皆様こんにちは、弁護士の戸木です。
アメリカでは映画「バービー」が大ヒットしていますが、ようやくこちらでも「The Fist Slam Dunk」が公開され、早速見に行ってきました。幼少期に読んでいた大好きな漫画の1つということもあり、映画が始まった瞬間から涙が込み上げてしまいました。ただ、スラムダンクの前提知識がないと感動できない部分も多いですし、そもそもバスケはアメリカのお家芸ですから、アメリカで広くヒットする映画にはならなさそうですね。こちらで有名な漫画・アニメといえばドラゴンボールやNARUTOで、異世界の話だったり、The Japan(外国人に映る日本)という設定がウケるようです。 さて、本題に戻り、前回に引き続いて相続に関するお話をしたいと思います。 誰かが亡くなった場合にはプロベートの手続を経なければならず、その過程で、相続に関する情報が公開されてしまうことについては、前回ご説明させていただきました。カリフォルニア州では、遺言が残されているか否かに関係なく、このプロベートの手続を取らなければなりません。つまり、相続対策で遺言を残していても、プロベートを回避できないということなのです。 プロベートは「遺言検認手続」と訳されることが多いですが、日本における検認とは大きく違います。日本では、自筆で書かれた遺言(公正証書の形で作られていない遺言)について、亡くなった人が、民法が定める形式に従って遺言を残したか否かを確認するだけの手続で、どのような遺産が残されているのか、その遺産を具体的にどのように分けるのかという問題までは立ち入りません。 カリフォルニア州では、遺言がある場合であっても、遺言がない場合であっても、いずれにしてもプロベートは必要になり、どのような財産が遺産に入るのか、それがどのように分配されるのかということまで、家庭裁判所が関与して監督されることになります。 前回ご説明したようにプロベートは情報が公開される他、時間もかかりますので、いかにこのプロベート手続を回避するかというのが、相続対策の1つの達成目標になるのです。 まず、オーソドックスな方法として、トラスト(信託)を用意する方法が挙げられます。生前にトラストを組成しておき、そのトラストの名義に財産を移しておき、トラストの中で受益者(Beneficiary)を指定することで、プロベート手続を経ずに遺産を渡すことが可能になります。 トラストや信託というと馴染みにくいかもしれませんが、例えていうとすれば、自分が100%株主かつ代表取締役の会社を立ち上げ、そこに財産を移しておくということです。名義は個人と会社で異なるものの、実質的な持ち主は変わらず自分なので、名義を移した後も自分で財産を自由に管理・処分することができます。名義を変えるというのは仰々しくありますが、結局は犠牲的な話で、非常に簡単にできてしまいます。 とはいえ、トラストを組成してから亡くなるまでに、想定していなかった新たな財産を取得することはあり得ます。トラストに名義を移せていなかった財産をカバーするために、「死亡したときに所有・保有していた財産を、全てトラスト名義にする。」という内容の遺言を作っておくのが一般的です。 これがトラストと遺言を組み合わせたオーソドックスな対策で、当事務所が依頼を受けたときには、必ずこの方法をご案内します。 次に、トラストを使うわけではないプロベート回避方法をいくつかご紹介したいと思います。 1つ目は、日本でもお馴染みの生命保険を使用する方法です。生命保険では受取人(トラストでいう受益者と同様です。)を指定することができるので、相続発生後、受取人が、プロベート等の手続なく財産を受け取ることができます。 2つ目として、銀行口座等に受取人を指定しておく方法もあります。アメリカでは、生命保険同様、受取人を指定することができる銀行口座の種類というものもあります)があり、それを使用することで、プロベート手続を経ることなく、財産を受け取ることができます。例えば、Joint Account(共同口座)を使うと、共同名義人の1人が亡くなると、当然に残りの共同名義人の単独口座になります。また、Payable-on-Death (POD)(死亡時受取人指定口座。主に銀行口座で使います。)やTransfer-on-Death (TOD) (死亡時譲渡口座。主に株式や証券の口座で使います。)というものがあり、これを使用して受取人を指定しておくことで、プロベートの手続は不要になります。 なお、JointやTODの制度は、不動産や自動車に関しても用意されており、それらの財産についても受取人を指定しておくことが可能になっています。 ここまで来ると、「わざわざトラストを作らなくても、JointやTODを使った方が簡単で、弁護士費用も要らないので安上がりじゃないか。」と思われる方もいるかもしれません。 確かに、単純に受取人を指定するだけならこの方法で足りるのですが、トラストは、受取人の範囲や受取方法を細かく定めることができる点に大きなメリットがあります。例えば、お孫さんに遺産を残したいと考えたとします。自分が亡くなったときにお孫さんがまだ未成年だったとしたら、成人していてもまだ大学生で遊び盛りだったとしたら、遺産をいっぺんに渡してしまって安心でしょうか。私が20歳のときに急に大きな財産を手にしていたら、後先考えずに車や遊びに使い果たしてしまった自信があります(笑)。もしこのような不安があるような場合には、トラストで、次のような条件を設定することができます。
このように、遺産を受け取るための条件や、受け取る権利を持つ人に順番を付けたりすることができますので、思い通りの設計をすることが可能なのです。 次に、少し毛色が違いますが、遺言であっても、配偶者に全て渡すという遺言にしておくと、Spouse Property Petition(配偶者財産申立て)という、非常に簡易なプロベート手続で済ませることが可能になっています。この場合には、手続の過程で遺産の内容等の情報が開示されることもありません。 さらに違う観点ですが、遺産が一定額を下回る場合で、かつ法定相続人が全員同意をすれば、遺言やトラストがなくても、Small Estate Affidavit(少額遺産宣誓書)を用意するだけで足り、プロベート手続は不要になります。基準となる一定額は毎年変わるのですが、2022年4月以降は184,500ドルとされています(2022年4月の前は166,250ドルでしたので、インフレの影響か、だんだん金額は上昇傾向にあります)。 なお、法定相続人が全員同意することが前提になっていますので、相続人間で意見に相違があると使えない制度であることにはご留意ください。 日本では、戸籍制度がある関係で、相続の際、情報を公開せずとも相続人間で遺産を分けて行くことが容易になっています。アメリカでは、この前提が大きく違いますし、前回ご説明したように遺留分の制度もありませんので、プロベート回避が相続対策の1つの目玉になるのです。 さて、続いて相続税のお話をしましょう、と言いたいところなのですが、ここまでで非常に長くなってしまいましたので、また次の機会にさせていただければと思います。それでは! こんにちは、弁護士の戸木です。
今週末は、サンフランシスコで、「プライド」というLGBTQの方々の社会運動の場となっている大きなイベントが開かれました。昨年見に行ったときは、コロナ禍が明けた反動からか非常に賑わっていました。サンフランシスコは年中寒く、さらに今週末は天気もあまり良くなかったようですが、今年は昨年以上にさらに熱いイベントになったに違いありません。 さて、今回は、私が日本で執務をしていたときから多く取り扱っていた相続に関するお話です。 相続というと、まず生前の相続対策から考えることが多いです。日本では「争族」等と騒がれていますが、アメリカではエステートプランニングという名称で、相続・老後対策を行うことが一般的になっています。 エステートプランニングで作成する書類として主なものは、遺言、トラスト(信託)、パワーオブアトーニー(財産・健康に関する委任状)、アドバンスヘルスケアディレクティブ(健康に関する事前指示書)、HIPAAオーソライゼーション(健康情報の開示同意書)と多岐にわたっていますが、まず、遺言やトラストを作る際に考慮する、(1) 相続人の範囲、(2) 法定相続分、(3) 遺言・トラスト(遺留分含め)、(4) 相続税から触れていこうと思います。 相続人の範囲ですが、日本でもカリフォルニア州でも、配偶者がいる場合は、配偶者は必ず相続人になります。 日本では、配偶者と並んで相続人になる範囲として以下のような順位が定められています。 (i) 直系卑属(子・孫等) (ii) 直系尊属(父母・祖父母等) (ii) 兄弟姉妹(先に亡くなっている兄弟姉妹がいれば甥姪まで) カリフォルニア州でも、配偶者がいる場合には、配偶者と並んで相続人になる範囲は似通っていて、以下のとおりです。 (a) 直系卑属(子・孫等) (b) 父母 (c) 父母の直系卑属(兄弟姉妹・甥姪等) 一方、配偶者がいない場合には、上記(a)~(c)に加え、以下も相続人の範囲になります。 (d) 祖父母、祖父母の直系卑属(従兄弟姉妹等) (e) 先に亡くなった配偶者の直系卑属 (f) 最も近い血族 (g) 先に亡くなった配偶者の父母、当該父母の直系卑属(配偶者の連れ子等) 日本と比べ、カリフォルニア州ではかなり広い範囲の人が相続人になり得ることが分かります。 日本では、被相続人の全ての遺産について、配偶者と、上記(i)~(iii)うち先順位の総則人が、一定の割合で分割します。 カリフォルニア州では、被相続人の財産を、共有財産と特有財産とに分けるところから始まります。共有・特有の区分けは、日本では離婚の場面でしか登場しない概念なので、なかなか馴染みにくいかもしれません。カリフォルニア州では、離婚をせずとも、共有財産の半分については配偶者のものだと考えられていますので、相続のときにも、まず共有財産の半分については当然に配偶者のものと整理されます。その上で、配偶者は、残りの共有財産について相続することができます。すなわち、共有財産について配偶者が全てを取得するのです。日本では、子がいる場合には、離婚しても相続しても配偶者の取得分の原則半分ですから、大きく違いますね。詳しくは掘り下げませんが、個人的には、カリフォルニア州の整理の方が筋が通っているように思います。 具体的な分割方法は、不動産や動産についての特別規定もあって非常に複雑になっているのですが、原則的には、配偶者がいる場合は、上記のとおり配偶者が共有財産を取得し、配偶者と上記(a)~(c)のうち先順位の相続人とで特有財産を分割します。割合は相続人の状況によって変わりますので、今回は割愛します。配偶者がいない場合には、上記(a)~(g)のの相続人のうち先順位の相続人が取得します。 相続人の範囲や法定相続分は複雑であるものの、この複雑な法定相続分を検討・計算しなければならなくなる場面は多くはありません。というのも、多くの方が遺言やトラストを作っており、それに従って分割がされるからです。 カリフォルニア州で遺言・トラストが多く利用されている背景は色々とあると思いますが、個人的には、戸籍制度が存在しないこと、それに関連してプロベート(日本でいう遺言検認手続)の中で相続に関する情報が公開されてしまうこと、また、遺留分が存在しないこと、などが挙げられると思います。 アメリカには、日本のような戸籍制度はありません。そのため、家族関係を証明する書類がなく、相続人の調査は容易ではありません。相続人を調査する業者(探偵のような位置付けです)がいるほどです。 そのため、誰かが亡くなった場合には、家庭裁判所においてプロベート手続を取らなければならないこととし、さらに、その手続の中で相続に関する情報を公開することで、「私こそが相続人だ」と信じる人に対して名乗り上げる機会を与えることにして、相続人を取りこぼさないような仕組みにしているのです。もちろん時間がかかりますし、プロベートに関する一般的な情報は新聞に、もっと細かな情報も裁判所やウェブサイトで公開されてしまいますので、これを嫌がる人が多く、遺言とトラストを組み合わせたり、受益者を指定する銀行口座や投資口座、保険等を利用したりして、プロベートの対象となる財産を最小限にする工夫をしています。 日本では、配偶者・直系卑属・直系尊属には、最低限保障されている相続分として遺留分がありますが、カリフォルニア州にはありません。意図せずに遺言から除外されてしまった配偶者や子の救済規定はありますが、意図的にこれらの人を除外したのであれば、遺言者の意思が優先されます。もっとも、上で説明したように、共有財産の半分は配偶者のものと考えられていますので、この分を奪うことはできません。 細かい話になってしまいましたが、日本とカリフォルニア州では考え方が異なりますし、日本人であっても、住んでいる場所や財産がある場所によって、どちらの法律が適用されるかが変わります。かなり複雑なので、お困りのことがあれば、是非具体的な情報を伝えた上で、弁護士による助言をもらった方が良いと思います。 この点も含め、次回以降、遺言・トラストの使い方、相続税、その他のエステートプランニングについて引き続きお話ができればと思います。 皆様こんにちは。移民チームの伊藤です。
気がつけば、5月も終わりになりました。5月最終月曜日、アメリカはMemorial Dayの祝日で、先週末は3連休でしたが、Memorial Day WeekendといえばBBQシーズン=夏の始まり!同時にモータースポーツ好きにはたまらない「Indy 500」は最後まで大波乱でした!! さて、これまで大まかにビザの種類について、そして永住権とグリーンカードについてご紹介してきました。グリーンカードというカードには有効期限がありますが、たとえ書類であるグリーンカードが失効しても、取得した永住権自体が失効することではないのは前回触れました。 永住権と同じように、非移民類型のビザにも有効期限があります。非移民類型のビザについても目的ごとに本当に様々な種類があり、有効期限についても様々です。Bビザのように最長10年と長いものもあれば、半年間、またはそれ以下の許可という短いものもあります。Jビザのように最長18ヵ月と細かく決まっているものもあります。ですが注意するべきは、ビザの有効期限と、アメリカでの合法的な滞在期間が全く別の基準で判断されるということです。 今回はこの2つの異なる「有効期限」と「期間」について考えたいと思います。 非移民ビザの有効期限とアメリカでの滞在期間については、はっきりと理解されていなかったり、頻繁に間違って捉えられたりしています。実際、それに絡んだ相談が当事務所にも寄せられます。 第一に、ビザはアメリカに入国する際にのみ必要な書類だということを理解して頂きたいと思います。そしてビザの有効期限は、アメリカに入国するためにそのビザを使うことができる最終日のことです。必ずしもアメリカでの滞在期間を示すものではありません。 ビザはアメリカへの入国を保証するものではありません。渡航者がアメリカ国外から入国する際の許可を申請するものです。 国土安全保障省(U.S. Department of Homeland Security。移民局もこの組織に属する。)の税関・国境取締局(U.S. Customs and Border Protection。略して「CBP」。)の職員がアメリカ入国への可否を決定し、渡航者の滞在期間を決定する権限を持っています。 入国が認められるか否か、更に滞在期間は、入国審査官の「裁量」によって行政判断されるということです。 有効なビザを所持していても、何らかの理由で入国を拒否されてしまう可能性は常に存在するのです。 入国が許可されると、滞在期間および滞在条件がI-94に記録されますので、渡航者はそれを厳守しなければなりません。「知らなかった」では済まされないことですから、皆様には今一度ビザの有効期限だけでなく、I-94滞在期間をご確認頂きたいと思います。 では、このI-94が一体どこにあって、どうやって確認できるのでしょうか。 以前は紙のI-94フォーム(出入国記録)を使用していました。渡航者はI-94フォームを記入し、入国審査官に提出すると、その半券がパスポートにホッチキスで留められていたものです。今となっては懐かしい気がします。 現在この手続は、例外を除いて自動化・電子化されています。入国日、許可された滞在資格や滞在期限の詳細は、CBPのウェブサイトから入手することができます。また外国人登録、在留資格、就労資格の証明の為にI-94フォームが必要な場合にも、上記ウェブサイトより閲覧、印刷ができるようになっています。 実は私自身全く知らなかったのですが、今回この記事を書くにあたってリサーチしている過程で、I-94に関するスマホアプリまで存在するということを知りました。しかもCBPとしては、渡航者にこのアプリを推奨しているということで、私も今ダウンロードしてみたところです。iOSからは631件のRatingがあり、星は2.5/5。微妙な感じですね。 因みに、このI-94は非移民ビザ保持者、およびビザ免除プログラム(Visa Waiver Program)いわゆるESTAに適応されますが、永住者いわゆるグリーンカード保持者には適用されません。 余談ですが、私は苦節10年以上の末、グリーンカードを取得できました。しかしその頃はコロナ真っ只中で、2022年秋にようやく一時帰国することが叶いました。実に8年振りでした。 その時初めてグリーンカード保持者として再入国することになった訳ですが、同時にそれは、私が初めて別室(セカンダリールーム)に通されることにもなったのです。それまでに周りの人達から聞かされていたことを、法律事務所で、しかも移民チームの一員として働き始めた直後に経験しようとは…。別室送りにされ、まさに入国が拒否されてしまうかも知れないという思いが少なからず頭をよぎる、実に興味深い体験をしたのでした。 日本は既に梅雨入りしたようですが、カリフォルニアは最高の気候で、野球観戦にでも行きたい気分になります。ただ残念なのは地元チーム。サンフランシスコジャイアンツは何とか勝率5割(Above five hundredと言います)ですが、オークランドアスレチックスは歴史的なペースで最下位独走中。藤浪投手も酷いものです。ニュースになるのはラスベガスへのチーム移転関連のみ。これでは6月1日から始まるNBA Finals、そして3日から始まるNHL Stanley Cup Finalsの方に期待したい今日この頃です。 それでは次回もどうぞ宜しくお願い致します。 みなさまこんにちは。マーシャル・鈴木総合法律グループの弁護士戸木です。
ベイエリアのオークランドでは、同地区の学校の先生が、待遇改善を求めてストライキを行っていました。先週金曜日の時点でストライキ7日目に入っていましたが、週末に無事に仮合意に至り、月曜日から授業が再開されたそうです。このストライキで35,000人の生徒が授業を受けられなかったそうですが、ストライキのおかげで先生たちの給与が11~22.3%(高い人では年収が1500万円程度)アップしたそうです。 カリフォルニア州に限らず、アメリカでは、「子どもは宝」という意識が広く浸透しています。その裏返しなのか、公立学校の先生の待遇は良いし、能力も非常に高いように感じています。先生の待遇が良くなければ、良い人材も集まりにくいし、良い授業・学校も作れませんよね。 なお、ストライキで訴えられていたテーマには、先生たちの待遇のみならず、貧困家庭の子どもたちへの支援や、学校における資金の使い方に関して学校と保護者がともに投票権を持つというCommon good(共通善)の要求が含まれていたそうです。このCommon good要求についても合意に至ったようですが、実際に運用がどう変更され、学校・地域がどのように変化していくのか、楽しみです。 さて、前回に引き続きテーマは「離婚」、今回は、婚姻費用と子ども(親権、養育費)に関するお話です。 日本では、夫婦間で婚姻費用を分担する(収入が多い方が少ない方に支払う)義務があります(民法第760条)が、カリフォルニア州でも、考え方は全く同じで、Spousal Support(通称「Alimony」)というものがあります。日本では、支払義務は夫婦間のみに発生します(離婚をすれば支払う義務はなくなります)が、カリフォルニア州では異なり、婚姻期間中はもちろん(Cal Family Code §4300)、離婚後であっても一定期間支払義務が続きます(同§4330)。支払期間は、究極的には諸事情を踏まえた裁判官の裁量によって決まりますが、一般的に、婚姻期間が10年未満の場合には婚姻期間の半分の期間、10年以上の場合には無期限とされています。 私自身、カリフォルニア州法を学んだ際に、日本と大きく異なることに非常に驚きました。ただ、離婚に関する日本とカリフォルニア州の制度の違いを考えると、納得が行きました。前回説明したように、カリフォルニア州では、離婚の際に離婚原因は不要とされており(正確には無過失離婚が認められている)、日本よりも簡単に裁判離婚が認められます。日本では、離婚によって経済的に弱い立場に置かれてしまう事態を救済すベく、有責配偶者からの裁判離婚に一定のハードルを課し、その間に有責配偶者に対して婚姻費用の支払を義務付けるなどして、経済的不平等を解消しようとすることがあります。カリフォルニア州では、離婚を簡単に認める代わりに、離婚後も婚姻費用の支払を継続させることで、経済的不平等を解決しようとしているのだろうと思います。 夫婦の片方に婚姻を継続する意思がなくなってしまえば、婚姻生活を継続させることには無理があるでしょう。それを擬制的に継続させて経済的不平等を解決しようとしている日本よりも、婚姻を解消させた上で金銭的な解決を正面から認めているカリフォルニア州の方が、個人的な感覚としてはしっくり来ます。 子どもの親権(Custody)は、Legal custodyとPhysical custodyという概念に分けられており(Cal Family Code §§3002-3007)、日本で言うと、前者は狭義の親権(財産権利権)、後者は監護権にあたります。カリフォルニア州では、いずれの権利も、離婚をしても共同(Joint custody)とするのが原則です(Cal Family Code §3080。共同親権が子どもにとって最大の利益であることを推定することが定められています)。両親が離婚をしても、親子間の身体的・精神的繋がりが当然に断ち切られるわけではありませんから、私はこの建て付けにも共感できます。もちろん、DV等があって親としての資質を欠いている場合は別です。 平等なPhysical custodyを実現するためによく使われる方法が、2-2-3スケジュールという方法です。例えば、ある週は、月火の2日間を父の家で、水木の2日間を母の家で、週末を含む金土日の3日間を父の家で過ごします。翌週はこれを入れ替え、月火は母の家、水木は父の家、金土日は母の家で過ごし、その翌週には再度入れ替える、という方法です。2日ないし3日毎に父母の家を行き来し、隔週でそれぞれの親と週末を過ごすことで、50:50の状況を作ります。とはいえ、これは父母が近くに住んでいる場合でないと実現できないものなので、双方が遠隔地に転居してしまった場合(日本人とアメリカ人の婚姻の場面ではよくあります)には、柔軟に協議して(必要に応じて裁判所が関与して)スケジュールを組むので、日本における面会交流のような行き来がされていることも少なくありません。 養育費(Child support)の支払義務も定められている(Cal Family Code §4503)のも、日本同様です。 日本と大きく異なるのは、DCSS(Department of Child Support Service)という公的機関があり(Cal Family Code §17200; https://childsupport.ca.gov/)、養育費の支払を受ける権利を有する親は、自ら裁判所に申立てをしたり弁護士に依頼したりしなくても、DCSSに申出をするだけで、子どものために申立てをしてくれます。DCSSは代理人になるわけではありませんが、全ての手続をお膳立てしてくれ、DCSSとしての主張もしてくれます。「子どもの最大の利益」(Child’s best interest)を図ってくれますし、後述するように養育費の金額はガイドラインに基づいて算出できるので、安心して任せることができます。 さらに驚くべきなのは、DCSSは申立てと裁判対応のみならず、義務者からの取立てまで行ってくれるという点です。日本では、調停や審判で養育費の金額を決めても、支払が滞ってしまったら強制執行が必要で、そのための財産調査に難航するというケースがままあります。カリフォルニア州では、DCSSが主体的に動いてくれて、銀行預金その他の財産の差押え(正確にはLienという先取特権です)や、税金の還付金の没収等ができますし、義務者が支払を怠っていると、運転免許の停止や専門的な資格のはく奪等の処分がなされることもあり得ます。「子どもは宝」の意識によるものか、「養育費の未払を許さない」という姿勢が強く見て取れます。 ちなみに、DCSSは、Physical custodyを有する親が、子どもを連れて州外・国外に出たとしても、カリフォルニア州法に基づく養育費の支払義務が発生している限り、力を貸してくれます。10年以上前の話ですが、子どもを連れて日本に帰国した親が、カリフォルニア州に基づく養育費を請求できるかどうかが争われた事件があり、当事務所の弁護士が養育費を請求する親を代理し、控訴審で認容判決を勝ち取りました(Marriage of Richardson (2009) 179 CA4th 1240)。もし同じような境遇の方で養育費の未払に困っているということであれば、是非連絡をしてみることをお勧めします。 上で少し触れましたが、カリフォルニア州には、日本同様、婚姻費用と養育費の金額を算出するためのガイドラインが存在します。サンフランシスコ・ベイエリアでは、ガイドラインに基づいた金額を計算するためのDissoMasterというソフトウェアもあるので、このソフトウェアに収入、支出、子どもの人数等を入力することで、すぐに計算が可能です。日本における現行算定表のように、収入額が表の上限を超えてしまって計算ができないという事態も生じないようになっています。 例えば、サンタクララ郡(シリコンバレーが位置するエリア)のガイドラインを使用し、父の月収を5,000ドル(約68万円)、母の月収をゼロ、子ども(1人)と過ごしている時間を50:50と入力したところ、婚姻費用は月額1,025ドル(約14万円)、養育費は754ドル(約10万円)と算定されました。子どもと過ごしている時間について父0:母100とした場合には、婚姻費用は月額1,224ドル(約17万円)、養育費は995ドル(約14万円)になりました。養育費の金額については、DCSSが計算ソフトをオンラインで公開しているので、必要になったときは是非ご覧ください(https://childsupport.ca.gov/guideline-calculator/)。 なお、日本の裁判所が公開している算定表(子1人表・0~14歳)で見ると、婚姻費用は16~18万円の範囲、養育費は10~12万円の範囲になりましたので、金額自体はそこまで差がなさそうです。もっとも、婚姻費用が離婚の後に継続するか否かは異なる部分ですので、婚姻期間が長いと、カリフォルニア州に基づく婚姻費用の方が、支払額が多くなりそうです。 以上が、私がカリフォルニア州弁護士として執務をし始めてからの約1年間で経験した離婚案件に関して得て知識でした。まだまだ知らない論点が多くあり、日々勉強しながら事件対応をしているところです。 皆様こんにちは。移民チームの伊藤です。
4月の投稿がとても遅くなってしまいましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 過去2回は、それぞれ非移民ビザ、移民ビザについてお話しました。 今回は、永住権とグリーンカードについて考えたいと思います。 永住権とグリーンカードは、しばしば移民ビザと混同されると前回お伝えしました。 少しおさらいをすると、移民ビザはアメリカに移住する人が、渡米前に取得しなければならないものです。 移民ビザで入国が許可された時点で渡航者は永住権を得たことになり、グリーンカードが後日郵送されます。 移民ビザがアメリカ国外で発行されるのに対して、グリーンカードはアメリカ国内でのみ発行・更新されます。 永住権とは、アメリカに永住する資格のことです。 そして米国永住者の資格を証明して交付される公文書がグリーンカードです。 グリーンカードには期限があり、更新手続きが必要です。 しかしグリーンカードを期限内に更新しなかったからといって永住権自体は失効しません。 たとえグリーンカードが失効しても、永住者としてのステータスまでも失効する訳ではないのです。 グリーンカードの更新手続きを忘れていたり遅れたりした方でも、「永住権が切れてしまった!」と絶望する必要はありません。 また、やむを得ぬ事情でアメリカを長期間離れてしまった方も、永住権が失効したと決めつける必要はありません。 実際コロナ禍が落ち着いてきた昨今、何年振りかに有効なグリーンカードで入国を許可されたクライアント様もいらっしゃいます。 個々のケースによって事情は異なりますし、入国が許可されるかどうかは最終的には入国管理の“裁量行為”です。 絶対はありませんので、ご留意ください。 米国移民法は「移民として米国に入国した人は米国に移住する」ということを前提としています。 永住権保持者が米国外に1年以上滞在する場合には、移民局からの事前承認を得る必要があります。 その事前承認とは再入国許可証の取得のことです。この再入国許可証については、また別の機会にお話したいと思います。 グリーンカードという名称もすっかり定着していますが、正式には「永住者カード(Permanent Resident Card)」、もしくは認知度は低いですが「Form I-551」とも呼ばれます。グリーンカードには、有効期限が10年間の永住者カード(Permanent Resident Card)と、2年間の条件付永住者カード(Conditional Permanent Resident Card)があります。 自分が今どのような永住者のステータスで、グリーンカードの有効期限がいつまでか、というのは正しく理解しておくべきですね。 もし分からない、確認したい、という方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。 さて、March Madnessが終わって(おめでとう、UCONN!おめでとう、LSU!)、4月、日本は新学期ですね。アメリカの新学期は8月か9月からですが、それでも4月は新しいシーズンが開幕する時期です。America’s Pastime。そう、野球。メジャーリーグです。同時に、NBA(プロバスケットボール)やNHL(プロアイスホッケー)はプレーオフが始まり、更なる熱戦が繰り広げられています。日本人選手たちの活躍からも目が離せませんね! みなさまこんにちは。マーシャル・鈴木総合法律グループの弁護士、戸木です。
さて、今回は、私が当事務所に参画してから多く相談を受けている「離婚」についてお話をしたいと思います。 偉そうに言う話ではありませんが、私が日本で弁護士登録をしてから留学に出るまで、離婚案件の受任を極力避けるようにしていました。というのも、日本では当事者同士で離婚するか否かの方針が一致しておらず、かつ離婚事由(不貞事実等)がないと、そもそも離婚が成立せずに泥沼化して、長期間にわたって根本的な紛争解決に至らないケースがあり、気後れしていたことが原因です。 しかし、当事務所に来てからは、カリフォルニアに本拠地を移した日本人夫婦、アメリカ人と結婚してカリフォルニアに住んでいる日本人の方々から、カリフォルニアで離婚をするつもりだけど、ネイティブの日本語で相談したいという相談を多く受けるようになり、当事務所以外に担い手となれる事務所がない(少なくとも私が知る限りでは、カリフォルニアに限らず1つも知りません。)ことから、最近は積極的に受任させていただいています。 日本語で離婚の相談を受けられる事務所を知らないと書きましたが、おそらく日系アメリカ人の弁護士が執務している事務所を探せば、一定数は見つかるのではないかと思います。ただ、中にはネイティブの日本語での意思疎通には限界がある方がいて、相談される方が満足できないケースがあるということも聞いています。 さて、本題に戻ります。カリフォルニアと日本の離婚に関し、大きく違っているのは主に以下の点です。
それぞれ個別に見ていきたいと思いますが、まず、管轄についてご説明したいと思います。 冒頭に「カリフォルニアに本拠地を移した日本人夫婦」と書きましたが、「日本で結婚した日本人同士の夫婦なのに、カリフォルニアで離婚?」と思われた方もいるかもしれません。この問いに答えるためには、離婚案件をどこの裁判所で取り扱えるのか、いわゆる「管轄」の問題を紐解かなければなりません。 カリフォルニアでは、州裁判所に離婚申立てをできるのは、カリフォルニア州内に直近6か月以上居住しており、かつ、申立書を提出する州裁判所が位置する郡(County)に直近3か月以上居住している人に限る、という居住要件があります(California Family Code 2320(a))。カリフォルニアに住んでいる夫婦であれば、この要件を満たすのは簡単ですね。 日本では、夫婦が日本に住んでいなくても、夫婦の双方が日本国籍であれば、離婚と財産分与についての事件は扱ってもらえます(人事訴訟法3条の2第5号、同3条の12第2号、同3条の13第1項第1号)。しかし、親権に関するものは、子の住所が日本国内にあるとき(家事事件手続法3条の8)、婚姻費用や養育費等の扶養義務に関するものは、少なくともどちらかの住所が日本国内にあるとき(同3条の10)でないと、取り扱ってもらえません。つまり、夫婦と子の全員の住所がカリフォルニアだと、少なくとも、親権、婚姻費用、養育費に関する内容はカリフォルニアの裁判所でしか取り扱ってもらえないという整理になります。もっとも、特別な事情があるときには、法律的には管轄がなくても、日本の裁判所の個別判断で取り扱ってもらえる(自庁処理)ケースもあるようなので、この点は是非弁護士に個別に相談してみてください。 具体的な離婚の方法に移りますが、日本では、当事者同士が離婚に承諾していれば、役所に行って離婚届を出せば手続は終わりです(いわゆる「協議離婚」)。財産分与や親権等の条件は話し合う必要があるものの、離婚すること自体は難しくありません。しかし、カリフォルニアでは、協議離婚という概念がなく、全ての離婚に裁判所が関与し、判決をもって離婚させられることになります。そのため、離婚しようとするときには、必ず当事者の双方又は一方が、住んでいる郡の州裁判所の家庭裁判所(Family Court)に、離婚申立書(Petition for Divorce)を提出する必要があります。 とはいえ、離婚やその条件に同意できている方も多くいらっしゃいますので、その場合には、事前に離婚協議書(Marital Settlement Agreement。通称「MSA」)を締結し、そのとおりの内容で離婚を認めて欲しいと申し出ることができ、裁判所はその内容のとおりに判決を下します。また、当事者の一方が離婚を申し立てたが、相手方が何の対応もしなかった場合には、欠席判決が下され、申立書の内容のとおりの判決が下されます。 裁判手続と聞くとややこしそうですが、申立書や答弁書(Response)もその他の書式も、記入欄を設けてあるPDF書式が公開されており、内容も分かりやすく作られています。裁判所に行けばセルフヘルプの窓口もあり、弁護士を建てていない方は、そこで書面の作成方法等について手取り足取り教えてもらうことも可能です。 1つ面白いのは、カリフォルニアでは、離婚申立てから離婚判決まで、必ず6か月以上の期間を置かなければならないことが定められていることです。いわゆる「クーリングオフ期間(Cooling-off period)」と呼ばれる制度で、一時的な感情で離婚することを防ぐ趣旨があるようです。このクーリングオフ期間にどれほどの申立てが撤回されているものなのか、いつか機会があったときに調べてみたいと思います。 双方合意しているケースが欠席判決のケースでなければ、申立人は申立書の提出から60日以内に、申立書を受け取った相手方は答弁書の提出から60日以内に、財産の開示(Preliminary declaration of disclosure。通称「PDD」)をしなければならず、この開示をもとに財産分与や婚姻費用、養育費の金額を決めていくことになります。開示を拒んだ場合には、召喚状(Subpoena)を発行した強制的な開示手続やペナルティ等も用意されていますが、細かいので別の機会にお話ししましょう。 次に、日本とカリフォルニアの違いで面白いのが、カリフォルニアでは、裁判離婚が認められるための離婚事由は不要という点です。正確には、California Family Code 2310には、(a)和解しがたい相違があり、それによって婚姻が修復不可能な状態に陥っていること、又は(b) 意思決定を行う法的能力を永続的に欠いていること、という要件が定められていますが、当事者の一方の離婚意思が固ければ(a)の要件を満たすことになるので、日本の民法で定められているような離婚原因は求められていないといえます。 個人的には、日本とカリフォルニアのこの差が許容されるのは、婚姻費用の支払義務がいつまで続くのかという問題と大きく関連しているように思います。日本では、婚姻費用は婚姻中(離婚が決まるまで)しか支払義務が生じませんが、カリフォルニアでは、婚姻の期間に応じて、婚姻後にも支払義務が継続します。日本では、経済的に弱い立場にある当事者が離婚によって不利な状況に置かれるのを防ぐために、離婚を簡単に認めずに離婚時期を後ろ倒しにし、婚姻費用の支払によって実質的に救済をするという手法が取られることがあります。カリフォルニアでは、離婚後も婚姻費用の支払が継続することから、このような救済の要否を考える必要がなく、離婚原因が不要であることによる問題が生じにくいのだろうと思います。 少し長くなりましたので、婚姻費用と子ども(親権、養育費)の話は次回にさせていただきたいと思います。 サンフランシスコ・ベイエリアでは、年末年始の大雨から続いて断続的に雨が振り、涼しい日が続いていますが、天気予報を見ると来週は20℃を超える日が出てくるようで、いよいよ春ですね。 今週から野球も開幕しました。本日は阪神からオークランド・アスレチックスに移籍した藤浪選手の初登板ということで、家族を連れ立って観戦に行って参ります。大谷選手との対決も見られますし、天気も良いので、非常に楽しみです。 皆様こんにちは。移民チームの伊藤です。
昨日のWBC準決勝は、日本の大逆転に湧きましたね。あきらめたらそこで試合終了ですよ、と聞こえてきそうでした。そして奇しくも日米対決となった今日の決勝は、更に劇的な日本の優勝で幕を閉じました。おめでとう、侍ジャパン! しかし私個人としては、3月と言えばやはり「March Madness」。全米が大学バスケに熱狂する時期です。この「3月の熱狂」は4月迄続き、今年の準決勝は4月1日、決勝は4月3日です。要チェックや! 先月は、非移民ビザ(Nonimmigrant visa)についてお話しました。今回は、もうひとつの類型である、移民ビザ(Immigrant visa)について考えたいと思います。前回お話したように、ビザには移民ビザと非移民ビザの、大きく分けて2種類があります。ですが皆さんが一般的に持つ「ビザ」のイメージは、非移民ビザ、たとえば学生ビザや就労ビザの方なのではないかなと思います。 では、移民ビザとはどういったものなのか考えていきましょう。 移民ビザとは、読んで字の如くアメリカに移住を希望する人(移民)が申請するビザです。それはグリーンカード、いわゆる永住権のことでしょ、と思われるかも知れません。実際、同義語のように使われたりしますが、移民ビザ、グリーンカード、永住権には、はっきりとした区別があります。 先ず、ビザ(査証)とはアメリカに入国する際に必要な書類で、パスポートに貼付されます。当事務所代表の鈴木は、比喩として、ビザとは通行手形であると20年以上言い続けています。入国するのに必要な書類ですから、ビザは当然アメリカ国外で発行されます。発行するのは、在外のアメリカ大使館および領事館です。 一方でグリーンカードはアメリカ国内でのみ発行される、文字通りカードです。グリーンカードの更新や再発行についてもアメリカ国内でないと申請ができないルールになっています。発行するのは、米国移民局(USCIS)です。 最後に永住権は、米国永住者としての資格のことです。ビザやグリーンカードのような有形物ではく、あくまで権利です。アメリカに住み続けていて且つ犯罪を起こしたりしない限り、またはアメリカ国外に滞在していても永住資格を維持するための手続きを適切に行っている限り、永住権は失効しません。その意味では、2年や10年など、はっきりとした期限があるグリーンカードとも違う訳です。 さて、もう一度移民ビザに話を戻しましょう。 非移民ビザに期限があるように、移民ビザにも期限というものはあります。通常、移住希望者は移民ビザが発行されてから6か月以内にアメリカに入国しなければなりません。そして期限内に入国すると、グリーンカードが発行されるという流れになります。 とても重要な事なのですが、移民ビザを申請する人でも、先ずはアメリカ国内で永住権申請をしなければならないのです。移民ビザを在外公館で申請する為には、その前に必ずUSCISで請願書の許可を得ていなければなりません。更にこの請願書を提出できるのは、一定の条件を満たした申請者の家族、もしくは雇用者だけです。 移民ビザ=永住権、グリーンカードと勘違いされる理由は、この点ではないかと思います。 本当にややこしいと思うのですが、次回はグリーンカードと永住権についてもう少し掘り下げて考えたいと思います。 もしビザや永住権などについて疑問や不安をお持ちの方がいらっしゃいましたら、当事務所ウェブサイトからいつでもお気軽にご相談ください。 冒頭で触れた「March Madness」とは、NCAA(全米大学体育協会)のディビジョンI所属大学から選抜された64チーム(2011年からは68チーム)によるポストシーズントーナメントです。今年も1回戦から番狂わせが相次ぐ、まさにMadness!23日から始まる3回戦に駒を進めた16強(Sweet Sixteen)、そして8強(Elite Eight)、4強(Final Four)、決勝となる訳ですが、その洒落たネーミングセンスに私は脱帽です。そうそう、68チームを選出するトーナメント開始前最後の日曜日のことはSelection Sunday、そして1回戦前の4試合のことはFirst Fourと言います。皆さん、法則はお分かりになりましたか? それにしても日本、おめでとう!!それでは、また次回も宜しくお願い致します。 皆様こんにちは。弁護士の戸木です。
今週の木曜・金曜と、シカゴで行われているABA Techshowというコンベンションに参加して来ました。アメリカの弁護士協会が主催しているテックショーなので、いわゆるリーガルテックの企業が集まります。アメリカ中からのみならず、スコットランド、ニュージーランド、コロンビアから来た企業もありました。ABA Techshowの様子は、また別の機会でご紹介できればと思います。 さて、先月に引き続き、カリフォルニア州でビジネスをされる方が興味をお持ちであろう分野について概要を解説していきたいと思います。今回は、カリフォルニア州での雇用契約の期間と終了についてです。 アメリカでの雇用契約といえば「at-will」の契約で、いつでも雇用主から解雇が可能と考えていらっしゃる方が多いかと思います。基本的にはそのとおりです。その原則があるからこそ、昨今のTwitterやGoogleによる大量レイオフが可能になっていると言っても良いでしょう。 しかしながら、もちろん被用者にとってみれば、急な失職は生活の基盤を揺るがす一大事です。そのため、もちろんアメリカでも被用者保護の考え方はあり、カリフォルニアはその中でも被用者保護の考え方が強い州と言われています。 まず、アメリカでも、日本同様、有期雇用と無期雇用の区分けがあります。 有期雇用については、雇用期間中に理由なく解雇することはできません。これは日本と同じですね。 一方、無期雇用の場合が大きく異なります。原則として、雇用主からでも被用者からでも、いつでも解除(解雇)可能とされています。雇用契約の中にat-willの条項(いつでも解除可能とする条項)を盛り込むのが通常ですが、仮にその条項が入っていなくても、無期の雇用契約はat-willの性質を有しているものと解釈されています(Cal. Labor Code Section 2922)。 ドラマのようですが、朝、いつものように出社してカードキーでゲートを通ろうとするとなぜか通れず、受付に聞くと「今日で解雇です」と告げられ、その場でPCやカードキー等の貸与品をか回収され、自席の荷物は既に箱にまとめられていてそこから私物だけ取り出し、上司や同僚に別れを告げる機会もないまま会社を去るということもあるそうです。考えるだけで背筋が凍ります。 いつでも解雇ができるとは言っても、雇用主が好き勝手できるわけではなく、きちんと例外があります。Public policy(公序良俗)に反する場合や、被用者が一定期間の雇用継続を期待していたような場合等です。Wrongful termination(不当解雇)と呼ばれ、被用者からの損害賠償請求の原因になります。 アメリカは多民族国家であることもあり、差別に非常にセンシティブな国です。特に差別が禁止されている要素として、人種、肌の色、宗教、性別、年齢、障害の有無、家族環境、出自等が挙げられますが、これらの差別が解雇の原因・動機になっていると、Wrongful terminationになります。 また、被用者が雇用主の違法行為等を指摘したことに対する報復措置として解雇をしたと認められると、それもまた損害賠償請求の対象となります。Whistleblower protection(Cal. Labor Code Section 1102.5)と呼ばれるもので、日本が公益通報制度を整備する際に参考にしたものの1つです。 さらに、ご存知の方も多いと思いますが、アメリカには、Punitive damage(懲罰的損害賠償)という制度があります。加害者の行為が特に悪質であったときに、行為の悪質性や加害者の資力を基礎に、実損とは別に、懲罰的損害の支払が義務付けられます。 懲罰的損害を加えて、結局どれくらいの金額が認容されるかはケースバイケースとしか言えないのですが、金額が大きい例として、以下のような例があります。
雇用主である会社の規模が一定規模になると1億円程度の損害賠償を想定せざるを得なくなりますので、企業としては非常に気を付けたいところです。 以上のとおり、at-willが原則とはいえ、例外に当てはまると損害賠償の金額が大きくなるのみならず、最終的には一般市民である陪審員が事実認定や損害額の判断をすることから被用者側に有利な判断がされることが多いのが現実です。不用意に不誠実な解雇をしてしまうと、紛争化して莫大な損害賠償義務を負うことになる可能性があることを考えると、雇用主としては解雇の判断には慎重にならざるを得ないのです。 シカゴほどではありませんが、ベイエリアも寒い日が続いています。ロサンゼルスで雪も降ったようで、少し異常気象のようです。 皆様くれぐれも暖かくしてお過ごしください。 はじめまして。サンフランシスコの法律事務所Marshall Suzuki Law Group, LLP、移民チームリーダーの伊藤と申します。
2月1日より当事務所の弁護士、戸木と共にこのMSLGオンラインマガジンを始めさせていただくことになりました。移民・入国管理に関する内容を中心にアメリカ生活のお役立ち情報を発信していきたいと思っています。私は大のスポーツ好きですので、それに絡めたお話もしたいと思っています。お客様とも、スポーツの話を色々できればいいなと思っております。今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。また、移民法については、毎日色々な疑問が当事務所に寄せられますが、トピックによっては、皆さんとシェアしたほうが良いものもあります。皆様からコラムにコメントをいただけましたら、出来る限りお応えしたいと思います。 簡単に自己紹介をさせてください。1998年に留学という形で渡米して以来、気が付けばアメリカ生活の方が日本の生活より長くなってしまいましたが、その殆どをサンフランシスコベイエリアで過ごしています。その間、F-1(学生)ビザ、OPT(プラクティカルトレーニング)、H-1B(就労)ビザ、E-2(投資家)ビザ挑戦…etc.の紆余曲折を経て、グリーンカード(永住権)を取得しました。また会社としてサポートする側でも、Mビザ、Jビザ、Qビザなど多岐にわたって関わってきました。このような自分の経験から、ビザや永住権にはとても深く関わっていたのです。当事務所には戸木から1か月遅れの2021年9月に移民チームに入り、今年2023年1月よりチームリーダーを拝命いたしました。ですが元々、私自身が移民業務のクライアントとして2009年から当事務所でお世話になっていました。自分のことで苦労して、時間も掛かったので、このマガジンに興味を持って下さる皆さんのお気持ちに寄り添えるのではないかと思います。これからどうぞ宜しくお願い致します。 今回、まず初回ということで、アメリカにおけるビザの種類についての豆知識をお話したいと思います。ビザの種類にはアルファベットが沢山出てきます。Hが就労、Eが投資家などは一般的にもよく知られていると思います。ですが皆さんはどのようにしてアルファベットが割り振られているかをご存じでしょうか?知っている方はあまりいないのではないかと思います。私も当事務所で働き始めるまで知りませんでした。それどころかHが就労、Eが投資家という表現自体が厳密には正しくありません。 ビザの種類というのは、Aから始まってアルファベット順にB、C、D、….、Vまであります。 そしてそれらは全て合衆国法典(United States Code)という公式法令集に載っている順番に従ったものなのです。 アルファベットの「A」は外交官、外国政府関係者です。なるほど、AmbassadorのAと考えると覚え易いですね。 「R」は宗教活動家。Religiousな活動だからRなのですね。それ以外にも例えば「T」はVictims of Trafficking、人身売買被害者です。Human TraffickingのTなのだなと思えるでしょう。以上のように、ある程度の法則的なものは存在するように思います。 しかし全てが連想できるアルファベットではありません。私は、さきほどEビザが投資家であると書きました。起業家や事業主を意味するEntrepreneurからEになったのだと、以前は本当に思い込んでいたのです。ですが実際には「E」は貿易・投資駐在員で、ご存じの方もいらっしゃるでしょうがE-1は貿易駐在員、よく聞くE-2は投資駐在員を指します。当事務所でも取り扱いが一番多いこのEビザについては、別の回で詳しく考えていきたいと思います。 同じように、学生ビザと一口に言ってもFだけでなくM、そしてJも該当します。 「J」は一般的に研修やインターンシップ用と呼ばれたりもしますが、交流訪問者です。教授、学者、講師などのカテゴリーの他に、オペア(Au pair)と呼ばれるチャイルドケアも含まれます。交流訪問者にもJ以外にQといって国際文化交流という枠もあります。 多岐に渡る交流訪問者ビザが存在するのです。ビザには本当に様々あって、種類も数えきれないほどあるということです。NATO、 北大西洋条約機構の職員用にはNATO visaというのまであります。 今回の最後になりますが、ビザには大きく分けて2種類、移民ビザ(Immigrant visa)と非移民ビザ(Nonimmigrant visa)があります。今回お話したのは非移民ビザについてです。次回はもう1つの移民ビザについてお話したいと思います。 さて、先週末の12日はアメリカ最大のスポーツイベント、スーパーボウルでした。皆さんご覧になりましたか?私は友人宅で楽しく観戦しました。ド派手なハーフタイムショー、1本うん億円と言われるCMなども毎年注目を集めますよね。ただ、あれはフットボールのBall(球)ではなく、Bowl(鉢、椀)だから「ボウル」なのです。スーパーボールだとロングバケーションの方になってしまいます。因みに英語ではBouncy Ball(弾むボール)という呼び名が一般的です。 久しぶりにロンバケが観たくなりました。瀬名君はO-1Bビザでボストンに渡ったのかな?などと考えてしまうのは私だけでしょうか。それでは次回も宜しくお願い致します。 皆様はじめまして。Marshall Suzuki Law Groupの戸木と申します。
カリフォルニア・ベイエリアでは年末から豪雨に見舞われていましたが、1月中旬からは晴れ間が出てきて、気温もかなり暖かくなってきました。久々に快晴になった初日は、ちょうど阪神タイガースの藤浪選手がベイエリアに本拠地を置くオークランド・アスレチックスへの入団会見を行なっていましたね。私自身、神戸育ち・阪神が日本一になった1985年生ということで、根っからのトラ党で、同じエリアの大谷選手との直接対決が見られる可能性が高いので、今からワクワクしています。 さて、当事務所の代表である鈴木が、25年以上に渡って「法律ノート」と題して一般的な法律相談にマガジン形式で回答しているのは、皆さんもご存知かも知れません。それに啓発された私と、今年1月から新たに移民チームのリーダーを拝命した伊藤とで、法律その他のお役立ち情報を発信してみたいと思い立ち、このマガジンを始めさせていただきました。 是非、我々のマガジンをお読みいただいた感想等をいただけますと、幸甚です。 遅くなりましたが、簡単に自己紹介をさせてください。私は、2012年に日本で弁護士登録をして日本の法律事務所で執務した後、2020年8月から米国のロースクールに留学し、その後2021年8月から当事務所でインターン生として執務を始め、2022年5月にカリフォルニア州で弁護士登録が済んでからは本格的にカリフォルニア州弁護士として参画しております。何卒、よろしくお願いいたします。 今回は、カリフォルニアでビジネスをされている方が興味を持たれるであろう、カリフォルニアの個人情報規制「CCPA」について、概要をまとめてみたいと思います。 まず、CCPAとは、2018年に制定されたCalifornia Consumer Privacy Actという法律(Civil Code § 1798.100〜1798.199.100)で、日本でいうところの個人情報保護法です。カリフォルニア州の住民に対して様々な権利を与える法律なので、カリフォルニア州に住む顧客がいらっしゃる事業者の方は注意する必要があります。ヨーロッパで制定されて世界を騒がし続けているGDPRは、EUの市民が権利を有するとされていますね。 CCPAが制定されたこと自体が騒がれましたが、最近は、CPRAによって規制が強化されることで、また話題になっています。CPRAは、2020年に議会承認を得て2023年1月から施行されたCalifornia Privacy Rights Actという新法で、CCPAを改正する法律です。CPRAでは、CCPAの対象となる事業者の範囲を調整したり、新たな権利を創立したり既存権利を修正したりしています。CCPAとは別の名前が付けられていますが、結局はCCPAの改正に過ぎませんので、これからも注視すべきなのはCCPAということになります。 では、内容の概要に入っていきましょう。(概要をまとめているものに過ぎませんので、正確な要件や適用については個別に弁護士にご相談ください。) まず、個人情報(Personal Information)とは何でしょうか。CCPAでは、「直接か間接かを問わず、特定の顧客又は世帯を(と)、識別し、関連し、叙述し、合理的に関連付けられ得る、又は合理的に紐付けられ得る情報を指す。」とされています(Civil Code § 1798.140(v)(1))。ただし、「公に利用可能な情報や、適法に入手された、公共の関心事項である真実の情報については、規制対象からは除外する。」とされています(同(2))。なお、この中の「顧客」の定義として、「カリフォルニアの住民」であることが定められています(Civil Code § 1798.140(i))。 日本では特定の個人を識別することができる情報とされているので、CCPAの対象はかなり広くなっています。 CPRAでは、個人情報の類型として、センシティブ個人情報(Sensitive Personal Information)という類型が新たに創設されました(Civil Code § 1798.140(ae))。センシティブ個人情報には、ソーシャルセキュリティ、運転免許及びパスポートの番号、ログイン、クレジットカード及びパスワード等の情報、位置情報、人種、出自及び宗教、郵便、Eメール及びテキストメッセージの内容、並びに遺伝子情報等が含まれます。 CCPAを考える上で最も重要なのは、どのような事業者が規制を受けるのかという点です。CCPAの規制対象となる事業者は、以下のとおりとされています(Civil Code § 1798.140(d)(1))。 ① 当年1月1日時点で、年間売上が$25,000,000を超えている事業者 ② 1年間に100,000以上のカリフォルニア州の住民又は世帯の個人情報を購入し、販売し、又は共有している事業者(従前は50,000以上とされていたのが100,000以上とされました。中小企業というより大企業向けの規制であるという趣旨が読み取れます。) ③ 顧客の個人情報の販売又は共有によって50%以上の利益を得ている事業者(CPRAによって「共有」している事業者も対象に含まれました。) そもそも上記に含まれなければ、CCPAの要件を遵守する義務は生じないということになります。 では、CCPAの適用と受けるとしたら、具体的にどのような義務が生じるのでしょうか。CCPAでは、カリフォルニア州の住民に対して以下のような権利を与えているので、これらの権利を実現するために必要な対応をとらなければなりません。 ① 知る権利(取得する個人情報、取得源、利用目的、個人情報を開示する第三者の種類、第三者に売却又は共有する個人情報の種類、等)(Civil Code § 1798.100, 110, 115) ② 個人情報を削除する権利 (Civil Code § 1798.105) ③ 個人情報の売却や共有からオプトアウトする権利(Civil Code § 1798.120) ④ 不正確な個人情報を修正する権利(CPRAで創設された権利です。)(Civil Code § 1798.106) ⑤ センシティブ情報の利用又は開示を制限する権利(これもCPRAで創設された権利です。)(Civil Code 1798.121) また、事業者には、顧客が上記の権利を行使したことによって差別してはならない義務(Civil Code § 1798.125)や、顧客が各権利を有していることを開示したりプライバシーポリシーを用意したりする義務(Civil Code § 1798.130(a)(1), (5))等が課せられています。 事業者がCCPAに違反した場合には、1件につき$2,500(故意の場合は$7,500)の行政罰(Civil Code § 1798.155)や、差止め及び民事違約罰(Civil Code § 1798.199.90)を課される可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。 以上、マガジンの第一弾として、CCPAの概要をご紹介させていただきました。これからも、伊藤と私とで、月に約2回の程度の頻度で、お役に立ちそうな情報をお送りできればと思いますので、お付き合いいただけましたら幸いです。 日本全体的に大寒波がやってきていたそうですが、まだまだ寒い日は続きそうですね。こちらはコロナに限らず風邪が流行っています。くれぐれも皆さまご自愛ください。 今後ともよろしくお願いいたします。 |
MSLGMSLGのニュース等をアップデートしていきます。メールマガジンへの登録は、ホームからお願いします。 アーカイブ
November 2024
|
All Rights are Reserved, 2000-2022, Marshall Suzuki Law Group, P.C. All Photos were taken by Takashi Sugimoto Privacy Policy English Privacy Policy Japanese |