訳例:改定
Amendmentについては、アメリカ憲法のAmendmentを日本語で表現するときに「修正」というのが一般的である。しかし、修正には「不備などを正す」という意味があるので、この単語の使用にはやや疑問が残る。契約条項などについては、契約の内容を改めて定めることになるので、「改定」と訳すのが妥当だろう。 Amendmentというのは、実は契約書でルースに使われる(条文等で、はっきりした定義がされていない)単語であり、似たような言葉にAddendumがある。Addendumもルースな使われ方をしているが、契約書の「附則」という意味である。Amendmentは「改定」を意味するので、附則をも包含するニュアンスがあるが、Addendumの方は特に契約書に何かを付け加える場合に用いられる。 ところで、(カリフォルニア州の)法律では、契約の改定というときにModificationという単語を使用している。例えば、カリフォルニア州民法1698条(a)項には、「書面による契約書は書面によりModifyすることができる」と規定されている。したがって、法律用語としては、Modificationが一番妥当な単語である。それゆえ、英文契約書においてAmendmentではなく、ModificationまたはModifyという単語を使用しているものを見ると、それなりのプロが確認しているとの印象を受ける。 訳例:弁護士費用
弁護士費用(attorney fees)と訴訟費用(Litigation costs)は別物である。弁護士費用は弁護士の実働の対価であり、訴訟費用は、訴訟を遂行するに費やした実費と考えておけば良い。 なぜ、契約書には、弁護士費用の負担についての記載があるのか。弁護士費用は、弁護士に委任した本人が支払うのが原則である。当たり前のことだ。しかし、絶対ではない。例えば、交通事故や製造物責任のようなケースでは、条文上、不法行為者の損害賠償責任が認められると、弁護士費用についても勝訴した者が得られる(賠償される)と規定されている場合がある。また、契約当事者は契約書によって意思を予め合致させることができるから、そこで原則を修正することもできる。かくして、契約書に、弁護士費用の条項が設けられ、誰が負担するか(通常は敗訴者負担)等が規定される。 敗訴者負担というのは、契約した内容につき紛争となった場合、勝訴者(Prevailing Party)が支出した弁護士費用を敗訴者から回収できるというものである。(1)一方では、安易に裁判を提起することに対する歯止めになり、(2)他方では、正当な権利が害されていても、裁判をすることを躊躇させる場合がある。したがって、敗訴者負担の良し悪しについては現在もなお議論がある。 問題は、いかなる場合にPrevailing Partyとなるか、である。100億円請求して、1円買った場合は勝訴者と言えるのか? 金銭以外のものが訴訟の対象となった場合はどうか? 一般的には、額の多少にかかわらず、正味を検討して、勝訴者とするが、適用される条文や判例を確認しなければならないところである。カリフォルニアの場合、カリフォルニア州民法1717条が適用されるが、同条で規定されたPrevailing Partyの定義と矛盾する契約はできない点に留意が必要である。また、カリフォルニアでは、弁護士費用の負担を一方当事者の利益のためだけに設定することも原則として認められない(同条)。したがって、弁護士費用負担の条項を入れる場合、原則、双方向ということになる。加えて、請求額が25000ドルを超えていたにも関わらず、判決でそれ以下しか認容されなかった場合には、裁判所の裁量で(弁護士費用等を回収できる)勝訴者と認定してもらえない場合があることにも注意が必要である。 では、実際に、この敗訴者負担条項が使われる段階になるケースというのは多いのか、というと、ほぼ稀ということになる。ほとんどの民事訴訟、とくにお金だけが絡むケースでは、和解に至る。そうすると、敗訴者負担条項は、働かない。したがって、ADRが広く使われる現代では、弁護士費用についてよりも、調停、仲裁についての条項の交渉により力を入れるのが妥当であろう。 訳例:「権利の譲渡(または移転)」、場合によっては、「契約上の受益に関する地位の譲渡(または移転)」
契約書や法律文書で「Assignment」という単語がでてきた場合に、機械的に「譲渡」と訳しているように見える訳文も散見されるが、それは危ない。もしかすると、「譲渡の禁止」と書かれている条項が多いので、「禁止条項」だから内容をあまり深く考えないでも問題ないと思われているのかもしれないが、このような思考停止は危険である。 Assignmentを訳すにあたっては、その対象を明確にしておく必要がある。実際、Assignmentに関して訴訟になる場合、「何が」譲渡されたのか、移転されたのか、という点が争われることもある(特に、銀行などを代理する場合に、少なくない)。 (1)まず、Assignmentで移転するもののは、通常、権利である。(2)そして、(1)の権利については、物そのものではなく、金銭またはその他の動産を法的手続を経て回復する権利が対象とされることが一般的である(Merchants Service Co. v. Small Claims Court, 35 Cal. 2d 109, 113-114 (Cal. 1950))。(3)さらに、移転する権利は将来の債権であってはならず、現時点で権利として確定できるものに限るという性質がある(ただし、確定していない将来の債権であっても、債権の発生とその後の譲渡を約束したものと扱われ、契約責任の問題に発展する可能性は残るため、注意が必要である)。 基本的には、権利だけを移転する場合をAssignmentと呼び、これは、契約当事者が変わるNovation(契約上の地位の移転)とは区別される。Novationにおいては、義務までも移転するというところが代表的な違いである。したがって、Assignmentを「権利義務の移転」と訳してはいけない。あくまでも、権利、あるいは、契約上生じた受益に関する地位の譲渡(または移転)と訳したほうが良い。 実務において、Assignmentに関する条項は、禁止条項であれ、一部許容条項であれ、契約当事者間のみならず、税法上も問題になり得るし、M&Aなどの場面でも問題となり得る。したがって、Assignmentの対象が何であるかを契約締結時に特定し、また、それが実質的に法律に沿っているのか(実効性があるのか)を確認しておく必要がある。 訳例:〜[という対価]を受領したことを確認し…
この表現が英文契約書で出てくるシチュエーションは限られている。裏から言えば、この表現が出てきた場合には、以下のような契約関係を想定しながら翻訳する必要がある。 Recitalの項目で述べたが、米国の契約書の一般的な内容として、契約締結の「前」に起こった事実に関しては、Recitalで述べることになる。では、契約関係に関する「今」と「将来」について、どのように記載するのか。 Considerationの項目で述べたとおり、Considerationとは対価の交換であり、米国の契約においてはこの対価の交換が心臓部となる。一番シンプルなのは、コーヒーを買ってお金を払うような場合であり、価値の交換がその場で完了するから、単純である。しかし、契約関係には、様々な種類があり、切り取った断面(ある瞬間)において、すべての取引が終わるものではない。たとえば、企業買収などでは、エスクローを開く段階でデポジットを支払い、様々なデュー・デリジェンスを経て、さらに、所定の停止条件が満たされエスクローを閉める段階で支払い等が発生することになる。短期ではあるが、契約に基づいて継続的に権利義務が発生する流れがある。他にも、継続的な関係が生ずる契約としては、リース、賃貸借などがある。 このように段階的に契約内容が当事者間で履行される場合には、それらを「将来」の権利義務として、Shall, Will, Mayなどを用いて契約書に記載する。一方で、契約を締結する段階で、デポジットをすでに支払っているという「今」を記述することも必要である。そして、このように契約の実質的な履行前に生じる価値の交換について、当事者が「交換をした」という事実を「確認する」ために、「the receipt of which X acknowledges~」という表現が登場する。すなわち、この表現は、Consideration、つまり対価の交換を明らかにするために、書かれているのである。ちなみに「今」を示す内容なので、この部分にShall、Will、Mayなどを入れてはいけない。すでに、契約の一部として、金銭を支払って手付とするなど、契約締結時にすでに行われている対価の確認をしているからだ。 Considerationというのは、英米法においては契約成立の絶対要素である。日本法ではOffer(申込)とAcceptance(承諾)で契約が成立するとされているが、英米法では、これらに加えてConsiderationというのが、必要不可欠とされる。
なぜか。日本では贈与や使用貸借は「契約」になりうるがアメリカでは契約ではない。契約の必要不可欠な要素であるConsiderationが基本的には存在しないからである。では、Considerationとは何か。従来の法律辞書などでは「約因」などと訳されるが、そもそも約因という言葉は日本の民法には出てこない。民法の大家である鎌田薫教授の授業でも「約因」などという言葉はまったく出てこない。「約因」という日本の法律にはない造語がどこから出てきたのかはわからないが、翻訳や、外国の法律文書の解釈の場面では「約因」を使わない表現も検討する方が良い。 アメリカのロースクールの契約法の教科書に出てくる判例の変遷をちゃんと読むと、結局Considerationというのは、「対価を交換すること」に尽きる。「対価の交換」といえば、パチンコ屋の換金でも出てくるのでわかりやすい。日本の民法にある、「贈与」や、「使用貸借」は、対価の交換がないのが前提である。一方的に贈与者が受贈者に「あげる」だけだからである。まず、In consideration ofというフレーズを訳す前に、コンセプトとして、日本は単に物や金をあげても契約になるが、英米ではそんなことはありえない、という法律的な文化の差を理解しておく。そうすると、契約書でなぜ、In consideration ofというフレーズが多用されているのかわかる。Consideration、すなわち「対価の交換」がなければ、契約としてそもそも成立しないからである。契約法の授業でも、Considerationについて、かなり判例が取り上げられることからもわかるように、今まで、「対価の交換がない」として争われてきた例がいくらでもある。なので、契約書には、Considerationという言葉をできるだけ使って、対価性があるように、印象づけるということがある。 ギリシャの船がアメリカで拘束され、その拘束期間中に、通貨の大暴落があり、「交換価値がない」ということで契約の不履行があったのかどうかが争われた判例がある。色々判例の変遷はあるが、「交換価値があれば、1セント、1円の価値でも交換すれば、契約の内容になる」というのが、今の常識である。なので、交換価値は義務でも良い。草むしりをするから、プライベートジェットと交換しよう、といえば、交換価値はあることになる。要するに、何か金銭で表現できるようなことがあれば、交換価値があるということになる。そういう実務の感覚から、できるだけ、Considerationという単語を多用しようということになるのは自然だ。 以上を踏まえると「対価の交換」というのが、Considerationの趣旨となるし、英米法ではConsiderationがなくてはならない契約の部品であるから、「対価の交換」ということを前面に出す訳し方をすれば、十分である。場合によっては、「Aの対価として、B」ということもあるだろうし、「本契約上の義務の履行の対価として、」と訳せる場合もあるだろう。どちらにしても、「対価性」を書面上表しておけば訳文としては十分かつ妥当である。 米国法において(少なくともカリフォルニア州法によると)、Recitalは契約法上、法的な効力を認められている。Recitalには特に法的な効力はないという無責任な解説も散見されるが、それは間違いである。したがって、Recitalの内容については、署名する前に十分に確認および吟味しなければならない。
Recitalのなかに、いつくかの事実を述べたセンテンスが包含されるのが米国における契約書の実務としては一般的だが、この各センテンスの前にWhereasと記載されることがある。契約書に限らず法的な文書、格式張った公的な文書には、このWhereasからはじまるセンテンスが多くある。 Whereasは一般的な使用法では比較をするときに出てくる。「東京は雨である「が」大阪は晴れていた」という文章の「が」に相当する使い方である。しかし、現在、米国の法律文書において、Whereasをこの「が」という意味で使うことはない。結論からいうと、Whereasを法律文書において訳す場合は、「ここに[事実関係]であることを確認する。」としておけば良い。 ところで、Whereasのこの用法は、米国でも法律文書以外には出てこない特殊なものであり、日本語に直訳することはできない。したがって、Whereasが現在使われている状況を把握しなければならない。 まず、現在、米国で法廷活動をしていて、たとえば口頭において、和解内容を両当事者が裁判所の面前で陳述したとしよう。このような場合、まずWhereasという言葉は使わない(サンフランシスコ州裁判官として執務している筆者の一人も、Whereasを裁判所内の和解内容として記載したことがない)。裁判所においては、すでに意思も確認できる場が用意され当事者も揃っているので、形式張らないでも、裁判官の合いの手とともに、内容さえ確認すれば良い。そうすると、わざわざ書面においてWhereasを使うことには、法廷に不在であっても、書面において、事実関係を「確認する」という意味合いがある。 次に、現在では、法律文書におけるWhereasには一定期間「継続している(していた)事実関係」を確認するという意味合いがある。離婚の調書などでは、Whereasと書かれていれば、夫婦関係についての変遷が記載されていることもわかるし、株主総会、取締役会決議などでも多用されるが、審議された事実関係の内容がわかる。そして、そもそも事実関係を記載する趣旨は、それが契約内容の一部を構成している以上、事実関係に間違いがないかを「確認する」ためということになろう。 上記から考えると、現状において、Whereasという単語が出てきた場合には、「ここに(この契約書、または書面において)[事実関係]を確認する。」と訳すことが妥当といえる。 そして、繰り返しとなるが、契約書のRecitalsに書かれている確認事項(Whereas)については、一定の法的拘束力が認められている点に留意が必要である(詳細はRecitalsの項参照)。 「Recitals」と検索エンジンを引くと、間違った解説がかなりあったので、どのように訳すかを含め、すっきり整理しておきたい。法律家とはいえ、よくリサーチをせずに一般的なセンスで考えると間違っている良い例である。
米国で使用する契約書(英文契約書)には(主に最初のページに)Recitalsと書かれたセクションが頻出する。 1 Recitalsというのは、「Re」と「Cit(e)」という2つの音節(音節についてはまた別稿で)が入っていることからも明らかなように当事者が関係する「過去から今まで(契約締結時まで)のこと」を書いている。それだけである。色々難しいことを解説しているが、実務家にとっては、Recitalsというのは、過去から今までのこと、今現在進行しているビジネスの関係を将来まで取り決めるのが契約本文であることを覚えておけば良い。したがって、契約本文に過去のことは入れない、Recitalsには将来のことは入れない、というのが決まりになり、ルールとしてはこれを覚えておけば十分である。 2 Recitalsについて、上記1が実務家としてシンプルに抑えておけば良いポイントであることから、実質的Recitalsの訳とすれば「この契約に至る経緯」とするのが最良である。「まえがき」など決して訳してはいけない。一体なにの「まえ」なのかまったくわからず正確性が担保されない。他の訳し方も、実務では表現としては不足である。中途半端な訳をするなら、リサイタルと英語で書くほうがまだ良いかもしれない。 3 Recitalsは、あたかも法的効力がないような解説をするウェブサイトや書物も多くあるが、とんでもない間違いである。米国実務経験の乏しい法律家は、Recitalsは「一般的なまえがき」なので、法的効力はなく、(法的効力を持たせたければ)契約本文に組み込まなければならない、と平気で書いているが、明らかにカリフォルニア州では弁護過誤になる内容である。 まず、カリフォルニア州証拠法622条には、「契約書のRecitalsに規定された事実は約因を除き、真実であるとみなす(要約)」と規定されている。法的効力があるのだ。また、契約書の文言に疑義が生じた場合、Recitalsを解釈の基礎とすることができる(カリフォルニア州民法1068条)と規定されている。このように条文によって解釈の基礎とできると規定されているので、裁判において、Recitalsは事実審において証拠となり得るのである。 4 以上のとおり、米国では(少なくともカリフォルニア州の条文上は)Recitalsは(約因を除く)事実を真実とみなす効果を持つので、慎重に記述しなければならず、また、契約本文の解釈に疑義がある場合には、Recitalsは解釈の基礎となりうるため、Recitalsと本文に連続性がある書き方を心がけなければならない。 |
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