者からの)請求(Claims)の両方に言及していることである。ここでは、Indemnificationに関わる費用等の分配、第三者から請求された訴訟の防御をあえてしなかった場合の責任の所在(求償ができるか否か)、第三者の損害についての判決が出た場合にIndemnificationが争えないと規定された場合の処理などが書かれている。 訳例:準拠法・適用法令
契約書の中に準拠法(適用法令)を定めることで、その契約を補充する一般法となったり、契約解釈の指針となったりする。そのため、準拠法にどの法律を選ぶのかはとても重要である。準拠法を日本法にするか、アメリカのカリフォルニア州法にするのか、インコタームズ(Incoterms)にするのか、様々な選択肢がある。通常の国際取引では、契約書の中に準拠法を記載するため、当事者は契約作成に、選択肢の中から準拠法を選ぶことになる。加えて、契約で明確に適用を排除しなければ適用される法令や排除できない強行規定にも注意しなければならない。 準拠法を選択する際に、日本の企業で「日本法じゃなければ嫌だ」という態度を崩さないところもあるし、アメリカの企業でも同様の態度をとるところも少なくない。確かに馴染みのある自国の法律を準拠法とした方が安心感はあるだろう。しかし、日米にまたがった契約を締結する際には、どの準拠法が紛争解決に適切かを考える視点も重要である。債務不履行の成立要件や責任の範囲等は準拠法によって異なってくる可能性がある。どの準拠法によることが紛争解決に適するかを判断するには、訴訟実務に精通していることが望ましく、契約書作成に携わる担当者、担当弁護士には、少なくともその素養が求められ、可能であれば各関連国の準拠法及び訴訟実務に精通する弁護士からそれぞれ意見を得ることが理想的である。 次に、準拠法を選ぶ場合、「契約全体に一つの国(または地域)の法が適用されなければならない」という決めつけは不要である。契約条項から派生する紛争類型の性質を踏まえ、その条項に適した適用法令を考えることができる。 もうひとつ付言すれば、準拠法の条項は、しばしば裁判管轄条項や仲裁条項と並んで(あるいは混ぜて)記載される。両者の関係にも注意したい。準拠法と裁判管轄や仲裁の場所が一致しない場合(例:日本法に基づきカリフォルニアで裁判)は、敢えてそのような複雑な規定にすることが、本当に紛争解決に資するのかは検討が必要である。特に、裁判以外の代替的紛争解決手続き(Alternative Dispute Resolution)の条項を設ける場合、どのような代替的紛争解決手続きを用いるかに関しては、その紛争解決手段の内容や適用規則をよく理解し、紛争解決に最適な手段を選ぶ必要がある。 訳例:見出しは参考に過ぎない(実質的な契約内容ではない)
日本でも、法典には「第●条 ●●●」と条文にタイトルがつけられていことがあるが、米国でも同様である。米国の契約書式には、第何条といった条文番号のあとに、当該条文の内容を示す見出し(まとめ)が書かれることが多い。HeadingまたはTitleと呼ばれ、たとえば、「権利の譲渡」とか「当事者」といった書き方になる。 裁判では、契約書の条項があいまい又は誤解を招く場合、契約当事者の意図を解釈するために見出しが使用されることがある。もっとも、見出しの記述が問題となることは、現実的にはあまりない。したがって、見出しは参考に過ぎない(実質的な契約内容ではない)、とする条文は注意規定の意味合いが強い。 実質的な契約内容になるのか否かを明らかにしておくという観点からは、当事者や目的物を表現する場合の単数形・複数形の使い分け(日本でも、「子」と「子ら」のように単数形と複数形を使い分ける場合がある)、および、主語の使い分け(男性(he)、女性(she)、性別がない場合(it)、性別が「男・女」での表現が妥当でない人物の場合(they)など)を当該契約においてするのかしないのか(つまり、これらの表現の違いが契約内容として意味があるのか否か)を確認し、必要に応じて契約書でも言及しておくと良い。 見出しの記述がなくても契約書の効力には影響ないが、実務的にはあったほうが効率が良い。法廷や調停、仲裁などで契約書の内容を短時間で確認しなければいけないとき、コツはあるのだが、重要な条文をまずざっと確認するための指針になる。もちろん、全体を見る必要はあるが、まずは、重要事項を確認し、交渉を継続するか、合意するか、などを決断するための補助となる。また、実務で契約書に多く携わる人にとっては、条文の見出しの記述を箇条書きにしてストックしておくと、新たに契約書の確認をする際の指針にもなる。 本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== もうだいぶ前になりますが、犬の飼育場にかんする事件を扱ったことがありました。日本に輸出する犬をしばらくアメリカ側管理しているビジネスがあったのですが、犬が怪我をしたり、病気にかかったりして、日本側で引き取り手がいなくなってしまったのですね。そんな事件にかかわっていたのです。詳しいことは書きませんが、事件はこじれて、日本側では引き取らない、そしてアメリカ側では引き取ってもらわなくては困るということで、押し合いへし合いになりました。 また、時間が経つにつれ、両当事者とも「いらない」という態度をあらわにしてきました。何度も交渉を続けましたが決裂、ミーティングも平行線になりっぱなしです。 日本側の主張は、いったん病気や怪我をしてしまうと「商品価値」がないというのですね。私は勝手にそんなに深刻な病気や怪我だと最初は勘違いしていました。 事件の進行にあわせて、その問題の焦点となっている犬を見に行くことになり、出張をしました。その飼育場にはたくさんの犬がいました。私や他の弁護士が入っていくと、警戒したのか「わんわん」の大合唱です。アメリカだから「バウワウ」でしょうか。しっぽをふっているやつもいれば、じっと見ているやつもいます。一通り、日本側の「引き取りたくない」という立証のための飼育場の衛生面や設備などを観察しました。 びっくりしたのは、思っていたほど汚くないし、逆に管理に重大な過失があったとは一見しては見えなかったことです。もちろん口には出しませんが、目にとまる点をじっくり検分しました。 次は問題となっている犬を観察しました。ところが、すべての犬は元気なんですねぇ。大きいのも小さいのもしっぽをふって人なつっこく振る舞っています。怪我をした犬というのも元気に走り回っていました。病気で毛が抜けたという犬もほとんど治っているようです。「証拠」であるし「商品」であるからと触らせてはもらえませんでしたが、遊べるものならすぐにでも遊んであげたい犬ばかりでした。 出張から帰ってきて、記録を整理していると、どうみても犬の「商品価値」というものは、病気もなし、怪我もなしというまったくパーフェクトな状態でないと劇的に下がってしまうという記述を見つけました。私はそれを見て考え込んでしまいました。 犬の「価値」って何なんだろうって。なんでも、コンテストなどに参加するには「厳しい」基準があるんだそうです。人なつっこいだけではダメなんですね。「犬の世界」というのは厳しくて、例えば一回ドッグフードの宣伝に出ると何年間かは他の広告の対象にはなれないなどというルールもあるのです。これでは「人間の欲の世界」ですよね。裁判の記録を読めば読むほど気が滅入ってきてしまいました。検分してきた犬たちのことが頭から離れなくなってしまったのですね。人間が犬を「商品」として扱うために、人間の欲のために、裁判をしているのです。考え込んでしまいました。犬にとってはいい迷惑ですよね。 私は動物が一般的に好きなのですが、特に犬が大好きです。私の家では私が生まれたときから、雑種のゴローちゃんというのがいて、私が赤ちゃんの時に突然病気になったらしいのですがゴローちゃんは家の人に吠えて知らせてくれたそうです。私が良く覚えているのは、シロちゃんという秋田犬のことです。私が小学生の頃からもらわれてきて、家の庭でよく走り回っていました。毎日、朝晩は私が散歩に連れて行き、近かった多摩川の河原で時間を忘れて遊んだものです。いつも一緒にいました。そのシロちゃんが私の家が引っ越すのを境にもらわれていきました。最後にもらわれていく朝、私がドッグフードをいつものようにあげると、おいしそうに食べましたが、悲しそうな顔をしていました。車の後部に載せらたシロちゃんは、見送る私の顔をじっと見ていました。以後、シロちゃんとは会っていませんが、もう他界したのではないでしょうか。 今でも夢でシロちゃんがよく出てきます。一緒に遊んでいたり、ご飯をねだっていたり。シロちゃんがいなくなった時を境に、私はもう犬を飼えなくなってしまいました。お別れをするのがあまりにも辛すぎます。あんな思いをするのはもうだめだと思います。年をとって、私の方が先に死ぬくらいになったら、また飼いたいと思っています。 話を戻して・・・そんなバックグラウンドがあるため、この事件に対して私は自分がなぜか「冷めている」部分があるなと思いました。結局は「お金で」片づきましたが、事件が当事者間で解決しても、なんとなく私の心にはしこりが残っていました。人間たちは満足していたみたいだけど、犬たちはどうなっちゃったんだろう・・・。しばらく経って、その飼育場に人を介して連絡してもらいました。話ではなんとか飼い主が決まったようで、安心したのを覚えています。あの人なつっこい犬たちが今でも幸せに暮らしているといいな、なんて思い出します。 移民局は2019年度の第一四半期のH-1Bビザ申請に関し、全体の申請の60%についてRequest for Evidence(証拠書類の要求)を雇用主に要求したようです。これはかなりの割合です。最近のRequest for Evidenceで目立つのは、平均賃金に関しての証拠書類の要求です。
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