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【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

2/11/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第3回目です。

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第3章   拘留(Incarceration)
 
FBIでもサンフランシスコ市警察でも被疑者の身柄を押さえると、まずCJ-9と呼ばれているサンフランシスコ市内の収監施設に連れて行きます。そこで、指紋を採取したり、前から横から写真を撮ったりするのです。住所やその他の情報についても尋問されることになります。私は、夜の霧がかったサンフランシスコの街に車を走らせながら、まず事務員の千穂さんに車から電話を入れました。ポケベルでつかまえられた彼女はすぐにコールバックをしてくれました。彼女に、いつ福本氏の遺体をモルグ(死体安置所)から引き取れるのか確認してもらうこと、真治君の学校に電話してもらうこと、それからいるならば真治君の親族、そして友人たちに連絡してもらうことを頼みました。その他、事務的な会話をして電話を切りました。次に三谷先生に報告がてら電話をし、真治君の事件を受任したこと、それに応援が必要になるかもしれないのでよろしくと伝えておきました。二本目の電話を切ったところ、ちょうど目的地に到着しました。空いているパーキング・スポットを見つけ、夜の街をCJ-9に向かって歩いていきます。ダウンタウンに近いエリアの高速道路の脇にCJ-9は建っています。夜の接見は弁護士のみに限られていますから、待合室はがらがらでした。中に進みコントロール室にいる刑務官に弁護士証を見せると、鉄の重たい扉を開けてくれました。その制服を着た刑務官は私とよく顔を合わせるのですが、刑務官は弁護士には挨拶以外の馴れ馴れしい会話をしませんから、私もいつものようにあえて言葉少なに留置場内に足を進めました。一般のエリアと留置場を遮断している鉄の扉が私の後ろで音を立てて閉り、面会室へ入りました。CJ-9はここ3、4年にできた建物なので、非常に新しく清潔で「サンフランシスコ・ヒルトン」などと呼ばれていますが、面会室でも壁紙が張られておらず、コンクリートのブロックの上に白いペンキが無造作に塗られているだけのところがホテルとは一寸違います。窓のないその部屋で待っていると、刑務官が面会できるまであと少なくとも30分はかかると言っていました。時間をつぶすのに、今までの一連の情報を思い出してみました。しかし情報が徹底的に不足しているので考えは憶測のみでぐるぐる回ってしまいます。とにかくか細い真治君が心配です。
時間が経って重たい鉄の扉が開くと同時にオレンジでVネックの囚人服を着せられた真治君が入って来ました。体の前で手をつないでいる手錠が細い腕に痛々しく見えました。
「小山先生。」
悲痛な響きで真治君は私に話しかけました。
「真治君、大丈夫かい。何もしゃべってはいないよね。」
「はい、それは大丈夫です。だけど、僕、わけがわかりません。どうして僕がこんな目に遭うのか。」
「うん、君が関係ないことをあと2、3日の間に解明しなくちゃ。プレ・リム(Preliminary Hearing:予審)がたぶん、次の月曜日だからね。でも、それまではここにいなきゃならないかもしれない。」
「こんなところにいられません。早く何とかしてください。」
「わかっている。ところで、君の家のカギを借りてるけど、それを使って家の中に入ってちょっと調べさせてもらってもいいね。」
「先生は僕を疑っているのですか?」
「まさか。僕は君の弁護人だよ。君をここから出す証拠を探すのさ。」
私はにっこりしてみせました。
「先生、お願いします。僕、本当に怖いんです。」
真治君はまた震えています。
「真治君、君がまだ若いのも十分承知している。それに、この国に来てからそんなに時間が経っていないのも知っている。今、君が怖い思いをしているのもよくわかる。だけどね、脅すわけじゃないけれど、お父さんもお母さんもいなくなって、こんなことでへこたれちゃいけない。これから先、もっと苦しいことや辛いことが起きるんだ。もう、自分の両足でしっかり立って、自分を支えていかなけりゃ。お父さんだって本当に麻薬にかかわっていたかもわかっていないんだ。君がしっかりしなけりゃ。今は君がお父さんを助けてあげる番なんだよ。そのためには僕は全力で君を助ける。
こんな時に、自分の話をするのもなんだけどね、僕も両親を君の年に事故で亡くしたんだ。そして、アメリカに来て、奨学金をもらって、貧乏だったけど必死でがんばった。怖い思いも孤独も、嫌になるほど味わった。君も、今は胸が張り裂けそうな状態だと思う。でも、その地獄から這い上がって、落ちて、それでもまた這い上がってこそ、君という人間ができてくるんだ。だから、今の状態を恐れないで、勇気を持ってがんばるんだ。僕も君のためにがんばるから。」
じっと下を向き唇を噛みながら考えていた真治君の目から出ていた涙はもう止まっていました。
「先生、僕のお父さんは絶対に麻薬になんか手を出す人じゃない。お父さんが麻薬に関係しているなんてありえない、絶対に。」
真治君は声を殺していましたが、お腹の底から発声していました。
「とにかく、まず君を出すためにがんばるから。待っているんだよ。」
「先生、お願いします。」
 私は真治君の手をぎゅっと握りました。握り返してくる真治君の手は冷たくはあるのですが意外に力強く、なんとか彼はがんばれそうかなと思わせました。
真治君に別れを告げ、CJ-9の外に出てみると、風が肌寒く身震いしてしまいました。サンフランシスコは夏でも夕方になると平均気温が16度くらいでしょうか、5月の夜はまだ寒いくらいです。まだ時差ぼけが体の中に住んでいる感じがして、さらに今日の顛末で疲れてはいますが、目は冴えています。まだやらなくてはいけないことがあります。車に乗り込み、家には帰らず、真治君の家に向かいます。もう夜も12時を回ろうとしているところですから、車どおりはそんなに多くありません。酔っ払いがふらふら道を横断しようとして、急ブレーキをかけた車の運転手と言い争いをしています。CJ-9の周りは結構スラムっぽいんですよね。
 
気がついたのですが、そういえば昼から何も食べていません。お腹が空いたので、途中深夜営業の中華料理でチャーハンをテイクアウトしました。チャーハンしかオーダーがはいらなかったので、親父はあまり機嫌がよくありませんでした。お金を払い、車に戻り、真治君の家に向かいます。繁華街を通ると若い男女がデートの帰りなのでしょう、腕を組んで楽しそうに歩いています。いいな。歩く人もほとんどいなくなり、車はシークリフのエリアに向かっていきます。真治君の家は外に電気もなく真っ暗でした。夜、明かりのない鉄柵に囲まれた大きな家をみるとちょっと不気味ですね。手探りでゲートを開け、カギを使い玄関のドアを開けます。防犯システムは鳴りませんでした。ドアを開けて入ってみると、捜索されたときの名残が各所に見られました。散らかっています。整理整頓を口癖にしてくれると、警察ももうちょっとは評判があがるのでしょうけど。関係書類等はFBIが運び出してしまったでしょうから、他にカギになるものは何かかないものかとあたりを見まわしました。相当広い家ですから、電気のスイッチを探すだけでも一苦労です。幸い台所で懐中電灯を見つけたので、私はそれを手にきょろきょろ電気のスイッチを探しました。電気のスイッチを入れるたびに家が明るくなります。真治君のお父さんの寝室と書斎は、FBIに特に念入りにチェックされていた様子で、書類はほとんど見つかりませんでした。
福本氏の寝室の隣が真治君の部屋でした。ジャズが好きなようで、チャーリー・パーカーやビル・エバンスのポスターがかかっていました。良い趣味です。引出しには学校用品ばかりあり、ベッドの下にあった日記にもこの事件に関するようなことは書かれていませんでした。若者の部屋という感じがします。興味をひいたのは机上にあるコンピュータでした。FBIにもタッチされていない様子です。この部屋自体あまりFBIにタッチされていません。子供部屋なので気を抜いていたのでしょうね。私もあまり期待せずにコンピュータのスイッチを入れました。コンピュータが立ちあがるまでに少々時間があったので、私は買ってきたチャーハンを持ってきて、コンピュータの前の椅子に腰掛けて食べ始めました。
食べながら、何かないかなとぶつぶつ独り言を言い、立ちあがったコンピュータを調べていましたが、Eメールのブラウザを開いてみると、相当な量のメールがあることが判明しました。すべて個人用のようです。たくさんのメール友達がいるんだなと感心しつつ手がかりを探していましたが、手がかりらしきものは見つかりません。あきらめかけたとき、送信済みのフォルダがあったので中を見てみると、一回だけ使われている送信先が二つ目に入りました。あて先のLgod@というのとVgod@というのがあることから、苗字か名前はLとVから始まる人だと言うことが推測できます。そのメールを開いてみようと割り箸を置いてマウスをいじって、英語のメールだということを確認したとき、背後に人の気配を感じました。
振り返ると黒いスキー帽をかぶった私くらいの背をした人間が木製のバットを振り上げていました。とっさに椅子から転げ落ちると、その賊は空振りしたバットを持ち直してから再度私に向けて振り下ろしてきました。そのときに発した声から、男だとわかりました。今度のバットは避けられず、私の右肩に直撃しました。ものすごい激痛ですが、骨は折れていないようです。もう一度振りかぶったときにスキー帽の目のくりぬきから、私はコンピュータの画面に反射した青い目を見ました。私が転げ落ちた椅子が足元にあったので、思いっきりそれを蹴ると滑車が助けてくれてその男に激しく接触しました。チャンスとばかりに立ち上り、その男に近づこうとすると、背後から、頭を鈍器で殴られました。賊は一人とは限らないのですよね。頭にキーンという高音が走り、目が回ってハードウッドに顔から倒れ落ちました。私が床とラブシーンにふけっているとき、その二人組の賊はコードを簡単に抜き、コンピュータを持って私の目の前から消えました。目はなんとか見えていたのですが、賊のMO(風体)についてはわかりませんでした。
しばらく体が重く、立ち上ってもふらふらしますが、打撲程度でしょう。ちゃんと健康保険を払っていたかななどと思いながら、リビングに戻り、大きな革のソファに崩れ落ちました。今度は意識が遠くなります。疲れていることもあったようです。
時計を見ると2、3時間眠ったようです。目を開けると頭に針を刺されたような痛みが走ります。それでも、起き上がりキッチンの蛇口をひねり近くにあったコップで水を腹いっぱい飲みます。一息ついて真治君の部屋に帰ってみると、私の食べかけのチャーハンが床に散らばっていました。コンピュータはきれいさっぱりなくなっています。他の部屋も見てみますが、あまりFBIが散らかしていった状態と変わりがないようです。ただ見まわってみると、シャワールームについた窓が枠ごと外されていることと、リビングから庭に出る窓が少々開けっぱなしになっていたことがわかりました。シャワールームにある窓は、そのままにしておき、すべての窓とドアに施錠して、ふらふらのまま、私はまたCJ-9に車を走らせました。夜が明けてきて、小さな黒い鳥がばたばた飛んだり、街角に置かれたごみ箱の周りでたむろっていました。
再度、CJ-9の面接室までたどり着きました。右肩が非常に痛みます。守衛は私が血まみれになっている様子を見て接見させるかどうか躊躇していましたが、弁護士証を見て事務的に問題がないことを確認した後では通さなくてはなりませんでした。20分ほど待たされて真治君にやっと会うことができました。真治君は眠っていなかった様子で、疲労の色が濃く見えました。
「どうしたんですか、先生。シャツに血がついてる。」
「それより、君の持っていたコンピュータについて教えてくれないか。」
「僕の部屋にあるやつですね。」
「そうだ。お父さんもあのコンピュータを使っていたことがあるのかな。」
私は真剣な眼差しで真治君を見ました。
「ないとおもうけどなぁ、う~ん。」
真治君は懸命に過去の記憶を引き出そうとしていました。天井を見たりしていました。
「あ、あるとすれば、多分お父さんのコンピュータが壊れたときかな。確か3ヶ月くらい前、お父さんの使っていたラップトップが内部電池が壊れたとかで、1週間くらい修理に出していたときに使ったと思います。」
「誰にメールを出すとか、知らないよね。」
「それは知りません。仕事のことだと思うけど。東京の事務所ではたくさんコンピュータを使っているけれど、 外国に出るときはもっぱらラップトップを使っていました。」
「お父さんが誰にメールを書いていたかはわからないよね。」
「あ、でも僕のコンピュータは送信済み履歴がすべて残っているから、それを見れば…。」
「そうなんだよね、 僕も見てみたんだ。だけど…、」
私がうつむくのを見て、真治君は私の言葉を待っているようでした。
「賊が君の家に入ってきて、コンピュータを奪い取っていった…。」
「えっ、僕のコンピュータを…。なぜだろう。」
「真治君はメール友達が多いけど、日本語がほとんど?」
「ええ、学校の友達のマイクとジュディ位かな、英語のメールをしてるのは。」
「メールアドレスはわかる?」
「うーん、はっきりとは覚えていないけど学校のアドレスだからね。確かMikeK@Univhigh.edu とJudyD@Univhigh.edu かな。University.eduっていうのがうちの学校のドメイン名だから。」
「LgodっていうのとJgodっていうアドレスを知っているかな。」
「いや。知りません。僕のコンピュータにあったんですか。」
「そうだ。全文英語だったことはわかっているんだけど。」
「英語でねぇ。僕はまだ英語がそんなにできないから、英語で出していたら覚えているんだけどな。」
「そうか…。」
やはりLgodとJgodに送られたメールは真治君ではなく彼の父親が送ったメールであることがはっきりしました。
「お父さんのラップトップはどこにあるかな。」
「いつも一緒に持って行っていたから…。」
「事故現場、か。」
「そうだと思います。」
「お父さんは、サンフランシスコに事務所を持っておられるの?」
「いいえ、事務所は日本だけです。家はフランスとかオーストラリアにも持っているけど。」
「それじゃ、メールはラップトップでしていたんだね。」
「はい、ラップトップでしていたと思います。事務所のコンピュータは従業員がみんなアクセスできてプライバシーに問題があるからとか言っていました。僕が遊びに行ったとき、そうですね、去年のクリスマス頃にはインターネットにはまだ接続していなかったと思います。」
「そうしたら、そのラップトップが個人用の情報を持っているんだね。」
「そうだと思います。あ、それからお父さんは手帳型のコンピュータも持っていました。いわゆるアメリカで流行っているパーム・パイロットというやつですね。多分、その中にラップトップにあるのと同じ情報が入っていると思います。バックアップを取っていましたから。お父さん、バックアップの取り方で僕に質問しにきたことがあったし。パーム・パイロットもいつも持ち歩いていたな、お父さんは。」
「何で同じ情報が入っているってわかるんだい?」
「情報をシンクロ(同期)させられるんですよ。だから同じ情報が読みこまれるんです。僕がそのプログラムをラップトップに載せてあげたからよく覚えています。」
「そしたら、どっちかのコンピュータを見つけられれば、情報が見つかるんだな。」
「え、何の情報です。」
「ちょっと、探しものがあるんだ。君の出廷は月曜日だろうから、それまでに探さなくちゃ。」
「どんな探し物ですか?」
「コンピュータの中の情報なんだ。君のお父さんが送ったメールだよ。」
「一体どんな?」
「しつこいかもしれないけどLgodとかJgodって知らないよね、メールアドレスなんだけど。」
「知りません、というか覚えがないです。」
それからちょっと取り止めのない話をして再度施設を後にした私は、今度は自宅に戻り、ソファにちょっと腰掛けるつもりが眠ってしまいました。まだ相当な頭痛がしますが、眠いのが先です。


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