本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== 今回は、読者の方から「アメリカの契約書では弁護士の費用は裁判に負けた側が払うということがどのような契約書でも含まれていますが、どのような意味があるのでしょう」というご質問をいただきましたので、皆さんと一緒に考えていきましょう。訴訟になると裁判にかかる費用というのは、なかなか高額になるのが通常ですね。ある意味では、訴訟のコストという部分もあるのですが、弁護士の報酬というものも安くない場合が多いのですね。 さて、今回の質問を考える上で、皆さんに知っていただかなくてはいけない法律の一般論があります。まず、契約と契約外の人間関係を簡単に考えたいと思います。民事事件では大きく分けて契約、すなわち約束をしたのに守ってくれないというケースと、契約などはないのだけれど、車を追突されたりして、損害を被った場合に相手方に請求をしていきたいケースにわかれます。 まず、契約に基づかない関係から考えます。 契約に基づかない関係から生じる民事上の請求では、不法行為というコンセプトが代表的なものとして考えられます。 不法行為(Torts)とはなんだというと、世の中にいるだれかが故意や過失を持って、第三者に損害を与えた場合には、因果関係がある限り償いをしなくてはいけなくなる行為をさします。もちろん契約外の関係には、いろいろな人のしがらみを考えられることができます(事務管理、不当利得など)が、ここでは不法行為のみを取り上げて考えていきます。不法行為の代表的な例として挙げられるのは交通事故でしょうか。皆さんが車を運転していますよね。信号待ちをしていると後ろから、車を突っ込まれたとしましょう。この場合、皆さんは怪我をした場合、後ろから突っ込んできた人に怪我の治療費や働けなかったことによって生じた損害を請求することができますね。最初から約束や契約などがないのに、事故が起こったことで皆さんと、後ろから突っ込んできた人の間に不法行為という法律関係が生じるのです。この不法行為というのが契約外関係の代表的な例なのですね。この不法行為などで損害を負った場合には、アメリカでは原則として合理的な範囲で相手方に弁護士の費用を請求することができます。ですから、訴えるときに裁判所に提出する書類の訴状などには、請求の欄に必ず「弁護士費用を請求する」という文章をいれておくのです。 これに対して、契約関係(Contractual Relationship)という法律関係があります。契約といってもいろいろな契約が存在しますが、売買契約などが代表的です。売買契約とは簡単にいってしまうと、皆さんが「ペンを一本100円で売りましょう」と私に言い、私が、それでは「そのペンを売ってください」と言い約束をすることです。100円のペンで訴訟にはならないかもしれませんが、単価が100円でも100万本になればすごい金額になりますよね。もし、皆さんと私がこのようにペンの売買の約束をしたとして、私がお金を払わなかったり、皆さんが私に売ってくれたペンがかけなかったりした場合には、もともと予定していた約束と違いますね。このような「約束が違う」場合には債務不履行責任という責任が生じる可能性があります。自分がやらなくてはいけないことをやっていない場合に責任が生じるのです。アメリカでは、伝統的にこの契約関係がある場合には、契約書などできっちり「訴訟になった場合には、敗訴者が相手方の弁護士費用を負担する」ということを明記していない場合には、基本的に自分が支出した弁護士費用は請求できません。ですから、契約書を作る場合には、多くの場合、弁護士費用を請求する一文をいれておくのですね。 このように、契約関係では弁護士の費用というのは基本的に相手方に請求できませんので、弁護士費用についても事前に決めておくのがアメリカでは通常になったのですね。契約関係や契約外関係ではこのように弁護士費用の違いがあるのですが、ほかにも様々な法律論的な違いがあります。代表的な例は懲罰的損害が請求できるかどうかという問題です。契約外関係に基づく請求では懲罰的損害を請求することができますが、契約に基づく請求では、損害額を予定しない限り懲罰的損害を請求することができません。懲罰的損害とは簡単に言ってしまえば、相手方が「悪い」行いをした場合に、その相手方の資力に応じて、損害金を払わせることを指します。あまり日本ではなじみのないコンセプトですが、アメリカでは契約外関係に基づく請求事件ではよく見かけるコンセプトなのですね。 以上のような契約関係と契約外関係という二つの大きな違う法律関係が存在しているので、弁護士費用の相手方に対する請求もできる場合とできない場合がでてくるのですね。契約関係と契約外関係というすみ分けはアメリカでも日本でもあまり変わりはありませんので、興味があるかたは、民法入門のようなものをみてみると良いかもしれません。 Comments are closed.
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