皆様こんにちは。弁護士の戸木です。
今週の木曜・金曜と、シカゴで行われているABA Techshowというコンベンションに参加して来ました。アメリカの弁護士協会が主催しているテックショーなので、いわゆるリーガルテックの企業が集まります。アメリカ中からのみならず、スコットランド、ニュージーランド、コロンビアから来た企業もありました。ABA Techshowの様子は、また別の機会でご紹介できればと思います。 さて、先月に引き続き、カリフォルニア州でビジネスをされる方が興味をお持ちであろう分野について概要を解説していきたいと思います。今回は、カリフォルニア州での雇用契約の期間と終了についてです。 アメリカでの雇用契約といえば「at-will」の契約で、いつでも雇用主から解雇が可能と考えていらっしゃる方が多いかと思います。基本的にはそのとおりです。その原則があるからこそ、昨今のTwitterやGoogleによる大量レイオフが可能になっていると言っても良いでしょう。 しかしながら、もちろん被用者にとってみれば、急な失職は生活の基盤を揺るがす一大事です。そのため、もちろんアメリカでも被用者保護の考え方はあり、カリフォルニアはその中でも被用者保護の考え方が強い州と言われています。 まず、アメリカでも、日本同様、有期雇用と無期雇用の区分けがあります。 有期雇用については、雇用期間中に理由なく解雇することはできません。これは日本と同じですね。 一方、無期雇用の場合が大きく異なります。原則として、雇用主からでも被用者からでも、いつでも解除(解雇)可能とされています。雇用契約の中にat-willの条項(いつでも解除可能とする条項)を盛り込むのが通常ですが、仮にその条項が入っていなくても、無期の雇用契約はat-willの性質を有しているものと解釈されています(Cal. Labor Code Section 2922)。 ドラマのようですが、朝、いつものように出社してカードキーでゲートを通ろうとするとなぜか通れず、受付に聞くと「今日で解雇です」と告げられ、その場でPCやカードキー等の貸与品をか回収され、自席の荷物は既に箱にまとめられていてそこから私物だけ取り出し、上司や同僚に別れを告げる機会もないまま会社を去るということもあるそうです。考えるだけで背筋が凍ります。 いつでも解雇ができるとは言っても、雇用主が好き勝手できるわけではなく、きちんと例外があります。Public policy(公序良俗)に反する場合や、被用者が一定期間の雇用継続を期待していたような場合等です。Wrongful termination(不当解雇)と呼ばれ、被用者からの損害賠償請求の原因になります。 アメリカは多民族国家であることもあり、差別に非常にセンシティブな国です。特に差別が禁止されている要素として、人種、肌の色、宗教、性別、年齢、障害の有無、家族環境、出自等が挙げられますが、これらの差別が解雇の原因・動機になっていると、Wrongful terminationになります。 また、被用者が雇用主の違法行為等を指摘したことに対する報復措置として解雇をしたと認められると、それもまた損害賠償請求の対象となります。Whistleblower protection(Cal. Labor Code Section 1102.5)と呼ばれるもので、日本が公益通報制度を整備する際に参考にしたものの1つです。 さらに、ご存知の方も多いと思いますが、アメリカには、Punitive damage(懲罰的損害賠償)という制度があります。加害者の行為が特に悪質であったときに、行為の悪質性や加害者の資力を基礎に、実損とは別に、懲罰的損害の支払が義務付けられます。 懲罰的損害を加えて、結局どれくらいの金額が認容されるかはケースバイケースとしか言えないのですが、金額が大きい例として、以下のような例があります。
雇用主である会社の規模が一定規模になると1億円程度の損害賠償を想定せざるを得なくなりますので、企業としては非常に気を付けたいところです。 以上のとおり、at-willが原則とはいえ、例外に当てはまると損害賠償の金額が大きくなるのみならず、最終的には一般市民である陪審員が事実認定や損害額の判断をすることから被用者側に有利な判断がされることが多いのが現実です。不用意に不誠実な解雇をしてしまうと、紛争化して莫大な損害賠償義務を負うことになる可能性があることを考えると、雇用主としては解雇の判断には慎重にならざるを得ないのです。 シカゴほどではありませんが、ベイエリアも寒い日が続いています。ロサンゼルスで雪も降ったようで、少し異常気象のようです。 皆様くれぐれも暖かくしてお過ごしください。 Comments are closed.
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