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​MSLG ブログ

【小説シリーズ】陪審喚問の時(The Grand Jury)

6/3/2019

 
本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆した小説です。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
毎週概ね月曜日に、20回に分けて配信します。今回は第19回目です。

=====================



第19章 陪審喚問 (Indictment)
 
「早く、早く裁判所に行かなくては。」
真治君の確固とした声に、真理子さんは車のスピードを上げていきます。途中、何台ものサイレンをならした黒塗りのパトカーや黒と白に塗り分けられたパトカーとすれ違います。
「FBI…ですよね。小山先生になにもなければいいけど。」
真理子さんはため息をついています。
15分ほどで裁判所の表玄関に着きました。真治君はひとりで車を降りて、真理子さんは車を停めにいきます。真治君は怪我をしているにもかかわらず、駆け出しました。
「真治君、そんなに走っちゃだめよ。怪我してるのに!」
真理子さんの心配する声がうしろから聞こえましたが、真治君はかまわず走りつづけました。
「とにかく早く行かなくちゃいけないんだ。早く!」
真治君はもう慣れたもので、入り口近くにあるその日のカレンダーに目を通しています。
「あれ、ないなぁ。どこにあるんだろう。」
入り口の警備員が、血まみれの真治君を認め不信そうに近づいてきます。
「何を探しているんだね。」
「大陪審はどこで?」
「大陪審は4階で秘密裏に行われるのでカレンダーには載らないんだよ。」
「4階ですね。」
そこに真理子さんが駆け込んで来ました。
「真治君、大丈夫?」
「早く行かなくちゃ。」
真治君は咳き込んで血を吐きます。それを見て警備員がどうなったのかと思い駆け寄ってきました。
「とにかく大陪審に証拠を提出したいんです。」
警備員はエレベーターまでとんで行って、ドアを押さえてくれました。真理子さんも真治君を抱えるようにして4階まで行きます…。
 
カニングハムはシルクのシャツにダイアのカフスをはめ、高価なスーツをまとい、いつもより遅く家を出ました。子供を私立の学校に送り届けてきた妻が心配そうにカニングハムを送り出します。
「心配するな。何事でもない。家族には何も迷惑になることはない。」
妻に笑顔を見せて、カニングハムは自分の車に乗りこみます。今日向かう場所は事務所ではなく、連邦の地方裁判所です。緊張しているカニングハムはアクセルをふかして地裁に向かいます。車から、自分のアソシエートに電話を入れます。
「抜かりはないな。」
「今朝方チェックをしています。問題ありません。」
FBIの尾行を気にしてあまり細かいことまで突っ込まないカニングハムはそのまま受話器を置いて裁判所に向かいました、
「今日の朝さえ乗り切れば…。」
カニングハムはつぶやきました。車はサンフランシスコに向かっています。
 
裁判所に入り、カニングハムは証言台に威風堂々と座りました。
カニングハムは堂々と18人の陪審員の前に向き合うように座っています。
「証人、麻薬に関係したことがありますか。」
カニングハムは落ち着いて、
「まったくありません。心外です。私はもう20年も世のために弁護士をしているだけです。麻薬なんかに関係したことがあるわけがない。」
「FBIの捜査では、あなたが亡くなったロビンスと組んで麻薬の売買をしていたとあるが、どの程度ロビンスを知っていたのですか。」
大きな法廷に声が響く。
「いや、ロビンスが死んだことに対しては非常に落胆しています。しかし、クライアントと弁護士であるという以上の関係はまったくありません。」
カニングハムは落ち着き払った証言をしました。
「何人かの証人があなたの事務所と麻薬の関係で話をしたことがあると証言していますが、その辺はいかがでしょう。」
「私の事務所ではいろいろな事件を扱っていますから、いろいろな顧客がいますからね…。」
 
真治君が4階で降りると、廊下は静まり返っていました。もうすでに大陪審やほかの審理が始まっているのでしょう。廊下にはほとんど人影がありません。真治君はまた咳き込みました。ふらふらでなかなか歩きづらそうです。倒れそうになる真治君を支えながら、真理子さんも小さなのぞき窓からひとつひとつ法廷の中を見ていきます。
第401号法廷、第402号法廷とも、大陪審が行われているようではありませんでした。その先、第405号法廷の前の廊下のベンチに、何人ものスーツを着た男性が無言で座っているのが見えました。みんな心配そうな顔をしています。
第405号法廷の一枚目の大きな木の扉を開くと、中にガラスのついた扉があります。真治君がその大きな扉を開こうとしたとき、ベンチに腰掛けて明らかに心配そうな顔をしていたスーツの男がひとり、いきなり目をむいて立ちあがりました。
「なぜ…。」
その男が言いました。そしてすぐさま真治君がドアを開けるのを止めようと、真治君を羽交い締めにしました。
「何するんだよ!」
真治君は大きな声で叫びました。
「今は大陪審の召喚中だ。おまえなんかの来るところじゃない。」
そのスーツを着た男が押し殺したような声で言いました。彼はカルガモ一家の一人ですね。真理子さんが
「あなた、いい加減にしなさい。手を離しなさいよ!」
と言ってその男につかみかかります。するともう一人の男が、今度は真理子さんを羽交い締めにしようとします。真理子さんの大きな悲鳴は法廷の中にも聞こえたようです。中からシェリフがとんで出てきました。
「何が起こってるんだ。今は審理中だぞ。」
スーツを着たカルガモ一家の一味は、ぱっと真治君から手を離し、自分のスーツを身繕いながら
「何も起きていません。ただ、この子供が中に入ろうとしたのを止めただけです。彼は現在いかに重要な審理が行われているのか、理解していないらしい…。」
真理子さんが声を荒げます。
「何言ってるのよ。今、中で大陪審が開かれてるんでしょう。今、聞いたわ。この子を中に入れなさい。この子は証拠を持っているのよ!」
明らかにカルガモ一家の表情が変わりました。怯えたような表情をしています。
そうこうしているうちに中から声がして、誰かが出てきました。マックブライドです。マックブライドは血まみれの真治君を見て、目を丸めました。
「さっき、小山弁護士が監禁されているという電話が入ったけど、どうしたの。」
「僕も一緒に監禁されていたんです…。マックブライド捜査官、私は父のパームを持ってきました。」
「パームか。やっとお目にかかれるね。」
中の審理は一時中断したようです。ざわざわと人の声が聞こえます。
マラック検事が登場しました。マックブライド捜査官と簡単に話しています。
「これは、麻薬を運んだ被告人のシンジ・フクモトじゃないか。こんなところでどうしたんだ。」
マックブライド捜査官がマラックに報告します。
「彼がパームを持ってきたそうです。」
「え、パーム?それは証拠なのかい。」
「はい、今、証言しているカニングハムが麻薬組織につながっているという情報が入っているはずです。」
「とにかく基本的なカニングハムの喚問は、やはり終わらせなくてはいけないだろう。」
マラック検事はマックブライド捜査官を制して、法廷内に戻って行きました。第405号法廷の中ではカニングハムの召喚が続けられることになりました。
大陪審に使われる法廷は大きくありません。起訴をするかどうかを決める大陪審の陪審員が座り、それに起訴することを大陪審に提示している検察官、つまりマラック検事が端の方に座っています。大陪審席にちょうど向き合う形で証人席があり、マイクがちょうど口の位置にくるようにセットされています。そして、そのマイクの前に口をへの字に結んだカニングハムが座っています。そしてその口のところに両手を拝むような形に合わせています。高そうな濃紺のスーツにおとなしめのネクタイをしめて、カニングハムはいたって無表情を装っています。まだ、扉のそとで何が起こっているのか、知らない様子です。
マックブライドは真治君を法廷の外に連れだし、廊下にある木製の長いすに並んで座らせました。
中では大陪審が続けられています。
今日の大陪審は18人の男女で構成されています。細かく分けると8人の男性、それに10人の女性が座っています。白人が11人いますが黒人や、ヒスパニック系それにアジア人も混じっています。熱気で部屋が暑いくらいです。汗をぬぐっている人もいます。
検察が短い問いをカニングハムに投げるとカニングハムはそれに応答していきます。陪審員はその証言を元に起訴をするか決めていくのです。ちょうど、カニングハムの向かって左側の奥に座っているマラック検事がそしてその横にはミラノ検事局長が座っています。質問を続けているのはマラック検事です。陪審員たちは一人も遊ぶことがなく、じっとカニングハムを見つめています。マラックは自分の席に座り、中断したことをお詫びしています。
そのマラックの詫びを聞いてカニングハムは軽くうなずきました。
弁護士は人に質問することはたくさんしますが質問される側に立つことはあまり慣れていませんから、カニングハムも表情は崩していません。
マラック検事は質問を続けます。
「ちょっと聞かせてください。あなたが麻薬にかかわっていたという事実は今日の朝の喚問で否定されましたが、あなたの周りで麻薬をしていたという人をご存知ないですか。」
「知りません。」
「それではお聞きしますが、リック・ギャリソンというイタリア系男性の名前を聞いたことがありませんか。」
「存じません。」
「それはおかしい、まあいいでしょう。先週のことになりますが、そのイタリア系の男性のところに電話をしませんでしたか。」
「した覚えはありません。」
「いやしたはずです。良く思い出してください。たぶんこのテープの声を聞けば思い出すかもしれません。」
マラック検事はカセットレコーダを取り出し、テープをかけだしました。大陪審では陪審裁判のときと違い証拠の提出基準についてあまりうるさくないのです。そのカセットの声が法廷に響きます。
(ハロー、リック・ギャリソンはいるか…)
陪審員は、じっとカセットレコーダを見つめています。そのメッセージの内容はリック・ギャリソンの家から押収されたテープです。カニングハムの名前は出てこないもののカニングハムの声に酷似しています。マラックがテープを止めると、カニングハムに聞きます。
「あなた、この声に聞き覚えありませんか。どうおもわれます。」
「どうおもわれるとはどういう質問ですか。」
「あなたの声ですかという質問です。」
「似ているが、私ではない。」
「そうですか。しかし、あなたのオフィスからこの電話がかけられたことは間違いない。あなたがかけたのではないでしょうか。」
「かけたかどうかに付いては黙秘することにしましょう。しかし検事さん、これは覚えておいていただきたい。仮にこのようなテープがあり、リック・ギャリソンという人物に私が電話をかけたとしましょう。そうすると、それが一体なんだというんです。私が麻薬売買にかかわっていたという証拠にはなりませんよね。」
さすがカニングハムは手馴れた法廷弁護人です。検事に話しかける振りをして、自分が麻薬に関係ないという印象を陪審員に植え付けているのです。
喚問は続きます。
「FBIの捜査であなたがVgodというユーザー名でEメールをしていた事がわかっていますがどうでしょう。」
「知りません。」
「それではリック・ギャリソンという人がVgodというアドレスにメールを出していますが、心当たりありませんか。」
「知りません。」
まったくもって「知らない」を繰り返されてしまうと黙秘よりもたちが悪いんですよね。そうなってくるとあまりにも証拠が不充分で起訴さえできなくなる可能性もあるのです。マラック検事は少々焦りとカニングハムに対する憤りを隠していませんでした。少々いらいらしながら質問は続けられますが、ほとんどのきわどい質問は「知らない」と交わされてしまいます。そこいら辺はプロでツボをチャンと心得ているのです。
マラックの質問やカニングハムの答えを熱心にノートにとっている陪審員もいますが、肝心な質問になるとまずメモを取るということがありません。マラック検事は少し手詰まりだな、と感じていました。苦虫を噛み潰したような顔をしています。
少々考える時間が欲しいのか、気分転換をしたいのか、マラック検事は一旦ここで休廷にしたいということを陪審員に告げました。カニングハムも同意して、証人席から降りました。陪審員は専用の出口から休憩のためにうしろの控え室へ戻って行きました。口をき     く人は誰もいません。
休廷になったところで、マラック検事がシェリフに目くばせしてマックブライドと真治君を中に呼ぶように頼みました。シェリフがマックブライドを呼びに行きました。外で待っている間、真治君はマックブライドにパームを見せるように何度も言われていましたが、大陪審の前以外では見せないと何度も強調していました。マックブライドは、真理子さんが見ている前で無理やりそのパームを取り上げることもできず、ただ時間が過ぎるのを待っていたところだったのでシェリフが呼びに来たときにはぱっと顔が明るくなりました。
マックブライドは、積極的に怪我をしている真治君の肩を抱きかかえるようにして、法廷内に入ります。一枚目の大きな扉を開けて、二枚目のガラスがついた扉を開けようとしたときに、カニングハムが中から外に出てきました。カニングハムは真治君と目を合わせました。非常に驚いた顔をしています。ただ、取り乱すことはなく、すぐに冷静な顔に戻って外に出ていきます。カルガモ一家のメンバーはマックブライドや真治君とちょっと離れて座っていましたが、出てきた親分の顔を見るなり、かえるのように飛びあがり、カニングハムに近づいて、聞かれた内容について確認しています。前に書いたように、大陪審の法廷では自分の弁護士を法廷内に連れて行くことができないので、カルガモ一家はカニングハムを弁護するために中には入れないのです。
真治君を従えて法廷内に入ったマックブライドは、マラック検事とミラノ検事局長がいるところにつかつか歩み寄って行きました。マックブライドは二人の顔を見ながら、
「検事さん、これがあの死亡したフクモト氏の子供のシンジなのは、おわかりですよね。」
マラック検事は思い出したようにうなずきました。ミラノ検事局長もじっと真治君を見ています。
「フクモト氏がジャック・ロビンスと旅行していたのはご存知ですよね。」
「うん、それは知っている。」
マラックが言いました。
「FBIが血眼になって探していたパームを、今日、この子が持ってきました。」
「え、じゃぁ、何か重要な情報が入っているんだね?」
「ええ、多分…。」
そのとき、真治君が口を開きました。
「重要な情報…。麻薬組織について知らなければ書けないようなEメールのコピーがたくさん入っています。カニングハムのメールです。私はこの情報を、私の父の無罪を証明するために持ってきました。」
マラック検事は軽く口笛を吹きました。ミラノ検事局長が口を挟みます。
「証拠があるのはわかる。しかし、いきなり証拠として出すわけにはいかない。」
マックブライドも考えるポーズを取りました。
「いくらなんでもFBIが押収していないこのパームを、そのまま検察側の証拠として出すわけにはいかないよ。」
「え、どういうことですか。」
真治君が聞きました。検事局長は真治君に教えます。
「いや、このパームはFBIが押収したものでないということはわかるよな。とすれば、検事側としてはこれが証拠であるということに責任を持てないんだ。変な話、誰でもこの中身を書きかえることができたわけだろ。君が父親の無罪の証明のために、証拠を作ったとも考えられてしまうということさ。だからダメなんだ。」
マラックが言いました。
「検事局長、では、このシンジに証人喚問をしてはどうでしょうか。」
「え?」
マックブライドもキツネにつままれたような顔をしています。また、真治君も非常に驚いた顔をしています。
「捜査機関が押収した証拠でないのはわかりますが、とにかく大事な証拠だと考えられます。ですから、シンジを証言台にあげて、シンジがこのパームが父親のものであったと証言し、さらに中の情報に関しても一切いじっていないと証言すれば問題はないんじゃないでしょうか。」
ミラノ検事局長はしばらく黙って考えていましたが、
「よし、それでいこう。」
と言いました。マックブライドが真治君を気遣って言います。
「シンジ、君は証言することができるかね。」
真治君はちょっとの間考えていましたが、堂々と答えました。
「もちろんです。父の無実を明らかにするため、そして、この麻薬組織の壊滅に少しでも役に立つんだったら、僕はなんでもやるつもりです。」
「頼もしいね。」
マラック検事が言い、さらに続けます。
「シンジ、通訳はいらないかい。もし証言しづらいとすれば通訳がいるだろう。ただ、そうだとすると、今日は証言できないことになってしまうけどね。」
「あの、外に日本語も英語も両方話せる人がいるんですけど、彼女ではダメですか。」
「ダメだ。裁判所が認定した資格を持っている人じゃないとダメなんだ。」
「そうなんですか…。」
真治君はしばらく考えていましたが
「それなら、僕がひとりでやってみます。ひとりでやらせてください。とにかくやってみて、ダメだったら後で考えるということでも、やらせてください。証言させてください。」
しっかりした声で言いました。
「シンジ、君にそれができるのかね。」
ミラノ検事局長が真治君の目を見て尋ねました。真治くんはその目をまっすぐに見返し、そして断定的に力強く首を縦に振りました。
「できます、やらせてください。」
「わかった。」
そのとき、カニングハムが法廷内に戻ってきました。マラックはカニングハムを認めると、すぐに立ちあがりカニングハムのところへ行きます。マラックが二言、三言話すと、見る見るカニングハムの顔が紅潮し、マラックに罵声を浴びせている声が聞こえます。
「なに!あの子供に証言を許す?どういうことなんだ。」
「いや、カニングハムさん、ご理解いただきたいですね。大事な証拠が出てきているんです。この証拠は非常に重要だから、絶対に大陪審に出さなくてはいけない。そのためには彼の証言が必要なんだ。」
「そんなこと、許されるわけがない!」
体中の血が頭に上ったようになったカニングハムは威厳を繕いながらも叫んでいます。
「まぁ、カニングハムさん、あなた、好きなことを言うのは勝手だけれど、実際の陪審裁判でないからあなたは異議を申し立てることはできないんですよ。おわかりですね。」
紅潮しているカニングハムの顔についている目をじっと見ながら、マラックは子供を諭すように語り掛けました。カニングハムはその問いかけに答えることもせず、真治君を睨みつけました。真治君は目をそらすことなく、じっとカニングハムを見つめています。ため息をつきながら、マラックが言います。
「カニングハムさん、そういうことですから申し訳ないんですが、1時間か2時間ほど待ってもらうことになります。我々は基本的な事項を整理整頓したいから、とにかくシンジを証言台に呼ぶことにしました。その間、外で待っていていただけますね。」
マラックは自分の言いたいことだけ言うと、にこっと笑っています。カニングハムが言います。
「そんなこと、承諾できるか。そういうことなら、私はもう帰らせてもらう。」
「うーん、出廷拒否ということになりかねませんよ。カニングハムさん。ご存知ですよね、出廷拒否をすれば、最長で5年間の懲役になることもあるんですよ。」
カニングハムは承諾するしかなく、肩をいからせて法廷の外に出ていきます。そのとき、マックブライドの携帯電話が鳴りました。しばらくうなずいていたマックブライドは電話を切ると、真治君の肩をポンと叩きながら言いました。
「シンジ、よかったね。小山弁護士は助かったみたいだよ。FBIが踏み込んでなんとか救出したから、大丈夫みたいだよ。だから安心して、さぁ、がんばって証言するんだ。」
マラックがシェリフに目くばせをします。シェリフは控え室に陪審員を呼びに行きます。マラックは証言台に座るよう、真治君に指示しました。真治君はひとりでは歩けないほど脚がふらふらしていましたが、なんとか証言台につきます。ゼイゼイ肩で息をしています。外にいる真理子さんは、再び法廷内に入ることをシェリフに拒否されたので、二枚目のガラスのついた扉のところで真治君が証人席に座るのを見届けました。
陪審員が法廷に入ってきました。銘々、自分が朝から座っていた席に腰を下ろします。脚を組むものもいれば、真治君のことをじっと見つめている陪審員もいます。全員が着席したところでマラックが口を開きます。
「陪審員の皆さん、カニングハムの証言は、ここに座っているシンジ・フクモトの証言が終わるまで、一時中断することにしました。」
陪審員の中には証言を聞き飽きて、少々うんざりしている人もいます。
「皆さんの中にこのシンジ・フクモトとなんらかの利害関係のある方はいませんね。」
すべての陪審員がないと答えました。もし利害関係があってなんらかの形で大陪審の判断に影響した場合、公正な判断でないとされて判断が無効となります。すべての陪審員がないと答えたことに満足そうなマラックは、真治君に向き直りました。
「証言の準備はいいかな。」
と小さいな声で真治君にささやくと、真治君は
「O.K.」とつぶやきました。マラックは自分の席に戻ります。証言する真治君の横顔を見つめながら、マラックが質問をはじめます。
真治君の心にはお父さんや小山弁護士の顔が浮かんできます。
(勇気を持たなくっちゃ。)
「陪審員に名前を述べてください。」
「シンジ・フクモトです。」
「君の現住所は…?」
マラックはまず、基本的なバックグラウンドの情報から聞いていきます。陪審員が真治君が誰であるかを簡単に知ってから実質的な質問に入っていきます。
「シンジ、君のお父さんは、あのサンフランシスコ空港での爆発に巻き込まれて亡くなったんだね。」
「そうです。」
「その爆発の原因が、君のお父さんのかばんだったということは知っているね。」
「知っています。」
「そのかばんの中に麻薬が入っていたことは?」
「知っています。」
「それは間違いないかね。」
「私の聞いた範囲では、間違いありません。」
真治君も緊張の面持ちで、マラックの問いに言葉を選びながら答えていきます。
「シンジ、そして君は麻薬所持の容疑で裁判にかけられているね。」
「はい。」
「その麻薬というのは君の家で発見されたのかい。」
「はい。」
「そして君の弁護士が言うように、君は現在、無罪を主張しているんだね。」
「そうです。」
「なぜ、君は無罪を主張しているのか、その理由を簡単に教えてくれないか。」
「簡単なことです。私も父も一切麻薬には手を出していません。麻薬なんて、見たこともありません。」
「じゃぁ、なぜ君の家に麻薬があったんだろう?」
陪審員も真治君の証言を聞きながら、一体どういうことになるのかと興味深々です。真治君は断定的に言いました。
「誰かが仕組んだに違いありません。」
「その仕組んだ誰かを、君は知っているのか。」
「カニングハムに間違いありません。」
「カニングハムというのは、さっきまで証言していたビクター・カニングハムに間違いないかい。」
「間違いありません。ビクター・カニングハムです。」
「それでは聞くが、ビクター・カニングハムがそれを仕組んだと、そんなに断定的に言える理由はなんだね?」
「手帳型コンピュータ、パーム・パイロットに入っている情報に基づいているからです。」
「そのパーム・パイロットというのはどこから来たのか、説明してくれるかな。」
「このパーム・パイロットは、私の父が生前持っていたものに違いありません。」
「それが君の父の持っていたものだと断定できる理由は?」
「それは、このパーム・パイロットにはパスワードがかかっていて、それが父のいつも使っていたパスワード、つまり私の死んだ母の命日だからです。また、アドレスブックの中を見ても私の父の関係者が入っていますから間違いありません。」
「では聞くが、そのパームの情報からカニングハムが今回の爆発や麻薬組織と関係しているとどうやってわかったんだね。」
「はい、それは中に入っているEメールです。」
「Eメール…。Eメールというのはインターネットを通じてやりとりする、電子形式のメールのことだね。」
「そうです。」
「そのメールを読むと、なぜカニングハムが麻薬に係わっていたとわかるんだね?」
「一連のメールの中には、カニングハムが私の父と同時に死亡したジャック・ロビンスと一緒に麻薬の売買をしていたことが克明に記されていますし、また、父をも麻薬取引に引き込もうとやっきになっていたことも記されています。」
「なぜその情報の発信者がカニングハムであるとわかったんだね。」
「それは簡単です。カニングハムの実名もメールの中に出てきましたし。また私の父がカニングハムに対して挨拶やトレード・センターの建設に関して…私の父は建築家でしたから…いろいろ便宜を図ってもらったことに対してお礼を述べている文章があるからです。」
「それは間違いないんだね。」
「ええ、間違いありません。」
「カニングハムが麻薬に係わっていたということに、間違いはないんだね。」
「はい、間違いありません。」
陪審員の何人かからため息が出ました。
「では、このパーム・パイロットはどうやって入手したんだね?」
「私の父が車に忘れて行ったものを、私の弁護士が探し出してくれたんです。」
「小山弁護士だね。」
「はい、そうです。」
質問は続きます。真治君には相当な疲れが見えてきました。マラックはカニングハムが麻薬に係わっていた事実を確かめるのに入念な質問を繰り返していきました。2時間ほど質問攻めにあった真治君に、マラックがこう言いました。
「シンジ、最後にひとつ、頼みがある。」
「なんでしょう。」
「そのパーム・パイロットを証拠として提出して欲しい。してくれるよね、もちろん。」
真治君はマラック、それにマックブライドを見ながらゆっくり言いました。
「拒否します。」
陪審員たちは顔をしかめ、マラックはもっと顔をしかめました。
「拒否するというのは、どういうことだね?」
「提出するのは構いませんが、私と私の父の無実は明らかにしてもらいたいんです。司法取引です。」
パームを人質にとった司法取引で、真治君の挑戦は見事真治君に軍配が上がりました。
「君には負けたよ。でもそれはオフレコで話さなくちゃいけない。」
一時休廷を宣告したマラックは真治君の席に近づきます。マックブライドも同じようにします。
「検事さん、マックブライドさん、僕と僕の父は無実です。麻薬なんかにはまったく係わっていない。この内容を全部見てもらえば、わかることです。もちろん僕の起訴を取下げてくれますよね。」
真治君は目は笑っていませんが、パームを渡しながらにこっとしました。マックブライドがぽつりと言いました。
「君のガッツには負けたよ。」
それを聞いてほっとしたのか、真治君は法廷で崩れ落ちました。崩れ落ちた真治君を支えていたマックブライドが叫んで救急車を呼びました。真理子さんもかけよって真治君を介抱します。真治君は意識はしっかりしていましたが、また滑り落ちそうになってマックブライドや真理子さんに支えられています。
 救急隊員が到着しました。担架に真治君を乗せて、病院へ運んでいきます。30人を超える人々が集まっていた第405号法廷も、真治君を乗せた担架が出て行くと静まり返りました。マックブライドは救急車を見送りながら
「よくやったなぁ。」
とつぶやきながら、両手をポケットに突っ込んでいました。
 その後、今度はカニングハムの喚問が続けられました。夕方の5時までたっぷり陪審喚問が続き、質問も出尽くしたところでカニングハムの召喚も終わりました。カニングハムの顔にも相当疲労の色が見られます。しかし、5時で終わったからといって陪審員がすぐに開放されるわけではありませんでした。起訴にするかしないか一応の判断を示すときが来たのです。陪審員は控え室に戻り、なんと15分もしない間にまた法廷に戻ってきました。陪審員の判断は全員一致でカニングハムを起訴する、というものでした。起訴の内容が麻薬に関する罪だったため、カニングハムはその場で収監されることに決まりました。シェリフが来て、カニングハムの手に手錠をはめていきます。にぶい金属音がするとともに、カニングハムの手の自由はなくなりました。顔が青ざめています。しかし、それでも弁護士の鑑ですね。できるだけ平静を装っていました。判断を下した後陪審員は開放され、カニングハムもシェリフに連れられて法廷の裏の出入り口から出て行くところでした。マラックとミラノ検事局長は満足そうな顔をしています。起訴という判断を聞いたカルガモ一家が外から法廷内に流れ込んできましたが、一言も発することができません。
カニングハムは大陪審によって起訴され、連邦のRICO法、それに麻薬組織の実行犯としての罪を含め、11の罪で起訴されました。カニングハムは最後までしぶとく闘いましたが、11中8個の罪において、今度は小陪審が有罪の評決を下し、延べ禁固38年の計を受けました。パームに入っていた情報が有罪の引き金になったことはもちろんです。カニングハムは弁護士の資格も剥奪され、ベーツ&マコーミックにも大きな汚点となりました。その後の裁判において、これまでいろいろわからなかった事実が公になりました。カニングハムはカリフォルニア州におけるコロンビーニ一家のボスとして多大の利益を吸い上げていただけではなく、今回の爆発についても主に仲たがいをしたジャック・ロビンスおよび福本氏を死に至らしめる実行犯も担っていたと新聞やタブロイドに大きく報道されていました。
どのくらい意識を失っていたのでしょう。私は病院のベッドで気を取り直しました。横では真治君がぐっすり寝ています。
「無事で良かった…。」
FBIに助けられた私はヘリコプターで病院に運ばれたと後で知りました。
真治君の持っていった証拠のおかげでカニングハムが起訴されたということもお見舞いに足繁く通ってくれる真理子さんから聞きました。
私が出廷できなかったですが真治君は起訴取下げ処分となり、お父さんが死んだにもかかわらず立派に高校を卒業して、東海岸の大学に進学しました。その後はお互いに忙しくて連絡が途絶えてしまいました。真理子さんともその後お付き合いはしたものの、運命とは皮肉なもので、真理子さんが本拠地をアトランタに変えることになり、会うことが少なくなってしまい疎遠になってしまいました…。​



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