訳例:履行期限の遵守
Time is of the Essenceについて、様々な訳語があるが、多くの場合、過度に直訳的で本条項の意味を反映できてないと感じる。本条項の意味を考えれば、Time is of the Essence(Time of the Essenceと表記される場合もある)は「履行期限の遵守」と訳すのが妥当である。本条項は英米法の歴史に由来するものであるため、その意義について「コモン・ローにおいては」などと抽象的に説明する解説が散見される。しかし、そのような解説は、学術的にはともかく、実務的には適切とは言い難い。実務家が最初に当たるべきものは条文と判例であり、抽象的法理論や歴史的経緯ではない。このことは、日本でもアメリカでも同じである。適用法令がカリフォルニア州法であれば、同州の制定法に当たる必要がある。 さて、カリフォルニア州民法1492条は、以下の通り規定する。 COMPENSATION AFTER DELAY IN PERFORMANCE. Where delay in performance is capable of exact and entire compensation, and time has not been expressly declared to be of the essence of the obligation, an offer of performance, accompanied with an offer of such compensation, may be made at any time after it is due, but without prejudice to any rights acquired by the creditor, or by any other person, in the meantime. (筆者による下線強調) この条文は、契約書に「Time is of essence」などと書かれていなければ、履行期限の後であっても(他者の権利を害さない限り)履行することができる旨を定めたものである。その結果、履行を遅滞したとしても、それだけでは解除事由とはならない (Katemis v. Westerlind (1956) 142 Cal.App.2d 799 .)。(但し、履行の遅滞について損害賠償請求ができるかは別問題である。) そこで、履行期限の遅滞を許さず、解除事由としたい場合には、契約書に期限(time)が重要である(of the essence)ことを明記しておかなければならい。商取引の契約で英米法系の国(州)の法を適用法令とする場合、特に、履行遅滞が大きな不利益となる側(例えば、イベントで販売する飲食物などの納期通りに届かなければ無駄になる商品の買主)は、この条項は契約書に入れておく方が良いであろう。もっとも、当然のことながら、契約書に書き入れる前に、想定される適用法令では、本条項に関して、どのような制定法や判例があるのかを確認しておかなければならない。例えば、同時履行が要求される契約について本条項を挿入すると、本条項の適用により双方の履行義務が免除されてしまい、履行が利益となる側が逆に損をする場合も存在する(Pittman v. Canham (1992) 2 Cal.App.4th 556.)。 Comments are closed.
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