この原稿が2018年最後の原稿になります。昨年末は私の所属する事務所の引っ越しなどでバタバタしてゆっくりできなかったのですが、今年はやっとゆっくり過ごせそうで、なによりです。風邪などは引きましたが、健康に一年過ごすことができました。皆さんにとっての2018年はいかがだったでしょうか。色々なニュースもありましたが、一番は、読者の皆さんが健康で幸せな毎日を過ごされたかどうかということだと思います。
だんだん私も歯の悪いところがでてきて、最近近所で歯科治療に通っています。心がある歯科医師だから人気なのか、とても忙しそうです。私の治療も文句も言わずに、時間がかかっても夜遅くまでやっていただけます。疲れが浮かんでいることが明らかです。患者のためにがんばる姿がとても印象的です。まだ若い歯科医師なので体力もあるのかもしれません。何度か通っているなかで、待合スペースが殺伐としている感じを受けました。ちょうどホリデーシーズンなので、花を送ることにしました。華やかさがあったほうがいいですよね。 再訪すると、その花は受付に飾られていました。そして、受付の人だけではなく、働いている人全員の笑顔を見ることができました。とても感謝されて逆に驚きました。たしかに、アメリカでは、日本のように、「お土産」的な習慣はありません。そのときふと思ったのは「なかなか花などもらわないものなのだな」ということでした。この歯科医院、評判はとてもよく、待合でみかける人たちも口々にかなり感謝している様子です。このような光景に接して、思うところがありました。 歯科医師だけではなく、医師も弁護士も人を扱う職業です。そして、人体や社会の問題を解決するために、高度な知識や経験に裏打ちされた挟持を持ち、常時最新の分野を学び切り開いていかなければなりません。こういった専門職は、免許がないとできませんから「できて当たり前」という見方をされることがほとんどです。もちろんおっしゃる通りなのですが、専門職の人たちも人間です。寝ないで研究できるわけではありませんし、ミスもあるでしょう。ただ、「できて当たり前」を維持するために、かなり努力を続けて、精神を緊張させていることも事実だと思います。「できて当たり前」なのでしょうが、やはり感謝されると素直に嬉しいものです。人を幸せにすることで、自分も幸せを感じられる場合も多く、人から受けた感謝から感じる、「人の問題を解決できたな」という達成感は、なかなか気持ちが良いものです。 もちろん、私もお世話になっている歯科医師にちゃんと御礼は言います。でも、夜遅くまで私のような人間に時間を割いて妥協しない姿を見ていると、「できて当たり前」とは思えなくなるのです。人の問題を解いていくという、性質の似ている専門分野で仕事をしているからかもしれません。花を送ってよかったと本当に思いました。 皆さんも周りとの人間関係で、どこか「当たり前」だろう、と思って日々生活し、仕事をされているかもしれません。それを信頼関係と呼ぶこともできるかもしれませんし、深い絆があるのかもしれません。あるいは、「当たり前」の関係に慣れてしまっているのかもしれません。どのような形であっても、せっかくの年末、ホリデーシーズンです。色々な人間関係に思いを馳せて、感謝の気持ちを表すにはもってこいの季節ですね。「当たり前」の関係かもしれませんが、その人がいてくれることに素直に感謝できるというのはとても気持ちの良いことですし、幸せが幸せを呼ぶように思います。 私は、今まで20年以上法律ノートを書き続け、読んでいただいている読者の方々、質問を送ってくださる方々に、全員に花束をお送りして感謝したいとは思います。ただ、現実問題としてそれは難しいことです。紙面となりますが、一人一人の方、励ましてくださる読者の方々、出版を支えてくれている方々、皆さんに本当に感謝します。そして、この原稿をきっかけに、年末年始、皆さんも誰かに感謝の気持ちを持って、2019年をお迎えいただければ、私は嬉しいです。 2019年になっても、法律ノートの執筆がんばっていきますので、皆さんどうかよろしくお願いいたします。皆さんにとって幸多き新年になりますよう、心からお祈りしております。 最近、移民局は偽りの情報を移民局に提出し、永住権と市民権を取得したケースに関し捜査する専門の部局を立ち上げたことを発表しました。この部局を立ち上げるため多くの弁護士と移民局専門官を雇い入れたとのことです。捜査の結果、偽りの情報であることが確定されれば永住権または市民権は剥奪されることになります。
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== 某テレビ局の「のど自慢」がサンフランシスコで行われました。私もしっかり見てきました。というのも、私の事務所もこのイベントの法律面に深く関わって、歌手やイベント関係者がアメリカに入国するまでは、とても忙しく仕事をしていたからです。このように、良い方向で仕事が成功し、クライアントも事務所のメンバーも皆さん嬉しいというのはなかなか弁護士冥利につきるものです。皆さんも仕事や勉強に燃えていますか。 さて、今回は日本には無い制度でアメリカで様々なビジネスを行ううえで、知っておいていただきたい制度をご紹介します。それはエスクロー(escrow)制度です。アメリカで不動産などを購入された経験がある方はご存じかもしれませんが、エスクロー会社は売り手と買い手の中間に入り、買い手からは代金を受け取り、売り手からは不動産の所有権を移転する必要な書類を受け取り、すべて必要な書類やお金が整ったことを確認して、エスクローに入っている書類やお金を受領する当事者に開放します。取引内容を確認する業者とでも考えてください。この制度は不動産取引の安全を考えると非常に有効な制度で、いわゆる日本の民法の理論上、問題になる不動産の二重譲渡の問題や、物権変動においておこる問題がなくなり、円滑で安全な不動産譲渡が約束される手段となります。エスクローといえば、不動産に関するものが皆さんにとっては一般的に目に入るものでしょうが、実はビジネス上でも様々な場面で使われることがあります。もし、アメリカで会社を買うとか、投資をするなどということをお考えになっている方がいらっしゃったら、エスクロー口座を開き、エスクロー会社に取引の一部を任せると、ぐんと安心感が増すと思います。 エスクロー口座をどのように使うかは、例を使って考えた方が非常にわかりやすい。ですから、まずどのような取引にエスクロー口座が使えるのか、実際の例を見てみましょう。お店を経営しているYさんは、Xさんに店舗、それにお店にある道具や在庫を売り渡したいと思っています。Yさんの店舗はリースしている物件で、あと三年リースが残っていて、加えて五年間のオプション契約が可能です。Xさんもこれは了承していますが、Yさんの大家さんがYさんからXさんに賃借人の地位を譲渡することを許可するか、または転貸借(いわゆる又貸し)を許可するのか、Yさんの大家さんの意向を知らないと、この店舗の売買が成り立たないことになってしまいます。つまり当事者であるXさんやYさん以外の人の判断を仰がなくてはいけなくなってしまいます。一人、二人と取引に関わる人が増えていくと、取引自体が進む速度が遅くなってくる。これは、各人の思惑の数が増えていくからです。 Xさん側としては、店舗を買い取るわけですから、お金を払えば良いですが、Xさんがもらい受けるもの、すなわち備品や店舗の状態などは、固有のものなので、専門家に検査をしてもらったり、譲り受けるものの内容も確認しておきたいところです。Yさんとしては、現金一括でもらえれば言うことはないでしょうが、Xさんがローンを組むことが条件になるといった場合、確実に融資先からお金が入ることを確認しておきたいわけです。XさんとYさんの間だけでも、このくらい確認したい事項がでてきますので、一日、取引の日時を決めて、「さあ売買を完了させましょう」というのは危険なわけですし、もっとも終わるわけがない。そこで、エスクロー口座を開くわけです。ビジネスエスクロー口座を扱っている業者もありますが、皆さんが使われている銀行や金融機関などもこのサービスを行っているところが多いです。もちろんただで、この役目をやってくれるわけがありませんから、取引の規模や煩雑さによって、数百ドルから数千ドルのエスクロー料金が課金されることになります。これは取引の内容によっては非常に価値のあるものになります。売買の完了を第三者が見届けてくれるのですからね。特に、売買金額が何億円にもなる場合には必須な訳です。 XさんとYさんは各々相手に渡す書類、権利、お金についてあらかじめすべて書き出して、エスクロー会社に伝えます。エスクロー会社はたとえば、リースにおける賃借人の地位がXさんからYさんに移転された、もしくは、転貸借が承諾されたという事実を書類で確認しなければ、絶対にXさんから振り込まれたお金はYさんに渡さないわけです。ですから、エスクロー会社は取引に関してある一定の期間、たとえば30日や60日といった期間、をオープンの状態にしておき、その期間内にすべての条件を当事者が整えるよう促すのです。このようにして、すべての条件が整ったときに、無事Xさんは店舗や備品などを手にでき、Yさんは売買代金を手にすることができるのです。こうすれば、リスクも最小限に抑えられますね。 このようにビジネスを売買する、または投資をして株を買う、知的財産権のライセンス契約を締結する、そういった場面でいくらでも使える可能性があるこのエスクロー口座を、皆さんも利用されてはいかがでしょうか。また、会社間の取引なども、時によっては多額の取引が行われることが少なくありません。ですから、ぜひエスクローを利用することで、無駄なエネルギーを使うことを最小限にしてください。 マサチューセッツ州の57歳の男性が、アフリカ出身女性と偽装結婚し、その後永住権申請した疑いで逮捕され、最近、連邦裁判で有罪を宣告されました。移民局の発表によると、その男性は、13年間の間に、金銭を受領するかわりに、アフリカ出身の外国人女性6人と偽装の結婚し、その4人について、結婚ベース永住権申請のサポートをし、永住権を取得させようとしたものです。
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== 交通事故の事件を受任すると、弁護士としては事件を一生懸命やり最大限の結果を得ることが業務の内容となります。損害賠償事件では損害額を算定し、慰謝料とともに回復するのが役目ですが、当事者の感じた心の痛みの回復をそのままできるということはなかなか難しいものがあります。私は個人的にはどちらかというと人に対して、理解しようと思うあまり全力を尽くしてしまう方なので、一人になると疲れたりする事もあります。しかし、人の悩みを聞くのが私の商売なので、どんなときにも前向きでがんばることを忘れないようにしようと思っています。自分のやっていることを信じていないとだめなのですね。 交通事故のケースを扱う場合、大きくわけて(1)人損、たとえばけがとか後遺症の問題、それから(2)物損、車が壊れた場合などの問題にわけられます。通常、弁護士が介入して事件を進行させるのは、(1)の人損問題に限られます。人損問題に関しては、治療代に加えて、事故から生じた体の痛みや苦しんだことに関して、慰謝料が支払われるからなのです。弁護士が介入して、この人損に関する算定をするのです。また、この慰謝料を含め、人損に関しては相手の保険会社もなかなか頑強に交渉してくる場合がありますから、法律論で相手をしていかないとなかなか事が運ばない場合が多いのです。(2)の物損の問題に関しては、たとえば車の修理の問題でも、過失の割合に応じて、車の修理代が支払われ終了してしまいます。もちろん、過失の割合などの交渉については、弁護士がやらなくてはいけませんが、物損に関して支払われるのは、実際の価額だけで、慰謝料というのは基本的にもらうことができません。どんな新車でも心を込めて維持している車でも、慰謝料というものを受けることができないのです。法律上、基本的には物を壊された場合、その物の修理額などに限られます。車のコンディションが以前と違うなんていう場合でも、多くの場合、全く元の状態に戻すということはなかなか難しいのです。これが法律で引かれた線なのですね。ところが、愛車を壊されたとなると、非常に感情を害される場合が実は多いわけで、私なんかも気分が落ち込んでしまったことなどもあります。クライアントの方なども、納得できないと私に気持ちをぶつけられる場合も多々ありますが、法律論ですから、私も諦めてくださいと最後に言うしかないのですね。こういった場合、私がクライアントのお話しを聞くことで、気分が和らげば良いな、といつも思うのです。 交通事故などのケースでは、往々にして相手方が「申し訳ない」という表現や素振りをしていなかったことに感情を害される方々もいらっしゃいますが、この点にしても、アメリカ社会では一般的に、事故のときには、「謝ってはいけない」。謝ればそのことが非を認めてしまうという考え方が一般的だから仕方がない部分というのもあるのですね。最近、カリフォルニア州の法律も改正されましたが、基本的に陳謝は過失を認めたと考えられる場合が多いのです。この点は文化的に日本とアメリカでは違うところだな、と実感させられます。その違いを説明して納得していただくということを私はするように努めていますが、なかなか異文化を理解するのは難しいのでしょうね。 交通事故というのは小さくても、大きくても、突然災害が起こったような状況になるので、個人にとっては非常に迷惑な話です。相手方に頭を悩まされるということもあるでしょう。弁護士を使ってなんとかしたい、と思っても、ご自身の心の傷は癒えないかもしれません。弁護士はその手助けはできるかもしれませんが、実際の心の持ちようは一人一人にかかっているのです。私はその気持ちを理解できるように毎日がんばるしかないですね。 私も数年前、どうしたものか一年に3度ほど事故に遭いました。すべて私に過失はないと認定された一般に言う「もらい事故」でした。一回は、私の秘書と裁判所から帰る途中に、同じ裁判所からでてきた弁護士に止まっているところを後ろからぶつけられました。次に、夜遅く事務所から帰る途中にお尻を掠る程度に信号無視の車に当てられました。これは当て逃げでした。3回目は自宅に帰宅途中、これまた一時停止無視をしてきた車に当てられ更にこの車、逃げてしまいました。この時は、私もどうしようかと思いましたが、目撃していた車が助けてくれて、追いかけました。一旦、この当て逃げ車は停止したのですが、また隙をみて遁走しました。警察に電話をしても、危ないから追跡をやめなさいというだけで、何もしてくれません。ナンバープレートの番号もきっちりおさえていたのですが、持ち主は車を売っただけで何も知らず、保険にも入っていなくて結局自分の保険で修理した記憶があります。ずいぶん悔しい思いをしましたが、まあ大した体の痛みも無かったですから、忙しく仕事をして忘れることにしましたけど。まあ、人生こういう時もあるのですね。まあ、人生は楽しい方がいいですから、辛いことはできるだけ心に残さない心構えが大切なんでしょうね。 当事務所では下記の期間を年末年始休業とさせていただきます。
期間中はご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。 2018年12月24日(月)、25日(火) 2018年12月28日(金)~2019年1月4日(金) 2019年1月7日(月)より通常業務となります。 11月30日、移民局は、条件付永住権を取り除くための申請について、面接を要求するかどうかの基準についてのメモを発表しました。メモの概要は、下記のとおりです。
結婚ベース永住権申請で、永住権を取得したときに、結婚2年未満の人は、条件付永住権となり、取得日より2年経過する日の90日前から、2年経過する日までの90日間の間に、条件付を取り除くための申請(I-751)をする必要があります。この申請の際、面接が要求されますが、下記の条件に当てはまる人は、面接が省かれることがあります。 -I-751申請の際に、正式な結婚を証明する十分な証明書類を提出できた場合 -永住権申請時に面接が、実際されている場合 -詐欺行為や虚偽表示がないことが明確である場合 -面接を要求するほどの複雑な問題がない場合 訳例:不可抗力
不可抗力については、日本で理解される不可抗力とほぼ同様の理解で足りる。 外部からの事変であっていっさいの方法を尽くしても損害の発生を防止しえないようなものをいう。たとえば、一定の物を送付すべき債務を負う場合に、大地震で交通機関が断たれて送付できなかったような場合である。(日本大百科全書 ニッポニカより引用) Force Majeureというのはフランス語である。アメリカではラテン語は知識層が勉強するという一般的なイメージがあり、(それが格好良いのか)ラテン語をそのまま法律用語として使っている場合が多いが(筆者は、やはり英語で平易に記述するほうが現代には合っていると考える)、フランス語も使うのである。この意味は、Superior Force、すなわち「上位の力」となる。 Force Majeure条項に関しては、その概念は抽象的には理解が容易だが、契約書にどのように記載するのかよく考えなければならない。Force Majeureと関連するImpossibility (履行不能)やImpracticability(履行困難)による履行不能の場合も同様であるが、どのような事態がありうるかを具体的に考え、そのうちのどこまでを履行不能や不可抗力として扱うのかを検討し、契約書に落とし込む必要がある。 また、債務の履行の全部ではなく一部に影響がある事態も考えられる。この場合、全部の履行が不能となる場合だけではなく、一部の履行が不能となる場合(契約上規定されている目的物、支払額の不足など)にも、対応できるような条文の設定をしたいところである。 Force Majeure条項は、単に定型文をそのままコピペするのではなく、契約内容に合致した内容を反映させる必要がある条項である。 J Weekly 12月7日号資産運用特集にMSLGメンバーが執筆した記事が掲載されました。
---------- 1 はじめに−自分の死後を考えるきっかけ 昨年は具体的な相続などの話題について取り上げましたが、今年は、総論的な視点から原稿にしたいと思います。アメリカでは相続に関してエステートプランニングという言葉が一般的に使われていますが、その内容をある程度理解されると、どういったことから着手したらよいのか、わかると思います。実際、皆さんは普段の生活の営みでは、あまり相続などについて考えていないと思います。なぜなら、皆さんはこの原稿を読んでいるのであれば、生きていて、長い人生そのものを考えていて、死後のことを考える時間はなかなか割けないからです。また、自分の死後のことを考えたくもない人もいると思います。現実問題として、自分の死後のことを考えなくても生きていけるわけですから、プライオリティは低いのかもしれませんね。 自分の死後について考えるきっかけとなるのは、近親者や友人の家庭で相続の紛争が発生した場合です。財産を巡って人が愚痴を言い、親族を罵倒し、少しでも多くの金銭を懐に入れようとする姿を周りから見ると切ないものです。相続事件で争いが生じると、10年以上も続くものがあります。こういったことが身の回りで起きると、「自分もそろそろ用意しておかなければなぁ」と人は思いはじめるようです。もちろん、ある程度の歳になると、このような出来事に接することが多くなるのかもしれません。しかし、若くても不慮の事故などで亡くなってしまうということも人間にはあり得ます。人は必ず死ぬわけですから、今回の原稿をきっかけに漠然とでも良いので、相続を考えるきっかけになればよいのではないかと思います。 2 エステートプランニングとは エステートというのは、相続財産という意味です。相続財産というのは、誰かが所有していて、その人の死後残された財産を指します。エステートプランニングというのは、自分で持っている財産を自分の死後、どのように分配するのか生きているうちに計画しておくということです。相続計画とでもいいましょうか。死後に自分の親族が醜い争いをすることを避けるためにも、生きている間に計画しておこうというものです。実際のところ、「弁護士にまで話を聞くほど財産を持っていないよ」という考えもあると思います。そういう考え方もあって当然です。「宵越しの銭は持たない」方であればあるほど、死後の財産について考える必要は少なくなるわけですね。ところが現代社会では、死ぬときに無一文という人は少なく、なんらかの動産や不動産を所有しているものです。中古コンピュータ一台でも立派な財産です。そして、たいしたことはないと自分は考えていても、自分の親族はそのように考えていない場合もあります。残された人にとっては、お金の価値はどうでも良く、故人がどのような気持ちを持っていてくれたを考えることがよくあります。遺言のことをWillと言いますが、人間が残された人たちに最後に意思表示をすることを意味します。そういう観点からも、相続設計が必要になる場合があります。以下、具体的にどのようなことをしていったら良いのか考えていきましょう。 3 具体的にまず何をしたら良いのか さて、相続設計と言っても普通何をしてよいのかわかりませんね。そこで、ここでは、初動で何をするのか考えましょう。結局専門家である弁護士に相談するにしてもやらなくてはいけないことなので、自分で整理しておくと考える道筋ができます。やることは2つあります。一つは財産のリスト化、もう一つは、自分の死後、誰(人でなくても団体でも構いません)に最終的に財産を帰属させたいか、ということです。ということは、人(団体)のリスト化ということになります。財産のリストについては、あまりにも細かいものは必要ありませんが、不動産、銀行預金、金融商品、生命保険、大きな動産などを箇条書きにしてみましょう。さらに、思い出がある品などもリストをつくっておくと良いです。そして、リスト化したものを誰にどのように帰属(相続)させていきたいか、さらに人のリストをつくるということになります。この人のリスト化は、家族だけではなく、団体や友人など、自分が財産を渡したいという人はすべて書くべきです。この時点では、住所や電話番号、メールアドレスがわからなくても良いので、とにかく考えられるだけのリストをつくるということが重要です。 これらのリストを作ったら、実はエステートプランニングの作業の半分は終わったと思ってください。ここからは相続財産に関するメカニズムをつくることになります。この時点で、専門家に相談しても良いですし、何もしないのも一つの考え方だと思います。フェアな専門家であれば、そもそもエステートプランニングが必要かどうかについても考えを教えてくれるはずです。 4 エステートプランニングのメカニズム 何も相続財産に関して計画しなくても、財産を政府に没収されることはまずありません。日本でもアメリカでも法定相続(Intestate)というメカニズムが法律で定められていて、遺言など何もなくても、親族で血が近い人から順番に相続を受けられるようなシステムになっています。したがって、相続設計をしなくても、原則としては親族に財産は相続されていくことになります。 しかし、法定相続は紛争の原因にもなります。ですので、自身で計画をしておくことが良いということになります。加えて、日米(または他の国)に財産をお持ちの方は、日本にある財産の相続手続には、日本法が適用され、アメリカにある財産の相続手続にはアメリカの各州法が適用されるので、財産所在地の相続手続法に配慮した遺言やトラストによって、交通整理をして、死後の相続をスムーズにするメリットはあります。それから、死後の財産の使いみちをそれなりに設定したい場合、たとえば、幼い孫にお金を残すとか、基金を設立して特定の目的のために財産を使いたいといった場合には、トラストというメカニズムが用意されています。トラストというのは、信託と呼ばれますが、生きている間に自分の財産がどのように死後使われるのかを託しておく生前信託もあります。死後のことだけでなく、生存中でも意思表示が自分でできないような場合に、トラストの財産管理を第三者に委託できるという特徴が生前信託にはあります。。 さて、エステートプランニングというのは、アメリカでは主に次の4つの書類を作成することを言います。(1)トラスト、(2)遺言、(3)財産に関する委任状、そして、(4)医療・健康に関する委任状です。(1)と(2)は、目的は同じものですが、2つ用意しておくと良い場合が多いです。(2)だけでも良いことも多くあります。(3)と(4)は、皆さんの死後のためではなく、皆さんが意思表示できない、極端な例では植物人間状態になったときに有効になります。(3)は、意思表示が自分でできない場合、財産について代理してくれる人を指定する書類、(4)はこれ以上、医療や健康に関する最終的な判断をする人を指定する場合に使われます。上述した、皆さんの2つのリストを利用して作成するのが(1)と(2)になります。(2)については、単純に皆さんが死亡した場合に、相続財産がバトンタッチするという一場面を想定して作成する書類です。いわばスナップショット的な役割を負います。(1)は、死後、相続財産(受託財産ともいう)をどのように利用してくのか、ある程度細かく指定でき、さらに生存中意思表示が自分でできない場合にトラストの財産について(3)と同じ役割を果たせるメリットがあります。死後の点だけ見ると(1)と(2)は役割的には、ほぼ一緒なのですが、(1)については、時間とお金のかかる裁判所での相続手続の回避、親族間での紛争防止、相続財産・相続人に関するプライバシーの保護、および節税対策、のメリットがあると言われています。上記のようなメカニズムをつくっておくことで、様々なメリットは存在します。ですので、専門家に相談するメリットは、上記の内容を踏まえて各自で判断されたら良いと思います。 訳例:完全合意
Entire Agreementを完全合意と訳することがあるが、違和感を感じる。ここで考えてみたい。Entire Agreementの条項を、Integration Clause とか、Merger Clauseとも呼ぶが実質的に同一の概念を指す。 そもそも、Entire Agreementという概念が契約書に明記されるようになったのは、一連の判例の生成による。簡単に説明すると、契約書の内容が争われるとしよう。その内容を吟味するにあたって、交渉の経緯、当事者の発言、以前の契約内容、証言、など訴訟において、様々な証拠が用いられることがあった。その結果、当事者に予期しない結果が判決に顕出することもあった。そこで、」契約書に当事者間の合意は契約書に記載されている内容がすべてである。」という条項を入れることにより、証拠調べを短縮し、さらに結果の安定性にも寄与するということになったのである。契約の両当事者がEntire Agreementであるということに合意をすれば、私人間の契約の効力を否定する理由もない。一方で、当事者にとっても契約内容は契約書に書かれていることで全てであるとすれば、不意打ちてきな要素も少なくなる。さらに、裁判所にとっても、証拠調べが省けるのだから、リソースの節約にもなる。 このように、Entire Agreementの趣旨は紛争時に、契約書以外の証拠提出を許さないというものだから、実質的には当事者の権利義務に影響するのではなく、訴訟になったときの証拠提出の制限をするための訴訟法に関する条項である。裏を返せば、証拠調べについて熟知し、紛争に発展した際にどのような証拠開示手続等が想定できるのかを契約書全体を見て考察しなければならない。 このように主に証拠法の観点から規定される条項であるので、「完全合意」とは訳せるものの、本意は「契約書記載内容以外の証拠排除条項」とするのが理解としては正しい。 本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== 今回はパートナーシップについて考えていきたいと思います。アメリカでビジネスをするのに一人でやるには、荷が重いとか、専門的な知識が欲しいとかいろいろな場面が考えられ、パートナーシップという形でのビジネスをはじめようとされている方も多いと思います。私もレストランをはじめたい、専門的な店をはじめたい、いろいろな相談を受けます。皆さん夢があって素晴らしいなと思いますが、多くの場合に、「パートナーと一緒に仕事をする予定です」という話を聞きます。皆さん、信用している相手をパートナーと呼び、仕事を一緒にしていくということを考えていらっしゃるのでしょう。人が力を出し合ってビジネスをすすめていくということは素晴らしいのですが、その人間関係に何らかの亀裂が生じると、パートナーシップ、ひいてはビジネスに対して多大な悪影響を及ぼす可能性があります。 ここで、パートナーシップというビジネス形態について、どのようなものか考えておきましょう。日本の法律で考えると組合という概念に限りなく近い形態で、経営の観点からは共同事業と訳して良いでしょう。この共同事業をするにあたっては、事業をはじめるにあたり、基本的にはなんらの紙もなくても、はじめられます。2人以上の個人が共同の目的を持って、仕事をしていく訳です。「日本人同士、あまり深く形式張らないでやっていこうや」なんて話して、契約書も作らずに仕事をしていくと、後でトラブルが発生したときにとんでもないことになります。 後になって、パートナーが働かない、お金を一人のパートナーがとっていってしまう、事業が傾いたときに、責任のなすりつけあいになる、なんて問題は皆さんが思っているよりも日常的に起こっていますし、そのような問題が持ち上がった時に、パートナーシップ契約がないと、訴訟になったとしてもパートナー間でのルールがなく、法律に頼らなくてはいけないので、非常に煩雑になり、時間もお金もかかってしまいます。 ですから、もし事業を共同ではじめると考えていたり、はじめていても何も書面が無い場合には、とにかく、最初にパートナーシップ契約書というものをつくる必要があります。一人一人がどのような仕事をするのか、どの程度の期間パートナーシップを存続させるのかなどを規定しておくのです。特にお金の関係ははっきりさせておいた方が良いのです。 ただ、パートナーシップを書面にしておいても、いろいろと問題が発生する場合があります。一番典型的な例を考えておきましょう。パートナーシップをつくり、その共同事業を「幸せパートナーシップ」という名前にしたとしましょう。私と、これを読まれている皆さんが二人で経営していくということになりました。よし!レストランをつくって、どんどん日本食を食べてもらおう!と意気込み、私はこの幸せパートナーシップ名で、どんどんものを買ったり、契約を締結したり、お金を借りたりしたとします。レストランの経験がない私のもくろみははずれて、倒産してしまうとします。そうすると、私と一緒に幸せパートナーシップを組んだ読者の皆さんは、私が借りた金額すべて連帯して責任をとらなくてはいけなくなります。つまり私が返せなければ、すべて皆さんが返さなくてはならなくなります。皆さんの知らないところで、私がどんどんお金を借りてしまう、なんてシナリオも充分に考えられるのですね。これを連帯債務といいますが、非常に怖いことです。幸せではなくなってしまうのです。 このようにパートナーシップは怖い一面もあるので、私はあまりお薦めしません。できれば、共同で事業をはじめるというときには、株式会社の形態にしたり、LLCという形態にしたりして、個人に責任がかかったり、連帯して人の責任まで負うということを避けるほうが賢明ですし、人と人との信頼関係も維持できると思います。この辺のコツはまた機会を見つけて考えていきましょうね。 |
MSLGMSLGのニュース等をアップデートしていきます。メールマガジンへの登録は、ホームからお願いします。 カテゴリ
All
アーカイブ
July 2024
|
All Rights are Reserved, 2000-2022, Marshall Suzuki Law Group, LLP All Photos were taken by Takashi Sugimoto Privacy Policy English Privacy Policy Japanese |