Considerationというのは、英米法においては契約成立の絶対要素である。日本法ではOffer(申込)とAcceptance(承諾)で契約が成立するとされているが、英米法では、これらに加えてConsiderationというのが、必要不可欠とされる。
なぜか。日本では贈与や使用貸借は「契約」になりうるがアメリカでは契約ではない。契約の必要不可欠な要素であるConsiderationが基本的には存在しないからである。では、Considerationとは何か。従来の法律辞書などでは「約因」などと訳されるが、そもそも約因という言葉は日本の民法には出てこない。民法の大家である鎌田薫教授の授業でも「約因」などという言葉はまったく出てこない。「約因」という日本の法律にはない造語がどこから出てきたのかはわからないが、翻訳や、外国の法律文書の解釈の場面では「約因」を使わない表現も検討する方が良い。 アメリカのロースクールの契約法の教科書に出てくる判例の変遷をちゃんと読むと、結局Considerationというのは、「対価を交換すること」に尽きる。「対価の交換」といえば、パチンコ屋の換金でも出てくるのでわかりやすい。日本の民法にある、「贈与」や、「使用貸借」は、対価の交換がないのが前提である。一方的に贈与者が受贈者に「あげる」だけだからである。まず、In consideration ofというフレーズを訳す前に、コンセプトとして、日本は単に物や金をあげても契約になるが、英米ではそんなことはありえない、という法律的な文化の差を理解しておく。そうすると、契約書でなぜ、In consideration ofというフレーズが多用されているのかわかる。Consideration、すなわち「対価の交換」がなければ、契約としてそもそも成立しないからである。契約法の授業でも、Considerationについて、かなり判例が取り上げられることからもわかるように、今まで、「対価の交換がない」として争われてきた例がいくらでもある。なので、契約書には、Considerationという言葉をできるだけ使って、対価性があるように、印象づけるということがある。 ギリシャの船がアメリカで拘束され、その拘束期間中に、通貨の大暴落があり、「交換価値がない」ということで契約の不履行があったのかどうかが争われた判例がある。色々判例の変遷はあるが、「交換価値があれば、1セント、1円の価値でも交換すれば、契約の内容になる」というのが、今の常識である。なので、交換価値は義務でも良い。草むしりをするから、プライベートジェットと交換しよう、といえば、交換価値はあることになる。要するに、何か金銭で表現できるようなことがあれば、交換価値があるということになる。そういう実務の感覚から、できるだけ、Considerationという単語を多用しようということになるのは自然だ。 以上を踏まえると「対価の交換」というのが、Considerationの趣旨となるし、英米法ではConsiderationがなくてはならない契約の部品であるから、「対価の交換」ということを前面に出す訳し方をすれば、十分である。場合によっては、「Aの対価として、B」ということもあるだろうし、「本契約上の義務の履行の対価として、」と訳せる場合もあるだろう。どちらにしても、「対価性」を書面上表しておけば訳文としては十分かつ妥当である。 米国法において(少なくともカリフォルニア州法によると)、Recitalは契約法上、法的な効力を認められている。Recitalには特に法的な効力はないという無責任な解説も散見されるが、それは間違いである。したがって、Recitalの内容については、署名する前に十分に確認および吟味しなければならない。
Recitalのなかに、いつくかの事実を述べたセンテンスが包含されるのが米国における契約書の実務としては一般的だが、この各センテンスの前にWhereasと記載されることがある。契約書に限らず法的な文書、格式張った公的な文書には、このWhereasからはじまるセンテンスが多くある。 Whereasは一般的な使用法では比較をするときに出てくる。「東京は雨である「が」大阪は晴れていた」という文章の「が」に相当する使い方である。しかし、現在、米国の法律文書において、Whereasをこの「が」という意味で使うことはない。結論からいうと、Whereasを法律文書において訳す場合は、「ここに[事実関係]であることを確認する。」としておけば良い。 ところで、Whereasのこの用法は、米国でも法律文書以外には出てこない特殊なものであり、日本語に直訳することはできない。したがって、Whereasが現在使われている状況を把握しなければならない。 まず、現在、米国で法廷活動をしていて、たとえば口頭において、和解内容を両当事者が裁判所の面前で陳述したとしよう。このような場合、まずWhereasという言葉は使わない(サンフランシスコ州裁判官として執務している筆者の一人も、Whereasを裁判所内の和解内容として記載したことがない)。裁判所においては、すでに意思も確認できる場が用意され当事者も揃っているので、形式張らないでも、裁判官の合いの手とともに、内容さえ確認すれば良い。そうすると、わざわざ書面においてWhereasを使うことには、法廷に不在であっても、書面において、事実関係を「確認する」という意味合いがある。 次に、現在では、法律文書におけるWhereasには一定期間「継続している(していた)事実関係」を確認するという意味合いがある。離婚の調書などでは、Whereasと書かれていれば、夫婦関係についての変遷が記載されていることもわかるし、株主総会、取締役会決議などでも多用されるが、審議された事実関係の内容がわかる。そして、そもそも事実関係を記載する趣旨は、それが契約内容の一部を構成している以上、事実関係に間違いがないかを「確認する」ためということになろう。 上記から考えると、現状において、Whereasという単語が出てきた場合には、「ここに(この契約書、または書面において)[事実関係]を確認する。」と訳すことが妥当といえる。 そして、繰り返しとなるが、契約書のRecitalsに書かれている確認事項(Whereas)については、一定の法的拘束力が認められている点に留意が必要である(詳細はRecitalsの項参照)。 MSLGは、近時特に多い、新規問い合わせ内容である、契約・法律文書のレビューに関し、オンラインでスムーズに行えるよう、日本在住の方々(企業・法律家の皆様)が米国在住の実務家にアクセスしやすいフォームをつくりました。新規の方はぜひ見積もり用にお使いください。なお、既存の顧問先のクライアントの方々、旧知の法律家の方々は、今まで同様に直メールをいただければ幸いです。。米国実務の第一線のノウハウを日本にいながらアクセスできる、ということを趣旨にしています。
「Recitals」と検索エンジンを引くと、間違った解説がかなりあったので、どのように訳すかを含め、すっきり整理しておきたい。法律家とはいえ、よくリサーチをせずに一般的なセンスで考えると間違っている良い例である。
米国で使用する契約書(英文契約書)には(主に最初のページに)Recitalsと書かれたセクションが頻出する。 1 Recitalsというのは、「Re」と「Cit(e)」という2つの音節(音節についてはまた別稿で)が入っていることからも明らかなように当事者が関係する「過去から今まで(契約締結時まで)のこと」を書いている。それだけである。色々難しいことを解説しているが、実務家にとっては、Recitalsというのは、過去から今までのこと、今現在進行しているビジネスの関係を将来まで取り決めるのが契約本文であることを覚えておけば良い。したがって、契約本文に過去のことは入れない、Recitalsには将来のことは入れない、というのが決まりになり、ルールとしてはこれを覚えておけば十分である。 2 Recitalsについて、上記1が実務家としてシンプルに抑えておけば良いポイントであることから、実質的Recitalsの訳とすれば「この契約に至る経緯」とするのが最良である。「まえがき」など決して訳してはいけない。一体なにの「まえ」なのかまったくわからず正確性が担保されない。他の訳し方も、実務では表現としては不足である。中途半端な訳をするなら、リサイタルと英語で書くほうがまだ良いかもしれない。 3 Recitalsは、あたかも法的効力がないような解説をするウェブサイトや書物も多くあるが、とんでもない間違いである。米国実務経験の乏しい法律家は、Recitalsは「一般的なまえがき」なので、法的効力はなく、(法的効力を持たせたければ)契約本文に組み込まなければならない、と平気で書いているが、明らかにカリフォルニア州では弁護過誤になる内容である。 まず、カリフォルニア州証拠法622条には、「契約書のRecitalsに規定された事実は約因を除き、真実であるとみなす(要約)」と規定されている。法的効力があるのだ。また、契約書の文言に疑義が生じた場合、Recitalsを解釈の基礎とすることができる(カリフォルニア州民法1068条)と規定されている。このように条文によって解釈の基礎とできると規定されているので、裁判において、Recitalsは事実審において証拠となり得るのである。 4 以上のとおり、米国では(少なくともカリフォルニア州の条文上は)Recitalsは(約因を除く)事実を真実とみなす効果を持つので、慎重に記述しなければならず、また、契約本文の解釈に疑義がある場合には、Recitalsは解釈の基礎となりうるため、Recitalsと本文に連続性がある書き方を心がけなければならない。 MSLGの弁護士が09-14-2018付の「じんけんニュース」を配信しました。長文です。
【抜粋】 ■ トランプ政権下の外国人の入国・滞在について NTA(Notice to Appear)を中心に 0 まえがき オバマ前政権下では、アメリカへの移⺠が増え続けていましたが、現政権になっ てから、移⺠は減り続けています。移⺠局が発表しているデータがそれを表して います。今までアメリカにはない、移⺠政策が現状で展開されています。よく人 から、「なぜ、入国管理などの記事を書いているのに、『じんけん』なのだ」と言 われますが、おっしゃる通りで、もともと Jinken.com は移⺠や入国管理のことだ けではなく、広く人が関わる権利義務について取り扱っていきたいという意味が あります。今回考えるトランプ政権の進める政策は、今まで「不法移⺠を許さな い」と言っていたはずですが、「合法的に滞在している外国人」だけでなくアメリ カに「永住する外国人」に対してまで、「外国人」というくくりで締め付けをはじ めました。・・・ 米国移民局の発表では、約4万5千人の永住権保持者が市民権者となりました。
2018年度には、約82万9千人が市民権を申請しています。約91%の申請が近年では認められています。 8月末に、移民局が発表した内容によると、現状、H-1Bビザの優先審査(Premium Processing)サービスを一時取扱停止にしている件で、停止の効力を2018年9月11日までとしていたが、2019年2月19日まで延長すると発表した。したがって、H-1Bビザの優先審査を申し込んだ申請は優先審査の部分につき受理されないという状況が続く。なお、新規発行枠を利用しない、更新等の申請に関する一部の優先審査サービス、および2018年9月11日より前に優先審査を受理された申請案件については、そのまま優先審査が行われることが明らかになった。
MSLG弁護士が執筆した法律ノートがHawaii Pacific Press (No. 768 September 1, 2018)に巻頭記事として1面で取り上げられました。「連邦最高裁判所に支持されたトランプ大統領の入国禁止政策」の副題で記事が紹介されています。
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