Marshall Suzuki Law Group, LLP
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​MSLG ブログ

米国国籍喪失と移民局の最近の動き

5/30/2019

 
以前もお伝えしましたが、現政権のもと移民局は市民権申請において、申請の条件としての重要な項目に関し、嘘の情報を申告した人を見つけるよう調査をする手段を強化しています。例えば戦争犯罪者の経歴がある市民権申請者で、市民権申請の際その犯罪を申告しない場合が考えられます。移民局はこのようなケースについては、国外追放等の措置をとります。全体の市民権申請者の数に比べれば、そのような措置がなされるケースは非常に少数ですが、最近はかなり増えているようです。
また、移民局の調査関連の予算として$207.6 millionが要求されています。

法律ノート 第1162回

5/29/2019

 
MSLG弁護士による「法律ノート」第1162回がメーリングリストにて配信されました。

【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

5/29/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第18回目です。

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第18章 監禁 (Incarceration)
 
冷たいコンクリートが頬にあたる感触で、私は目を覚ましました。頭がズキズキしますし、目も痛い。それに暗いのであたりも見えません。一瞬もう目が見えなくなったのかと思いました。自分がどこにいるのかよくわからず、何時なのかもよくわかりません。しばらく目を開けていると暗闇に目が慣れてきました。目の焦点も暗闇なので合っているのかわかりません。手で目をこすろうと顔に手を持っていこうとしても手が自由にならないことに気がつきました。ナイロン製のひもで後ろ手に、そしてご丁寧に脚まで、きつく縛られているらしくまったくが動きません。少々うめき声を出しながら一生懸命に手足をよじってみますが、どんどん手足にひもが食い込むばかりで、まったく逃れることができません。
「先生、小山先生…。大丈夫ですか。」
  かろうじて声の主が真治君だとわかります。
「真治君かい? そこにいるんだね?」
「どうしてこんなことに。」
「よくわからん、捕まってしもうた。生きているんだね、真治君。」
「先生、一体…。」
私は真治君が生きていることを確認しただけでもほっとしました。
「学校の帰りに連れてこられました…。」
声を聞くと相当に弱っています。それでも、真治君が生きていることに感謝しました。
「真治君、僕たちがいる場所、どこだかわかるかい?」
「わかりません。でも、自宅からそんなに遠いところじゃないと思います。目隠しをされて車のトランクに入れられた時間がそんなに長くないから。」
完全に目が慣れてきました。ドアの下の隙間から入ってくる光を頼りにまわりを見まわします。たくさんの箱が所狭しと積み上げられています。ひとつの白い箱の側面を目を凝らして見てみると、誰だか人の名前が書いてあるような気がします。人の名前といってもよく見ると、何々VS何々と書かれていることから訴訟で使われたファイルが入っている箱なのでしょう。とすれば、ここはカニングハムが過去に扱った事件のファイルをしまっている倉庫かもしれません。しかし寒い。
「先生…。」
と言った瞬間、真治君は咳き込んでいます。液体の混じる音が聞こえます。
「だ、大丈夫かい。」
「僕は大丈夫です。」
「お腹減ってないかい?」
「カップラーメンでもあればお湯沸かして欲しいですよ。」
心持ちは元気なことがわかって安心です。話をしていると頭がまた痛み出します。昨日の深夜に捕まったことはわかっています。ただ、どのくらいの時間がたって現在一体何時なのか見当もつきません。腕時計も取られてしまっているようですし、 携帯電話も見当たりません。私は水曜日の朝の法廷が気にかかりました。とにかく私は起訴取下げの申立ての審理に出なくてはなりません。
 (くそ、こういうときにマックブライドが来てくれたらいいんだよな、税金払ってるんだから。)
「先生、僕たちどうなっちゃうんでしょう。」
真治君は投げ出すように言いました。
「怖いかい、真治君。」
「ううん、全然怖くはない。」
「それはいいことだ。」
「先生は怖い?」
「僕は怖いというより、君の起訴取下げの申立ての審理に出れなくなっちゃうことが不安だ。」
「まだ仕事のこと考えているんですか。」
「最悪だよね。」
「でも、そんな仕事に熱中できる先生に会えて本当に良かったです。色々教えてもらった。」
「ぼくも、真治君に会えてよかった。君はタフな男になってきた。その過程を見れてうれしいよ。」
遠くから複数の足音が聞こえてきます。
「真治君、黙るんだ。」
押し殺した声で私は言いました。ドアが開かれる音がします。開いたドアから光が漏れ、真治君も私と同じように体を縛られている様子がわかります。暗くてよく見えませんが、真治君の体が血まみれになっている感じがして不安に刈られます。入ってきたのは二人の男達です。
「二人ともぐったりです。」
入ってきた一人が言いました。その男の一言に反応するようにもう一人の男が
「パームに付いては二人ともまだ吐かないんだな。」
といいます。どこかで聞き覚えのある声です。薄目を開けてよく目をこらしてみると、カルガモ一家のひとりです。一番若手の弁護士で、この間法廷でも出くわしています。私の体は汗ばみました。
「このガキは痛めつけても一切知らないで通している。弁護士の方に聞いてみる方がいいかもな。体まで張ってクライアントを守る馬鹿はいないだろう。」
そういってカルガモ弁護士と話をしていた一人が一旦部屋を出ていって、すぐに戻ってきます。手にバケツを持っています。
真治君も私もじっと息を殺しています。
その男の顔が見えました。サン・パブロのカジノでリック・ギャリソンと一緒にいた男でしょう。その男はバケツに一杯入っていた水を私にかけます。
「起きろ、小山!」
その男は叫びました。私はあえて返事をしませんでした。私が返事をしないことを覚るとその男はバットのようなもので私の体のあちこちを殴ります。私はうめきました。
「パームはどこにあるんだ。言え!」
「知らない。」
 拷問は相当長い間続きました。私は決してパームについてしゃべりませんでした。パームの行方がわからない限りは、カニングハムの喚問が終わるまでは私を殺さないであろうと読んでいたからです。私は血で床を汚していました。
しばらく傍観していたカルガモ弁護士は、私を殴っている男に中止するように言い、二人はドアを再度閉め出て行きました。
真治君が小声で、先生大丈夫ですかと何度も聞いています。私はうめき声が出るばかりで、声になりません。また気を失います。
どのくらい時間が経ったのでしょう。私は長い時間意識がありませんでした。それでも貪欲に眠っていたようで、気力はまずまず回復しています。私は起きて動かせるだけ自分の体を動かしてみます。骨は折れていないようです。真治君もじっとしていますが、声をかけると返事をしてくれます。
 しばらくどうやって抜け出すかひそひそ真治君と打ち合わせをしているとまた複数の足音が聞こえてきます。部屋の外で話し合う声が聞こえます。
「あとグランドジュリーまで時間は?」
「2時間少々ではじまります。」
「無事にすむことを祈っている。」
真治君と私は一切黙っていましたがもう水曜日になってしまっていることがわかりました。起訴取下げの申立ての審理が気になってしかたがありません。会話が途切れると、また男達が部屋に入ってきます。今度は開かれたドアから煌煌と明かりが差し込みます。太陽が上がっているのですね。よく見ているとまたベーツ&マコーミックのカルガモ弁護士に間違いありません。カニングハムの手下です。
「それじゃ、見張りはよろしく。」
もうひとりの男…あのサンパブロ・カジノで出くわした男でしょう…を部屋に残しカルガモ弁護士は行ってしまいました。私は歯軋りしました。口に食い込む口輪をなんとか緩めようと努力しました。声がしたほうで明かりがつきました。まちがいなく書類の置いてある倉庫です。その明かりで立っている男がカジノであった青い目の男だとわかりました。
一旦、明かりをつけたまま、青い目の男は倉庫を出て行きました。
真治君のほうに体を向けてみると、全身あざだらけでひざやひじが血まみれになっている真治君が目に入りました。
「大丈夫かい…。」
真治君はしっかりした目で私を見ました。
「大丈夫です。先生までこんなことになってしまって…。パームはどこだと訳のわからないことを言われて、何度も殴られました。」
「ごめんね…。」
「なんなんですか、パームって。」
私は一切のことを小声で話しました。真治君に危害が加わると思い黙っていたことも。突然、真治君は私の方に芋虫のように体を引きずって移動してきました。
「先生、なんとかこの縄解けないですかね。」
まず私は口輪を歯で引き千切って外しました。そして私は真治君が後ろ手に縛られている縄を口で一生懸命外しました。緩まったところで、真治君は手の縄を外すことができました。自分の手が自由になった真治君は自分の足や私の縄を解いてくれました。私はすかさず明かりのついた入り口に近づきます。真治君も私についてきます。
しばらく、無言の時が過ぎました。
 
「真治君、よく聞いてくれ。君のお父さんが持っていたパームは、今、真理子さんに預けてある。君に言わなかったのは君に迷惑がかかると思ったからだ。」
「真理子さんですね。」
「彼女になんとか連絡をつけて、そのパームをもらわなくちゃいけない。」
「わかりました。先生、なんとかやってみます。」
「とにかくがんばるんだよ。君の無実を晴らすため、それにお父さんの無実を晴らすためにはあのパームがいる。そして、覚えているかなぁ。君の事件で行ったあの裁判所で、今、カニングハムが喚問されている…。」
「カニングハム…って、あの弁護士のカニングハムさんですか。」
「そうだ、真治君。あのカニングハムがお父さんを落とし入れたんだ。あのパームの中にカニングハムが麻薬組織と繋がっているEメールがたくさん入っている。 だから、あのパームに入っている情報を、絶対に大陪審の前に持っていってもらいたい。」
「先生、大陪審っていうのはなんなんですか。」
「今説明しているひまはない。とにかく行くんだ、真治君。行ってみんなに説明するんだ。マックブライドもいるはずだ…。まず、真理子さんに連絡をつけて、早く裁判所に行くんだ。大陪審は9時からだから、もう時間がないはずだ。カニングハムは君が証言するのを防ぐために、証拠を隠滅するために、こうやって君と僕を監禁してるんだ。いいか、カニングハムは麻薬組織の大ボスだということがわかってるんだ。だから、なんとしてでも君は裁判所に行かなくちゃいけない。」
「先生、やってみます。」
そこで、私はちゃっかり暗記している真理子さんの電話番号を真治君に教えました。
「記憶しておくと、役に立つものですねぇ。」
こういう場面なのに、真治君はそんなことを言っています。
「それから、決して真理子さんや他の人にはここに来るなといっておくんだよ。」
 またこつこつと足音が聞こえますが、今度は一人だと言うことがわかります。ドアが開き、カジノで私をつけてきた青い目の男が入ってきます。私はとにかく襲いかかりました。真治君はその青い目の男の入ってきたドアから外に飛び出していきました。
私は、その男と取っ組み合いになりました。がむしゃらで全身を噛んだり殴ったり、 その男も突然の奇襲に対応するのがやっとでした。しばらくして、他の賊の一味が入ってきました。私が仲間と取っ組み合いになっているのを認めると、私を寄ってたかって殴り、挙句の果ては、利き腕である左腕の肩を銃弾で撃たれました。血まみれになった私は出廷しなければいけない今朝おこなわれる起訴取下げの申立ての審理のことを考えていました。裁判官が怒るだろうな、とか、私抜きで決定されたら嫌だななどと考えていました。咳き込むと暖かい液体が喉を通ります。味から血液だとわかります。また真治君のことが気にかかります。考え事をしているうちに、またわき腹を蹴られ意識が遠のいていきます。
「真治君…がんばるんだ…お父さんの無実をはらせ…君の無実をはらす…。」私は気が遠くなっていきましたが、真治君ががんばればすべてうまくいくんだ、そう思いながら記憶が遠くなっていきました。自分の体が冷たくなっていくのがわかります。
「真治君、がんばれ…、お父さんのためにも…。」
 
「はぁ、はぁ、はぁ…。どうなっちゃうんだろう。」
真治君に不安と恐怖がこみあげてきます。それでも真治君はビルの出口を探して走り続けます。倉庫を出た真治君は、明かりを頼りに出口を求めてさまよいます。まったく窓がついていないことから地下室であるとわかります。廊下を少し行くと、非常口の緑のサインが掲示されているのが見えます。真治君はそのサインにしたがって駆け足で出口を見つけて追っていきます。地下からの階段を登ったところに、うすく日が差し込んでいます。さび止めが塗られた二枚扉のあるところに着きました。真治君はその二枚扉を両手で押し開けて、外に出ます。非常ベルは鳴り響きませんでした。
外に出ると、もう陽がのぼっています。ただ、日陰に生えた草がまだ濡れていることから、朝だとわかります。真治君は自分がどこにいるのかもわからず、少々立ちすくんでしまいました。
「怖い。どうしたらいいんだ。」
真治君は自分の手足が血まみれになっていることに気がつきました。縛られた部分や床にこすりつけられた部分がかすり傷になって血がにじみ出ています。また、手やふくらはぎ、ももなど、何度も殴られたところが腫れています。きっと顔も腫れているんだろうな、と真治君は思います。まだうっ血が終わっていないようで、色は黒くなっておらず、赤く腫れている状態です。
真治君はとりあえず小走りに駐車場を出て、道に出ました。倉庫を振りかえると、大きくDate Storage Services(データ倉庫サービス)と書かれています。左を見ると海が広がっています。近くに港があることが、通り行く船の音でわかります。真治君は海岸近くに向けて走りました。
「とにかく、電話、電話。電話があれば。」
真治君は倉庫群の一角を海に向けて走ります。海に近づくと、水際にレストランが建っているのが見えました。朝なので店はやっていませんが、そのレストランの名前から、自分がサンフランシスコにいることはわかりました。朝早いのか、観光客など人はあまりいません。レストランまでたどり着くと、フィッシャーマンズ・ワーフの外れの外れの方にあるピア・3 (Pier 3:第3埠頭)であることがわかりました。そのレストランのまわりを一周すると、裏手に公衆電話を見つけました。真治君は受話器を上げ一生懸命コレクト・コールを呼び出します。
交換手に、さっき覚えたばかりの真理子さんの電話番号を無我夢中で告げます。電話が繋がったようで呼出音が真治君の耳に入りますが、頭を何度も殴られているため呼出し音でも頭に響きます。3回ほど呼出し音がなったところで真理子さんの声が聞こえました。
「はい。」
「あの、真治です…。」
「どうしたの、朝っぱらから!?」
「た、助けてください。今、多分フィッシャーマンズ・ワーフの外れ…ピア・3にいるんです。真理子さん、パーム、持ってきてください。」
「え?」
「今すぐ、パームが必要なんです。」
「…わかったわ。でも、どこにいるのか、はっきりした場所を教えて。」
「えっと、レストランの名前はSFベイ・レストランです。」
「あ、わかった。あの港の横にぽつんと建ってるレストランね。なんでそんなところにいるの?」
「話はあとで全部します。とにかくそこにいますから、パームをお願いします。」
「すぐ行くわ、動かないで待っていてね。」
 電話を切ると真治君はちょっとほっとしましたが、すぐにもう一回コレクト・コールにかけます。今度は私の事務所の電話番号を告げます。また電話の呼出し音が鳴り頭に響きます。
「はい、三谷法律事務所です。」
千穂さんです。
「あの、私、福本真治と申します。」
「真治君?」
千穂さんはすっとんきょうな声を出しました。
「どうしたの?小山先生は?」
「小山先生は、今捕まっています。」
「え、どこにいったか心配しているのよ。」
わけのわからない千穂さんは叫んでいました。
「二人とも捕まって監禁されていたんです。先生が僕だけ先に逃がしてくれたんです。先生はまだ捕まっているんです。何かあるかもしれません。警察に連絡してください、 ピア・3の近くのData Storage Serviceという建物の地下に先生はいます。僕は今から裁判所に行きます。」
真治君はとりあえず伝えたいことを並べてみました。千穂さんはまだ事情がよくわかっていないようですが、私の身の危険だけは理解してくれたようでした。
「すぐにマックブライドさんに電話するわ。」
受話器を置いた真治君は、その場で崩れ落ちました。もう気力がだいぶ失せてきました。少し気が遠くなります。真治君は目を軽く閉じ、たくさんの鳥がレストランの昨夜の残飯を食べに来ているごみ箱の陰にひざを抱えて座っていました。目をつむると、ぼんやりお父さんの顔が浮かんできます。
「お父さん、お父さん。僕はもう死ぬのかな。でも、お父さんの無実を明らかにしなくちゃいけないと思ってる。お父さん、お父さんが死んでからいろんなことがあった。小山先生をはじめにいろんな人に助けてもらった。いろんな人に勇気付けられてここまで来られた。お父さん…、これからお父さんの無実を明らかにするためにできるかぎりのことはやってみます。その勇気を僕にください。その勇気を…。」
真治君は自分の名前を呼ぶ声ではっと目を覚ましました。その声が近づいてきます。真治君は顔をあげました。真理子さんが来てくれたのです。
「真治君、大丈夫?けがしてるじゃない。」
「ええ、なんとか生きてます。」
「はい、これがパーム。」
真理子さんは自分のハンドバッグの中からパームを取り出して、真治君に渡してくれました。真治君は大事そうにそれを受け取りました。
「ああ、このパームはお父さんのだったんですね。」
真理子さんが優しい声で話しかけます。
「そうよ。それはあなたのお父さんのよ。」
真治君はぎこちない手つきでパームの中身を調べていました。そして、Eメールがいくつも入っているのを確認し、ひとつひとつ入念に読んでいきます。Eメールを読んでいく真治君の目に、大玉の涙があふれてきました。真治君は唇をかみしめています。どんなことが起こっていたのか、やっとわかったのです。真理子さんがぽつっと言います。
「小山弁護士は、あなたにこういうことをあまり知らせたくなかったのよね。」
真治君は黙っていました。しばし沈黙があった後、
「早くここから離れないといけない。」
真治君は思い出したように言いました。
「淳平さんは?」
「まだ倉庫にいます。もう千穂さんに頼んでFBIに急行してもらっています。すぐそこですけど。」
「それじゃ、行かなくちゃ。」
「先生が来るなって…言ってた。」
真理子さんは非常に心配そうな顔をしています。そうこうしているうちに、たくさんのパトカーがサイレンを鳴らし倉庫のほうに向かう音が聞こえてきます。真理子さんがパトカーを目で追っています。
「心配ですか。」
「もちろんよ。」
「でもプロに任せておいたほうがいいですよ、真理子さん。」
「でも、心配。」
「真理子さん、小山先生のこと…、それより真理子さん、ちょっと車で連れていってもらいたいところがあるんですけど。」
「え?どこなの?」
「裁判所です。連邦裁判所。ここからだったらすぐ行けるでしょ。」
「え、住所は?」
「シティーホールの近くです。」
「それならすぐよ。」
「今、何時ですか。もう裁判が始まっているかもしれない。」
「え、なに?」
「カニングハムの陪審喚問があるんだそうです。とにかく、このパームを持ってそこに行かなくちゃいけないんです。」
「あなた、そんな体で大丈夫?病院に行ってから…。」
「今、僕にできることは、早く裁判所に行くことだけなんです。真理子さん、早く連れて行ってください。」
真治君はそれ以上何も言わず、ちょっと離れたところに停めてあった真理子さんの赤い車の助手席に乗りこみました。真理子さんは車を走らせ、裁判所に向かいます。

新規 H-1B ビザ-2021年度申請方法変わる

5/23/2019

 
2020年度新規H-1Bビザ申請の受付は終了しましたが、来年度からは、申請方法が大きく変わります。
2020年度までは、I-129という申請書を整え、これに必要書類を添付し、4月1日以降に移民局へ送付して行う方法でした。2021年度(2020年10月1日-2021年9月30日)からは、まず、雇用主が申請の前に移民局に対し必要情報を送り、登録してもらう必要がでてきます。必要情報は、会社名、会社のEmployer Identification Numberと住所, 申請者個人の氏名外の情報、申請者個人の学歴情報といったものになると思われます。この登録をもとに後日抽選が行われます。当選した場合、申請書類を準備し、移民局に提出することになります。

【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

5/21/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第17回目です。

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第17章 証拠 (Evidence)
 
週末は真理子さんとも会えたし、今日も彼女と会えるということもあり、仕事以外の部分では非常に充実しているように目が覚めたとき感じました。しかし、そのフィーリングも現実の仕事のことを思い出すと、またまた心に雲がたちこめてきます。今週は真治君の起訴取下げの申立ての審理もあるし、忙しくなりそうで憂鬱です。私はのっそり起き上がります。
真治君はすでに朝ご飯を食べていたようで、私がキッチンにたどり着くまでにもう学校に行く支度をしていました。
「おはよう、真治君。」
「先生、おはようございます。眠れましたか?」
「まあまあだな。」
「それじゃ僕、学校に行ってきます。」
「がんばれよ。」
真治君は学校に向かいます。私は冷蔵庫までふらふら歩いていって牛乳をコップに注ぎます。ちょっと薄い膜がはいっているのでパッケージを見てみると賞味期限を2日ほど過ぎています。考えた挙句に飲んでしまいましたが、まだ大丈夫ですね。時計を確認するともう8時半。いやはや、事務所に行かなくては。
今日は法廷もないしお客さんにも会わないな、と思いちょっとカジュアルな風体で家を出ました。車に乗ろうと思いガレージを開けるとびっくりしました。車が見事に荒らされています。エンジンルームまでボンネットが開いて剥き出しになっています。どうしたものかと考えているうちに携帯電話がなりました。
「先生、大変です。」
千穂さんでした。
「こっちも大変なんだよ。あーあ、車のシートまでびりびりにされているよ。」
「事務所も荒らされています。早く来てください。」
「本当かい、機密書類を取られたんじゃ一大事だ。すぐに行くよ。」
電話を切った私は、エンジンルームの点火系の周りに不信なものがないか、ブレーキ関係が大丈夫か確認して事務所に向かいました。尾行者がついてきます。
事務所では三谷先生と千穂さんが大掃除をしているみたいでした。
「こりゃひどいね。」
「のんきに構えてないで手伝ってください。」
「そうだね。」
私は自分の部屋に直行しました。やはりコンピュータがなくなっています。頭を掻きながらコンピュータがなくなっていることを告げると、やはり三谷先生のコンピュータも千穂さんのコンピュータも持ち去られています。やはり敵はデータに興味があるのですね。
仕事もできなくなってしまって気分悪いですね。いつもがさつな机の上が更に汚されています。私は、無残な光景を見まわしながら、マックブライドに電話をします。
「小山弁護士、どうしました。」
「私の事務所にまで賊がはいった。事務所のすべてのコンピュータが持ち去られています。」
「えっ」
マックブライドは非常に驚いた様子でした。
「すぐに行きます。」
電話を置いた私はなるたけものに触らないようにしながら部屋を検分します。コンピュータ以外には何も取られている様子はありません。何本も電話が鳴ります。千穂さんは電話の応対で大変そうです。私の顧問先のクライアントも来て、目を丸くしながら、
「あらあら、事務所の大掃除ですか。」
などと言っています。
千穂さんが憮然として、
「淳平先生のせいなんです。」
などと、心外なことをつぶやきます。これでは業務ができないので、明日以降スケジュールを組みなおして、出直してもらうことにします。しばらくするとマックブライドが三人の捜査員を引き連れて私の事務所にやってきました。
きょろきょろ見まわしながらマックブライドは
「こりゃひどいですね。書類を整理するのも一苦労ですね。」
私は笑わずに、
「他人事だと思って…。」
というと、マックブライドもばつが悪そうな顔をしています。
「とにかく、早く見てください。」
千穂さんがせかします。
「わかりました。なくなったものはコンピュータですね。」
事務的にマックブライドが言います。
「そうみたいです、他は今思いつきません。」
千穂さんがきょろきょろしながら答えます。
FBIはあやしい指紋は検出できず、またその他の証拠も発見できない様子でした。マックブライドはつぶやきます。
「これもプロの仕業だな…。小山弁護士、いい加減に持っているお宝を出してくださいよ。」
「真治君の起訴を取下げてくださいよ。」
私は返しました。
FBIが帰り、片づけが一段落するともう昼の1時を過ぎていました。
「小山先生、三谷先生が昼食はどうかって聞いていますけど。」
と千穂さんが言います。私は腕時計を見るともう1時半近くになっているので、
「えっと用事があるから、お二人でどうぞ。」
「先生、どこか行かれるのですか。」
「ちょっと野暮用でね。」
「ふ~ん。用事ねぇ。法廷とか来客はないですよねぇ~。大体掃除しなくちゃいけないのは先生のせいなのに…まったく。」
私を観察するような目つきをしながら千穂さんはランチに出かけました。私は平静を装いつつ部屋の片づけを終わらせました。2時を回ったところで事務所をでます。駐車場で車に乗り込み空港に向かいます。真理子さんに会えるのが嬉しくなって気づいていると口笛を吹いています。空港には30分ほどで着きました。活気を取り戻している空港は人も多く、人ごみをすりぬけながら真理子さんが到着するゲートにいそぎます。20分ほどはやくゲートについてしまいました。しばらくすると一般の客がゲートから出てきて、それから15分ほどすると真理子さんが出てきました。
「淳平さん、お迎えありがとう。」
「いえいえ、待ってました。お帰りなさい。」
他の乗組員に別れを告げて、真理子さんと私は駐車場に向けて長いコンコースを歩いて行きます。制服を着ている真理子さんは颯爽としていてかっこいいですね。
「真治君は元気? 今学校かしら。」
「そうですね。」
「早く事件が解決するといいわね。」
「本当にそうなんです、今日も私の事務所に泥棒が入りましてね、コンピュータを盗まれちゃったんです。」
「え、それは大変。大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないけどなんとかしなくっちゃ。」
「真治君の事件に関係あるの?」
「あるような気がします。」
「気をつけてね。」
私はあることを思いつきました。
「真理子さん、どこに駐車しました?」
「このビルの駐車場に停めたけど、何か?」
「ちょっと頼みがあるんだけど。」
「え、何々?」
「ちょっとドライブに連れていってくれないですか。」
「淳平先生と白昼堂々とドライブなんてうれしいわ。」
「あ、僕もうれしいですけど…ちょっと連れていって欲しいところがあるんです。訳ありなもので。」
真剣になった真理子さんは承諾してくれました。
「いいわ、何かお役に立てれば…。」
「あるものを2、3日預かってもらいたいんだ。」
「訳ありなのね。」
「そうなんだ、真治君を無実にするカギなんだ。」
「真治君を助けるためなら協力するわよ。」
私の車のシートがぼろぼろに破かれているのをみてちょっと真理子さんはうろたえていたようでした。謝って我慢してもらいます。真理子さんとともに空港を出ます。
「どこに行くの。」
「うん、コンピュータ屋さん。」
しばらくして、コンピュUSAに到着しました。辺りをうかがいつつも真理子さんと私は店に入ります。修理係のいるデスクに行きパーム・パイロットを受け取りに行きます。しばらく待たされると前回手にしたのと同じのパーム・パイロットを持って係員が戻ってきました。
「これですね。」
係員が事務的に私にパームを見せました。
「そうです。」
「えっと、修理で100ドルいただきます。」
「え、電池の交換だけでそんなにするんですか。」 
当たり前だよという係員が私に請求書を投げるようによこしました。私はしぶしぶ100ドルを払いました。
真理子さんが物珍しげに、
「へー、こんな小さな電子手帳持っているんだ。」
「僕のじゃないんです。」
「え、誰の? 三谷先生の?」
「違うんです、ほら真理子さんが前に教えてくれたじゃない。」
「え、もしかして、これ、福本さんの電子手帳?」
「正解。」
「大丈夫なの、こんなもの持っていて。」
「いや、大丈夫じゃないんです。麻薬の組織がこのパームを探しに今必死になっている。」
「私も巻き込まれちゃったわけか…。」
ちょっと考えるように真理子さんは肩をすくめました。
「ごめん、そういうつもりじゃないんだけど…。」
「いいわ、淳平のためだったらなんでも協力しちゃう。言ったでしょ、この間。」
ジュ、淳平。呼び捨てですよ。なんとなく真理子さんと私、距離が近くなったと思いません? 
「そしたら、これ、2、3日お願いします。」
「いいけど、大丈夫なの。」
「長くても2、3日だから。」
「それならいいけど…。」
色っぽい声でつぶやいてくれました。あまり一緒にいるところを見られたくないので真理子さんを自宅に送り届け、私はダウンタウンの事務所からそう離れていないコーヒーショップに車を停めてから行きました。お別れのキスが素敵でした。ちょっとぼんやりしちゃいます。たまには昼間からコーヒーを飲みながら考えにふけるのもいいものです。ちょっとくつろいでいましたが、携帯電話の音で現実に引き戻されてしまいました。
「はい。」
「あ、千穂です。どこほっつき歩いているんですか。」
「とげのある言いかたじゃないかい。今、コーヒーを楽しんでいるところです。」
「まったく、カニングハムが大陪審出廷の命令を受けているそうです。人に掃除させといて…早く帰ってきてください。」
やっとFBIか検事局の方からカニングハムのことで私にアプローチしてきたようです。鼓動が早くなり、携帯電話を持つ手がぬれてきました。
「なんの容疑っていってた?」
「一連の麻薬騒動の重要参考人ですって。」
私は口笛を軽く吹きました。千穂さんが続けます。
「今事務所にマックブライド捜査官が来ています。」
「今すぐ帰るね。」
残ったコーヒーにお詫びをしながら事務所に戻りました。
千穂さんは複雑な表情をしていました。マックブライド捜査官が横に立っています。
「先生、まったくどこにいっていたんですか。」
「たまにはゆっくりコーヒーでもね。」
マックブライドは傍観していました。私はマックブライドの顔を見て握手を求めました。マックブライドもそれに倣います。
私はもうおなじみになってしまったマックブライドの顔を見つめました。
「一日に二度もお目にかかれるなんて光栄です。」
「連邦検察局はカニングハムに召喚状を渡しました。」
私に語り掛けるようにマックブライドはつぶやきました。
「麻薬関係だそうじゃないですか。」
「首謀者は彼ではないかとの内定を進めていました。」
私は、精一杯驚いた振りをして見せます。続けて
「なんで言ってくれなかったのですか」とマックブライドを軽く非難してみたりします。
「そう言われていても、内定段階でしたから。先日、ほぼ証拠が固まりました。」
「真治君はどうなるんですか。」
「検察局は少なくとも首謀者ではないという認識をしていますが、かといって今の状態で起訴を取下げることはしない方向のようです。少なくとも大陪審の捜査が終わるまではね。」
「まだ真治君がかかわっていると言っているんですか!?」
「麻薬を持っていたことは事実です。」
「持っていたんじゃない。たまたま麻薬があっただけじゃないか。そんなこと知っているんだろ、FBIだって。まあ、こっちも勝つための準備は完璧ですから。」
「カニングハムが命令をくだしているから、あなたの家や車まで荒らされているんですよ。」
「だから何だっていうんだ。俺が真治君を無罪にする努力を全部無駄にしているじゃないかFBIは。いいとこ取りばっかりして。」
「FBIの利益は麻薬のルートを解明することです。フクモトシンジを無罪にすることではありません。」
「そうですか、私の利益は真治君を無罪にすることだけです。それが私の仕事です。水曜日の起訴取下げの申立ての審理を見てくれればわかります。FBIが完璧ではないっていうことがね。」
「真治君の事件やカニングハムの大陪審喚問で忙しくなりそうですよ、FBIも。」
「起訴取下げの申立ては絶対に勝ちます。」
「弁護士さんの幸運を祈っています。もちろん何らかの証拠を出してくれれば今すぐに真治君の起訴取下げを考えてもいいが…。」
私はわきの下に流れる汗を感じました。パームを出してFBIの口車に乗るのも一興です…。ただ、相手方は得はするものの、真治君が必ず無罪になるとは限らないのです。司法取引に頼ってしまうと検事の胸一寸で物事が決まってしまう恐れがあります。来週の起訴取下げの申立てに勝負をかけることにしました。マックブライドは肩をすくめて事務所を出て行きました。
「真治君は大丈夫なのでしょうか…。」
千穂さんが弱々しい声でつぶやきます。
「大丈夫さ。彼には勇気があるから。僕もその勇気をもらっているから。」
 私は断定的に言い放ちました。私は自分の部屋に閉じこもり来週の起訴取下げの申立ての審理のことを考えていました。あのパームに入っている情報が麻薬組織を解明する大事な手がかりであることは間違いなく、あのパームさえあればカニングハムやロビンスの悪事を公けにすることができます。公にするためには起訴取下げの申立てが一番効果的です。裁判所の記録にもばっちり載りますから。もう一度、判例や事実を元に真理子さんに託したパームのことを考えながら全身全霊をこめて申立書をコンピュータがないのでワープロで打っていきます。明後日の朝はカニングハムにとっても私にとっても勝負の日なのです。
昼間コンピュータがなかったせいで遅れた仕事に追いつくために古びたワープロを使って書面を色々書いていると、もう10時を過ぎてしまいました。相当目が疲れているようなので、仕事を打ちきり家に帰りました。おんぼろのボルボのシートを更に切り刻まれるのでおしりが気持ち悪いです。カニングハムに修理してもらいたい気持ちです。家に帰る途中には尾行はついていませんでした。マックブライドが必要ないということを判断したのでしょうか。
もう、日はとっぷりと暮れていました。家に帰るとまったく人の気配がしませんでした。真治君の名前を呼びますがまったくどこにもいない。家のすべての電気をつけて真治君を探します。どこにもいません。
「真治君…。」
むなしく声が響きます。家の電話がなりました。真治君が電話をかけてきているのでしょう。ところが電話は押し殺した声。
「シンジ・フクモトは預かった。シンジはパームのことをまったく知らないといっている。パームを渡せ。今から5分後にそちらにお邪魔する紳士にパームを渡して欲しい。」
そう言って電話はきれました。渡せと言ったって私は持っていませんし、渡す気は毛頭ありません。どうしたらよいのかちょっとまごまごしました。動きが取れない状態で思考いると、賊は家の中に隠れいてたと見えて、音もなく居間に進入してきました。
「パームを渡して欲しい。」
「申し訳ないが、持っていない。どういう情報が欲しいんだ。」
「パームを渡せ。」
手に持っていた38口径とわかるカートリッジ式の銃が私に向けられています。
「持っていないんだ。本当だ。」
私に近づいてきた賊は銃を振り上げ、私の頭に振り下ろしました。反射的にその攻撃をかわした私はソファに体を投げました。振り下ろしが失敗して私に立ち向かってくる賊に床に置いてあった小さなダンベルを投げつけます。
「ズドン」
と賊が撃った拳銃はよろめいたために天井に穴をあけました。無我夢中で拳銃を奪い、殴りつけます。ぐったりしたところで賊の手足をベルトやビニールテープそれにガムテープでぐるぐる巻きにします。覆面を取ると見たこともない白人がでてきました。私はその賊をアパートの玄関前まで引きずっていきマックブライドに電話をします。マックブライドは眠そうな声で電話に出ましたが、
「賊に襲われた。いま、反撃して動きを奪っている。早く捕まえてくれ。」
というコメントを聞いてばっちり目が冴えたようです。
しばらくどうしようかと途方にくれていましたが、またもやFBIの面々が私の前に現れました。
「もう、私とは離れて生きていけないですな、小山弁護士。」
茶化してマックブライドは言います。
「私は男に興味が無くてね。」
私も返しますが、憂鬱です。FBIに事情を説明します。マックブライドは慎重に話を聞いていますが、真治君の略取はカニングハムの仕業ではないかと私もマックブライドもほぼ確信しています。私が縛り上げた男をFBIの捜査官がパトカーの後部座席に押し込みます。マックブライドはFBIも真治君の行方を全力で捜査する旨私に言い残して去って行きました。
暗い部屋で一人になった私は、弁護士の立場でというよりは、汚い方法で証拠を奪取して自分の悪事を隠蔽しようと躍起になっているカニングハムに人間として許せない感情を抱きました。
私は車に乗りこみ、夜の街をおもいっきり飛ばしました。向かうはカニングハムの事務所です。エンバカデロビルの近くに車を停め、ビルに入っていきます。入り口に守衛がいるのを見て舌打ちをします。しばらく様子を見ていると、掃除夫の一団が出入りをはじめました。守衛が用事をするために立ったところで、隙を見つけてビルに入りました。エレベータは35階まで上ります。下りるとまず、かわいい笑顔を見せてくれたレセプションの机の上に張られた事務所の見取り図からカニングハムの部屋を割り出します。まだ、人の気配がありますから用心しなくてはなりません。掃除夫がカニングハムの部屋の掃除をしに来たのは30分ほどたってからでした。それに合わせてカニングハムの部屋に侵入します。部屋を物色しますが、まったくと言って良いほど証拠は見つかりません。秘書の机の中を探しますが、なにも不信な連絡先などは見当たりません。もう一度、すばらしい調度の家具を探してみます。ヘロインらしき粉末が出てきたときには失笑しました。コンピュータを立ち上げてみますが、パスワードで管理されているらしくアクセスができません。暗い部屋でコンピュータとにらめっこしていると、いきなり部屋の明かりがつきました。コンピュータを使っているとあまり良い状況に巻き込まれないな、などと思いつつ振り向きました。
そこには優雅なスーツに身をまとったカニングハムが拳銃の銃口をこちらに向けて、4、5人の男達と立っています。中には真治君の家に最初に行ったときに会ったトニーというFBIの捜査官も立っています。FBIに内通者がいたのですね。私の前に堂々と姿をあらわしているということは、私を殺すつもりでしょうか。
「小山弁護士。オフィスに侵入するとはいい度胸だな。」
「真治君を返してもらおう。」
「それは構わないが、少なくとも明後日の大陪審に私が出席して証言してからだ。」
「ふざけていないで、真治君を自由にしろ。」
「その前に、パームがどこにあるのか教えてくれないか、小山弁護士?」
「知らないね、なんのことだい。これに関係していることかな。」
私は手元にあったさっき発見した白い粉末のパッケージをカニングハムに投げました。
「そういう態度は、私は好きではないな。」
カニングハムはあごで自分の後ろに控えていた男達に指図しました。拳銃を向けられていたこともあり、抵抗はしたもののすぐに床に組み伏せられてしまいました。遠くから見ていたカニングハムはゆっくりと私に近づき、私の顔を高価な革が張られている靴でなじるように踏みました。
「言え、パームはどこなんだ。」
「知らないって。」
カニングハムは拳銃を振りあげ銃握を私の頭に振り下ろしました。私はそこで記憶を失いました。

法律ノート 第1161回

5/20/2019

 
MSLG弁護士による「法律ノート」第1161回がメーリングリストにて配信されました。

外国人労働条件許可

5/16/2019

 
米国連邦労働局は、雇用ベース永住権に繋がるForeign Labor Certification(労働条件許可)についての申請者数について、最新の情報を発表しました。半年分のデータになりますが、全米で50,000を超える申込みがありました。また、最終的に許可された申請に関しては、コンピューター–数学、建築–工学、ビジネス–ファイナンス、経営、教育に関しての職業が上位を占めています。コンピューター–数学系の職業の割合は60%と圧倒的に多くなっています。国別では、インド、中国、韓国が上位になっています。

法律ノート 第1160回

5/15/2019

 
MSLG弁護士による「法律ノート」第1160回がメーリングリストにて配信されました。

過去記事「コマーシャル・リース」

5/14/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。

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最近、ちょっと体を動かさなければいかんと思い、スポーツクラブに入会しました。水泳をするのが目的です。子供の頃はよく海やプールで泳いだものですが、ふと考えると、大人になってから、特に仕事をしだしてからはあまり泳ぐ機会がなかったなと思いました。最初は、ちょっと自分に対しての「義務感」も感じましたが、泳げば泳ぐほど、体力も復活して、体の調子もよくなりました。泳いでいるときは何も考えずにただひたすら泳ぐというのも精神的に良いようです。皆さんもなにか運動されていますか?
 
今回は、コマーシャル・リース、すなわちビジネスや商店などをするに関しての不動産賃貸借契約について考えましょう。「今度、新しくビジネスをはじめる計画をたてています。その一環として、オフィスを借りる契約をしなければなりません。注意点を教えてください」という質問です。
 
ビジネスが実体をもつには、オフィスや公に対するプレゼンスを示すために、店を構えたりしなくてはならないですよね。もちろんホームオフィスなどを持つ場合はありますが、リース締結という問題は少なからず発生しますね。リースを締結するにあたり、大家さん側から、分厚い契約書がでてきますが、やはり注意しなくてはいけないというポイントはあるわけです。以下考えていきましょう。また、住居用の賃貸借と商用の賃貸借では、法律での規制に差があります。ここでは商用の賃貸借に限って考えていきます。もし、住居用の賃貸借に関して、質問がある場合には、私まで電子メールをいただければ、回答させていただきます。
 
さて、商用リースで気をつけなくてはいけないのは、大きく分けて、契約期間、賃貸料などの総額、保険といったものが考えられます。
 
まず、契約の期間について考えましょう。通常、商用リースは一年とか、長ければ10年などというものもあるのではないでしょうか。この契約された期間は基本的に途中で解約したいと思っても、期間中の全額の責任を一応、賃借人は負うことになっています。ですから、契約するときにはポテンシャルのリスクとして、毎月どのくらい払うかを検討する前に、総額でいくら支払うのかという点を見落としてはなりません。実際の場合、もし中途で解約をしたい場合には、もちろん申し入れることはできますが、契約上、または話し合いで、どういった責任を賃借人が負うのか決定していかなくてはなりません。他の会社または個人に転貸借をすることも考えられますね。大家さんは、すぐに他の賃借人を見つけられる場合には見つけて、損害を緩和する義務を負うことにもなります。
 
それから、契約に、どの程度のオプション権が与えられているのかも確認しなければなりません。オプション権とは契約期間が終了する場合、加えて何年か、リースを存続させたければ、賃借人の意思表示のみで決定できる権利です。よくあるのは、3年リース、3年オプションといった内容の契約です。見落としやすいですが、必ず覚えておかなくてはいけないのは、このオプション権を行使するためには、契約終了の、たとえば6ヶ月前までに、大家さんに書面で通知しなければならないという条項があることです。このような条項が契約にある場合には、期限をしっかり覚えておく必要があるわけです。
 
次に契約料を考えましょう。いろいろな賃貸借の対価としての契約料というのが考えられますが、住居用(Residential)の賃貸と違い、毎年契約書によって契約料が上昇したりするわけです。ですから、毎月の賃貸料を考慮するだけではなく、毎年の賃貸料のどうかはどの様にして行われるのか、確認する必要があります。また、大事になるのが、共有部分(Common Area)に関する費用や、電気代、セキュリティーなどの費用がどのように決定されるのか、毎月どの程度負担になるのかを考えておく必要があります。注意したいのは、賃貸借に付帯する共益費などが別に書かれている場合が多いのが通常です。毎月どの程度の支払いが必要であるか計算する上では重要なので、必ず共益費などを明らかにしておくことが大事でしょう。
 
3つ目は、保険への加入を義務付けている契約書が多いですから、必ずどのような保険に加入する必要があるのかを確かめましょう。火災保険だけではなく、事故などで起こった損害などについても填補する保険が求められている場合が多いですから、どのような保険を要求されているのか、契約の締結時に保険会社とも話し合いをしつつ決定していく必要性があります。契約書によっては契約上、保険の種類にもうるさかったりします。必ずどのような保険が要求されているのか、賃貸借契約を結ぶ前に、保険屋さんと話しあわれておく必要があります。

【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

5/13/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第16回目です。

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第16章 判例リサーチ (Case Research)
 
昨日は真理子さんとのデートで帰ってくるのが非常に遅くなりましたが、朝はばっちり目がさめました。
「先生、昨日は午前様でしたね。真理子さんも午前様ですか。」
「あ、真治君おはようございます。」
「なんか、いいことでもあったんですか。」
「秘密です。」
「今度紹介してくださいね、 どんな人だろう、ふふふ。」
「今日は土曜日だけど、真治君は何かするのかい?」
「いや、別に何もありません。」
「そうか。僕はちょっと真治君の申立ての審理が来週の水曜日だから、申立てを補強する書面でも作ってしまおうかと思っているんだけどね。」
「ありがとうございます。でも先生もたまには息抜きしないと。本当に、朝から晩まで駆けずり回ってるじゃないですか。」
「そのうち、ぜんまいが止まっちゃったりしてね。」
「嫌ですよ、何言ってるんですか。」
私たちは簡単にパンを食べて朝食とし、その後、真治君はテレビでスポーツの中継を見ているようでした。私は寝室でトドのようにゴロゴロと寝っ転がりながら、ノートに申立てのポイントを考えつつペンを走らせていきます。でも、寝ながら書いているとなんとなくうとうとしてきてしまうので、気休めですが、寝返りを打って体の血行を良くしながら考え事をしていました。
まず、パームの内容を見る限りでは、FBIは真治君を人身御供にして捜査のきっかけを掴もうとしていることがまさに明白ですよね。その点を強調して、またパームの内容も強調して筆を進めていきます。もうすでに頭の中では主張を考えてあってポイントをまとめるだけにしていたので、1時間ほど集中するとほとんど書きあがりました。そのとき、電話が鳴りました。真治君が応えているようです。真治君はバタバタと私の寝室に入ってきました。
「先生、電話です。」
「はぁ?」
私はちょっと眠たげな声を出してしまいました。
「誰から?」
「あの真理子さんです、真理子さん。」
「はいっ。」
しゃきっと目が冴えてしまった私はベッドから飛び降りると、真治君から受話器を受け取ります。
「淳平さん?」
「はいっ。」
私はちょっとデレデレしてしまいました。淳平さんですって。
「淳平さん、昨日はありがとう。すごくおいしかったし、楽しかったし、久しぶりにゆっくりできたわ。」
「そうですね、私も楽しかったです。」
真治君は片一方の眉毛をあげながら、私をじっと見ています。私はその視線に気がつくと「しっしっ」と言って手を振り、あっちに行けという合図をしました。それでも真治君はそこに立っています。しつこい奴ですね。しょうがないので私はうしろむきになり、受話器を持ち替えて話を続けます。
「え、今日はどうしたんですか。真理子さん。」
「えー、私、明日から一泊でフライトになっちゃうから、今日しか会えないじゃない?だから、ちょっと淳平さんに会いたいなと思って。」
「あ、嬉しいですぅ。私も真理子さんのことを考えていたんですよ。」
ちらっとうしろを見ると真治君がまだ立っています。こんなにしつこい男だとは知りませんでした。
「あの、私、久々に料理でもしようかと思ってるんですけど、淳平さんは和食、好きですか。」
「あ、もう、大好きでございます。」
「そうしたら、材料を買って、そっちに遊びに行っちゃおうかな。」
「どうぞ、どうぞ。来てください。」
振り向くと真治君がまだ立っています。
「それじゃぁ、1時間くらいで用意して出るから、そっちには昼頃に行くわね。」
「待ってまぁす。」
私は電話を切りました。真治君が電話を切った私の顔を見るなり
「やったじゃないですか、先生。」
と自分も嬉しそうに言いました。
「な、な、な、なんだよ。」
「え?真理子さん、なんですって?」
「いや、なんか真理子さんがご飯作ってくれるって言うんだけど、真治君はどうする?」
「あー、僕、お邪魔になっちゃうなぁ。」
「あ、でも会っておいた方がいいんじゃない?一緒にご飯、食べようよ。真理子さんも真治君がいるってわかってるんだしさ。」
「そうですか、じゃぁ、僕もちょっと真理子さんに会ってみたいし、いようかな。」
それから真理子さんが来るまでの2時間はほとんど仕事にも手がつかず、私は枕を抱きながらベッドの上でゴロゴロしていました。真治君は相変わらずテレビを見ています。
ベルが鳴ってドアを開けると、真理子さんが大きな紙袋を抱えて立っていました。
「あ、真理子さん、こんにちは。」
私は真理子さんに会えて、また鼻の下を伸ばしてしまいました。真治君もひょこひょこ奥から出てきます。
「あ、あなたが真治君ね。」
「はい。はじめまして。」
「わぁ、やっぱり、先生がデレデレするだけあってきれいな人なんですねぇ。」
「おいこら、おまえ、黙ってろ。」
私は自分の表情を鬼から天使に変えて
「どうぞどうぞ、真理子さん、入ってください。」
と言いました。
「じゃあ、失礼します。」
真理子さんから荷物を受け取って真理子さんを部屋に通すと、真理子さんはまず部屋を見まわしました。
「汚いわねェ…。」
「すみません。きったない男が二人でいるものですから。」
「僕は汚くないですよ。」
「うるさい、おまえは黙ってろ。」
真理子さんは掃除を見つけると、
「私、ちょっと掃除してあげるわよ。」
と言って淡い青色のセーターの腕をまくりあげました。私は、セーターからのぞく腕もきれいだなぁと思いつつも
「いえいえ、そんなことしてもらわないで、構わないです。あの、僕がやりますから。」
「先生なんか、掃除したこと、ないじゃないですか。」
「うるさいよ、おまえは黙ってろって。」
私も手伝いましたが、真理子さんはさっさと簡単に片付けをしてくれました。真理子さんに近づくたびになんともいえない香水の甘い香りが鼻をついて、思わず、うふふ、となってしまいます。一息ついたところで、私はビールを飲み始めました。気分がよくなってきます。
真理子さんは今度はキッチンに行って、持ってきた袋の中身を出しはじめました。私と真治君は興味深々でその袋の中を覗き込んでいました。
「あなたたち、なんでそんなところに立って見てるのよ。」
真理子さんはちょっと照れながら言いました。我々はまたじっと見ています。
「お、すごい。」
「私が作ると言っても、今日はみんなで食べようと思って、焼肉にしたのよ。日本街で薄いお肉を買ってきたの。ここ、焼肉の鉄板、あるかしら。」
「あります、あります。うわぁ、それは楽しみだなぁ。」
真治君も目を輝かして
「うわ、エビもある。」
さっと用意をして昼間からビールを飲みながらわいわい焼肉をはじめます。
しばらく夢中になって食べていましたが、真治君はちょっと寂しそうな顔をしています。真理子さんが尋ねます。
「真治君、どうしたの?」
「うーん、ちょっと寂しくなっちゃって。」
「だって、いつもお父さんと焼肉食べたりしてたから。」
「そっか。そう、私、真治君のお父さんと面識があるのよ。」
「え?」
真治君が真理子さんの顔を見ました。私は一人でビールを飲みながら焼肉を食べています。
「真治君のお父さんのこと、ちょっと聞かせてもらえないかな。」
私はなぜだか、ちょっとむっとしてしまいました。
「え、お父さんのことですか。」
「そうよ、どんな人だったの?お父さんは。」
私もちょっと興味がありました。
「そうだなぁ、僕が思うには、お父さんはとても正義感の強い人でした。」
「そう。」
「日本の建築界というのは、談合があったり、いろいろな利権がからみあったりしていて、いつも嘆いていました。」
「そうなんだぁ。」
「だからお父さんは、できれば早く海外で仕事のできる建築家になりたい、海外で認められたいと言って、一生懸命がんばっていました。」
「でもすごいじゃない。トレードセンターまで手がけて。」
「はい。父はとても喜んでいました。トレードセンターだけじゃなくて、ヨーロッパとかオーストラリアとか、最近ではいろんなところに招かれていて、僕もいろんなところに行けて楽しかったです。」
「そうなんだぁ。」
「でも、お母さんが死んでから、お父さんはすごく寂しそうでした。お父さんはお母さんのこと、とても大事にしていたから。」
「でも、真治君のことも大事にしてくれてたんでしょ。」
「そうですね。僕もお父さんにはいろいろしてもらったし。」
真治君はちょっと涙ぐんでいましたが、それでも一生懸命続けました。
「お父さんは、日本人として世界中に認められる建築家になるという夢がある程度成功したから、よかったんだと思います。」
「すばらしいわよね。私もあのトレードセンターの形がすごく好きなのよ。」
「お父さんとロビンスさんは、一生懸命あのトレードセンターを設計していました。いつも深夜まで議論して、でもすごく楽しそうでした。お父さんはロビンスさんのこと、とっても好きだったみたいだから。まだ僕のお父さんがそんなに売れていなかった頃、ロビンスさんに会ったんです。ロビンスさんもそのときは貧乏だったんだけど、お父さんはロビンスさんのことを見込んでた。それで、二人でいろんな仕事を手がけるようになって…。今回の作品は一番大きくて、二人の仕事の集大成かな、って言ってたんですよ。」
私もトレードセンターの外形を想像しながら
「そうだよなぁ、あんなすばらしい建築を作れるなんてな。才能って、あるんだよな。」
とつぶやきました。そのとき、真理子さんが空気を換えるように
「さぁ、食べよう、食べよう。早く食べちゃおう。そうでないと、淳平さんに全部食べられちゃうわよ。」
と言って、真治君を促しました。
宴のあとになると、もうおなかいっぱいです。私はビールも飲んで心地よくなり、ソファにどかっと座って一息ついていました。あと片付けをしてくれた真理子さんと真治君も同じようにソファに移ります。
真理子さんがソファのわきにおいてあった本を持ち上げて、
「これ、淳平さんの本?真治君の本?」
と言い、本を見まわします。私は
「それは真治君の本だよ。今回、真治君もいろいろ法律にかかわって、なんか、法律に興味があるんだって。」
「へぇ、そうなんだ。真治君は将来、何になりたいの?」
「うーん、前はわからなかったけど、最近は法律もおもしろいなと思うようになって来てます。」
私が口を挟みます。
「え、でも、法律家なんかにならないで、才能があるんだったらそれを伸ばして建築家とかになった方がいいんじゃないか。」
「うーん、それも考えたことありますけどね。」
真治君は考えながら言いました。
「そうですね、確かに建築家もお父さんを見てたらいいなと思いました。」
「パイロットなんかはどう?こんなきれいなスチュワーデスさんにも会えるしさ。」
真理子さんと真治君は大笑いをしていました。
 しばらくのんびりした休日を楽しんでいた三人でしたが、真理子さんの
「ねぇ、こんないいお天気だからドライブに行かない?」
という一言で外出の用意をはじめました。用意をして三人で外に出ました。私はちょっとほろ酔い加減なので、真理子さんが運転してくれることになりました。真理子さんは赤い大きなファイアーバードというアメ車に乗っていました。それもコンバーチブルです。真治君が楽しげに言いました。
「うわぁ、この天気だからホロを開けたら気持ちよさそうですね。」
 真理子さんがそれに応えて「じゃ、そうしようか」ということになり、ホロを開け、真治君が後部座席をひとりで乗っ取り、私は甘い香りのする真理子さんの横に乗せてもらいました。三人は私の家の近所の海を走り、真治君が前に住んでいた高級住宅地のエリアを通り抜け、ゴールデン・ゲート・ブリッジにやってきました。
「うわぁ、空が青いからゴールデン・ゲート・ブリッジの赤が映えますね。」
 真治君は頭の方に迫って見える橋を見ながら感嘆していました。
「すごいよなぁ。アメリカって、こんな橋を1920年代に作っちゃうんだからね。」
私もいつも見るのとは違う感じで、コンバーチブルの車から橋を見ていました。橋を渡りきると、前に真治君をランチに連れてきた海の見えるレストランがありますが、そこの街に行く前に小道をそれると岬の先までぐるりと伸びている道があります。その道を三人で走っていきます。そこは国立公園に指定されているため、まわりに民家もなく緑と広がる海がすがすがしいところです。三人は途中で車を停め、車から降りて伸びをしたり、咲いている花をいろいろ見たりしながら、ぐるっとドライブをしました。
ゆっくりしていたので、帰ってくるともう夕方になっていました。真理子さんは明日のフライトの準備があると言って私たちに別れを告げて帰っていきました。私はちょっと名残惜しかったのですが真治君がいる前なのデレデレはせず、簡単に見送るだけにとどめ、お別れのキスもできませんでした。私も一応弁護士ですからね。
家に入ると真治君は満足げにまた本を読み始め、私も真治君の書類を整えましたが、二人とも外出して疲れたので、晩ごはんは簡単にすませて早く休むことにしました。
 
日曜日はゆっくり寝ようと決めていたので起きたのは10時半くらいでした。私は真理子さんのことを思いながらうたたねにふけって、結局ベッドを出たのは11時半くらいになってしまいました。月曜日から忙しくなるのは間違いないので、日曜日のうちにやれることはやっておこうと思い、法律図書館に行こうかなとも思います。午前中ゆっくりして、またピーツのコーヒーでも買いに行こうかなと思っていると、私の携帯電話が鳴りました。
「淳平さん、私。」
「あ、真理子さんですか。」
「そう、今からもうフライトに出るところなの。明日の夜には帰ってくるから。」
「あ、そうですか。どこまでのフライトなんですか。」
「フィラデルフィアだから、すぐよ。フライトは5時間くらい。」
「そうですか。じゃ、がんばって。明日は何時ごろ、帰って来られるんですか。」
「えっと、明日は朝のフライトだから、こっちに着くのは3時過ぎかな。」
「それじゃ、あの、僕、迎えに行きます。」
「え、ほんとに?」
「うん。早く真理子さんに会いたいし、迎えに行っちゃいます。いいですか。ご迷惑じゃないですか。」
「え、すっごく嬉しいな。」
「じゃぁ、何便か、教えてください。」
「UAの5963便です。」
「わかった。5963便ですね。あの、必ず迎えに行きますから。」
「ありがとう。そうしたら、飛行機の乗降口のところで待ってるわ。」
「それじゃぁ、明日。」
また明日、真理子さんに会えると思うと嬉しくなってきますが、その思いはある程度横へ押しやって、私は仕事をすることにしました。
休日なのでバックパックにいくつかの書類の束と筆記具を詰めて、図書館に向かいます。もちろん、途中ピーツ・コーヒーでコーヒーを買うことは忘れません。日曜日、図書館は12時から開館しているので、中に入って弁護士証を見せます。前にも書きましたが、アメリカの弁護士の仕事というのは、とにかく判例の研究です。判例というのはどういうものかというと、実際に当事者が闘った事件について裁判所が法律的な判断を下したものです。簡単に陪審裁判が行われたり裁判官が判決をすると思われるかもしれませんが、それは間違いです。民事事件でも八割から九割の事件が和解で決着します。和解が成立すれば裁判官はまったく判決を書かなくても済むのです。ですから裁判官としては事件をできるだけ和解で終わらせようとするのも納得いきます。そのような裁判制度を背景にしながらどうしても判決までいってしまう事件について勉強すると、後になっても必ず学べることがでてくるのです。アメリカは判例を重視するのです。日本のように法律が制定されて判例がそこから出てくるといった過程とは逆で、判例が積み重ねられて法律が制定されていくのです。よく聞く話しではアメリカの法律と日本の法律、つまり英米法系と大陸法系の法律とはまったく違うという人もいますがそれは間違っています。どこの国でも人を殺せば悪いことですし、約束を破れば責任を負うのです。ただ、細かいところでどれだけ自由があるかというと、判例から積み重ねたほうが、時代とともに法律の衣替えもできますから、革新的になり、保守的な大陸系の法律と差が出てくるのです。どちらが良いかというとどっちもどっちですけど。
 
私は起訴取下げの申立てに関する判例をどんどん読んでいきます。アメリカの判例の面白さは、ある事件ではどういう人がどういう形で巻きこまれたのかなど具体的な内容が詳細に記載されているからです。過去にある具体例を横目で見て、その事件の内容がどの程度まで現在の事件に影響するのか考えることが非常に大切なのです。具体的な事例でどのような事実が大切なのかを反射的に考え、頭に叩き込めるのかが法律家の条件なのです。判例を読むのに慣れるまでには時間がかかりますが、読むのに慣れると楽しいものです。真治君の事件で、判例を読めば読むほど勝てる自身が沸いてきました。判例漁りに没頭して時間を忘れます。判例から習った知識を紙に書くだけではなく、法廷で使えるように頭に吸収させました。
カリフォルニア州の判例では、麻薬の所持に関しては自宅に麻薬があったというだけでは麻薬所持罪の充分な証拠とは言えず、やはり身体に付着しているか、もしくは本人の支配下にあったか、たとえばハンドバッグの中にあることが要求されています。被告人の支配下に麻薬があったかどうかということが焦点となっています。とするならば、真治君の家から麻薬が見つかったわけですが、現在、真治君が起訴されている、麻薬を「所持していた」という罪における検察側の主張は通りにくいわけです。麻薬はガレージで発見されたわけですから…。もし、真治君のベッドの下にあったのなら話は別なわけです。勝てると確信した私は、必要なポイントを判例を使い研究したのです。
法律武装もある程度満足できるまでおわったので、バックパックを背負い、図書館を後にします。日曜日だというのにまだたくさんの弁護士が机に向かい書類とにらめっこしながらペンを走らせています。ごくろうなことですね。
また明日から闘いのはじまりです。
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