訳例:完全合意
Entire Agreementを完全合意と訳することがあるが、違和感を感じる。ここで考えてみたい。Entire Agreementの条項を、Integration Clause とか、Merger Clauseとも呼ぶが実質的に同一の概念を指す。 そもそも、Entire Agreementという概念が契約書に明記されるようになったのは、一連の判例の生成による。簡単に説明すると、契約書の内容が争われるとしよう。その内容を吟味するにあたって、交渉の経緯、当事者の発言、以前の契約内容、証言、など訴訟において、様々な証拠が用いられることがあった。その結果、当事者に予期しない結果が判決に顕出することもあった。そこで、」契約書に当事者間の合意は契約書に記載されている内容がすべてである。」という条項を入れることにより、証拠調べを短縮し、さらに結果の安定性にも寄与するということになったのである。契約の両当事者がEntire Agreementであるということに合意をすれば、私人間の契約の効力を否定する理由もない。一方で、当事者にとっても契約内容は契約書に書かれていることで全てであるとすれば、不意打ちてきな要素も少なくなる。さらに、裁判所にとっても、証拠調べが省けるのだから、リソースの節約にもなる。 このように、Entire Agreementの趣旨は紛争時に、契約書以外の証拠提出を許さないというものだから、実質的には当事者の権利義務に影響するのではなく、訴訟になったときの証拠提出の制限をするための訴訟法に関する条項である。裏を返せば、証拠調べについて熟知し、紛争に発展した際にどのような証拠開示手続等が想定できるのかを契約書全体を見て考察しなければならない。 このように主に証拠法の観点から規定される条項であるので、「完全合意」とは訳せるものの、本意は「契約書記載内容以外の証拠排除条項」とするのが理解としては正しい。 Comments are closed.
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