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【小説シリーズ】陪審喚問の時 (The Grand Jury)

2/26/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第5回目です。

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第5章 予審(Preliminary Hearing)
 
真治君が18歳以下の未成年ということで、予審は成年被告人とは別にイン・カメラで行われることになりました。未成年者の場合、通常公開の法廷ではなく法廷の裏で審理されるのです。8時半ごろ出廷した私は、法廷内で、シェリフ(廷吏)に真治君のラインナンバー、つまり順番の番号を述べ代理人であることを告げました。その後法廷の裏にある裁判官の控え室に行きました。担当検事はキャサリン・バードという紺のスーツにブロンドの髪が映える女性検事、裁判官は予審判事の一人ブレナン判事でした。60歳ほどの銀髪のユダヤ人です。お互いに挨拶をして、検事とは名刺を交換し、真治君の代理人であることをラインナンバーで告げました。他の事件に先立って審理をしてくれるということになり、裁判官の指示でシェリフは控え室に待機していた真治君を呼びにいきました。ブレナン判事、バード検事それに私が、裁判官控え室の脇にある部屋に移動しました。
地裁レヴェルでの判事の控え室は異動が多いため、煩雑で部屋も質素なことが多いのですが、連邦レヴェルの判事はアメリカ大統領による任命によるため、異動が少なく、家具や調度も高価なもので揃えられています。別室も例外ではありません。
革の椅子に腰掛けてしばらく待っていると、オレンジの収監服を着た真治君が手錠をはめられたまま別室に入って、入り口付近の木の椅子に座らされました。太鼓腹のひげ面シェリフも無言のまま、真治君の横に座っています。
判事は大きな机を挟んでちょうど真治君の正面に座っており、裁判官から見て左が検事、右に私が座りました。厳密なルールは決まっていません。ただ、検事の横に弁護人が座るということはまずないといってよいでしょう。座りたくないです。
ブレナン判事は「さて、ラインナンバー8番にあるシンジ・フクモトの予審をはじめます。」といって手元にあるリーガルサイズのフォルダを開きました。
バード検事が、ゆっくり起訴事実を読み上げます。私も、予審直前に手渡された起訴状に目を落とします。
「起訴事実の要約としてはシンジ・フクモトは自己が居住する住所地において、ヘロインを約30パウンド所持してため、起訴を認めるに相当な嫌疑がある。」
とバード検事は無表情で読み上げました。ブレナン判事はうなずくと
「弁護人は何か。」
と私を見ました。実際のところ、プレリムで無罪を受けて釈放してもらえるという事例はほとんどないでしょう。実際のところ99パーセントの事例では、保釈の請求をしてなんとか保釈金を逃れるか減額させるかを判事に印象づける舞台です。とにかく私も口を開きました。
「判事、この事件においては私のクライアントはまったく関係ありません。事実、麻薬を所持していたという事例ではない。それに、ヘロインはクライアントの父親が使用していたアイスクーラーから発見されたのであり、ここに座っている彼がコントロールしている範囲でのできごとではありません。実際の麻薬の売買や所持にかかわりのある証拠が少しでもない限り、検察の主張を維持することは難しいでしょうね。判事、この麻薬に関しては何らか別の組織が絡んでいて、私のクライアントの関知しないところで、物事が動いています。私のクライアントもその組織の被害者です。」
私は少々の賭けをしてみました。別の麻薬組織が動いているという証拠はまったくないのですが、それらしき匂いはしますよね。判事はすかさず、
「別の組織が動いているという証拠でもあるのですか。」
「私が、クライアントの家に入り内部を検分していると、いきなり覆面を被った男に頭と肩をバットで殴られました。これが診断書です。」
私は昨日もらってきたばかりの診断書を判事の目の前に差し出しました。真治君は、私が襲われたことまでは知らなかったので、驚きの表情を見せていました。
「その二人組は、私のクライアントの家に無断で立ち入り、彼の部屋に置いてあったコンピュータを盗み逃走しました。FBIが捜索した現場からさらに何かを持ち出すなんてことは、通常、犯罪にかかわっている人間しかやらないでしょう。ですから、私は別の組織が動いていると主張しているのです。」
私のドラフトした書面と診断書に判事も検事も目を通していました。間髪を入れず、私はORを請求しました。ORとはOwn Recognizanceの略で、保釈金を一切積まずに保釈してくれという命令です。検事は立ちあがって猛烈に反対しました。インテリ風の彼女もいざとなると法律論で攻めてきます。反対の理由は証拠隠滅の恐れと、逃亡の恐れがあることと主張しました。検事は更に少なくとも10万ドルの保釈金を課すべきだと主張しました。そのような金額では一遍に用意するのは難しいですし、ベイルボンズ(いわゆる保釈請負業)に頼んだとしても10パーセント、つまり1万ドルを手数料で取られてしまいます。
ブレナン判事は無表情で少し考えると、私に、
「このミスター・フクモトには身を寄せる場所がないんですよね。両親とも他界しているとか。」
「間違いありません。」
「それでは、家に帰すことはできませんね。」
私が、すかさず、
「それでは私がクライアントの身柄を引き取ります。私と一緒に暮らしていれば問題ないでしょう。ひとりで家に帰すとまた暴漢に襲われる恐れがありますし。」
バード検事は薄笑いして、
「正気なのですか、前代未聞です。刑事被告人の身柄を受ける弁護人なんて。許されるべきものじゃないでしょう。」
うるさいなピーチクパーチク、と思いながらも、私は判事に向かい冷静に言いました。
「許されるかどうかは、判事、あなたが決めてください。彼も学校へ行くという仕事があるのです。」
しばし沈黙が続いた後、判事は私に軍配をあげました。真治君の顔を見ると、彼は私の目をずっと見つめていました。バード検事は肩をすくめると、法廷にさっさと帰って行きました。
判事と握手した後、シェリフがいくつかの書類を持って来ました。私が保護者となってしまったようなものですから、複雑な気持ちでいろいろ署名をしました。本日で真治君を釈放する、ただし次回から出廷しなかった場合、即座に逮捕令状が発行されるという命令書に、判事は事務的に署名をしました。判事も、これから昼まで続く予審のために、「グッドラック」と一言私に言い残し法廷に向かいました。
真治君はその場では釈放されません。CJ-9に帰って、釈放の手続きを済ませてから出られるのです。私は簡単にそのことを説明し、真治君と別れました。まずは、うまくいったことに満足でした。
法廷を出ると、私は風もなくのんびりした空気を吸い込み、CJ-9に向かいました。1時間ほどして、真治君は釈放されました。逮捕のときと同じ服を着ていました。ちょっとやつれているものの、だいぶ平常心に戻ったように感じられます。
「先生、本当にありがとうございました。それにしても、頭大丈夫ですか?」
「なんだよ、『頭大丈夫』なんて聞かれると、自分が変わり者かどうか考えちゃうじゃないか。」
やっと真治君は笑顔を見せてくれました。
「もうお昼だから、何か食べようか。」
日本食が食べたいと言う真治君の希望をかなえ、ダウンタウンにあふれるようにたっている日本食屋をひとつ選び、二人とも満足したところで、事務所に立ち寄りました。
千穂さんは真治君の学校にもう連絡を取ってくれていたようでしたが、私と真治君を見ると非常に喜んでくれました。
「よかったですね、出られたんですね。」
「そうなんだ、本当によかった。でも、これから裁判が終わるまで僕が真治君の身柄の引受人になっちゃったんだ。」
「えっ、大丈夫ですか。」
「君は無実だよな、真治君?」
と言って真治君の顔を見ると、真治君はまじめな顔をして、
「絶対に無実です。信じてください。」
と私の目を見ました。千穂さんは、ちょっと大丈夫かしらんいう顔をしていました。三谷先生の部屋にも報告に行きました。話を聞いていた三谷先生は、真治君をドアの外で待たせておいて、私に言いました。
「刑事事件のクライアントはうそをついていることが少なくない。君はまだ若い弁護士だから、わからないかもしれないが。そんなにクライアントを信用していちゃ、この仕事体が持たないよ。」
「わかっています。でも先生、彼、今では孤児なんです。誰かが全面的に信用してあげないと、彼、どうなっちゃうかわからないんです。」
「うん、君がそこまで言うなら、弁護士は自己責任だからかまわない。でも、くれぐれも気をつけるんだよ。」
「はい、ありがとうございます。」
真治君を少し待たせておいて、一通りの急ぎの仕事を終わらせて、一緒に外に出ました。私は事務所の前で信号待ちをしながら、ぐっと息を吸い込みました。そして真治君の顔を見て言いました。
「本当の闘いはこれからだぞ。」

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