本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== 今回は皆さんに馴染みがそんなにないであろうコンセプトを考えてみましょう。日本語で訳すと、「約因」英米法では、Considerationと呼ばれるものです。契約書を読んでいると、アメリカでは必ず「In condieration of...」とか、「For the value received」といった記述が契約書に書いてあります。時々、翻訳を見ていると、法律をわかって翻訳していないため、難解になっていることがあり、ぜひ、今回、この約因というコンセプトをわかっていただきたいと思っているのです。私も最初は日本の法律を勉強していたので、この「約因」というコンセプトが出てきたときには、よく悩まされました。 口約束でも書面による約束でも構いませんが、契約というのは、まず二人(会社などでもよい)以上の人がお互いに約束するところから始まります。この約束をする人達を「当事者」と呼んだりします。たとえば、一方の当事者が「この鉛筆を50円で売ろう」、そしてもう一方の当事者が「それなら、その鉛筆を50円で買おう」という約束をすることによって契約は成立します。「売ろう」、「買おう」という意思が合致したときに契約が成立したことなります。ということは、基本的に書面でなくても口約束でも立派な契約になるのですね。日本では、契約をしようと申し出ることを「申込」といい、その申込に対して、「了解しました」ということを「承諾」といいます。日本の民法では契約は、この申込と承諾があって、契約が成立します。一方の当事者が約束を破れば、法的に強制ができるのですね。ところが、アメリカを含め、英米法の下では、この申込と承諾の他に、約因というコンセプトがなければ、契約は成立しません。 約因(Consideration)というのは、歴史的なコンセプトの変遷があったものの、現在では契約の当事者がなんらかの「価値を交換する」ということです。つまり、申込と承諾があっただけではなく、何らかの価値をお互いに交換してはじめて契約となるのです。アメリカの法律を学ぶ学生も頭を悩ますところですが、簡単な例を使うと、「鉛筆を50円で売ろう」というのが、申込で、「その鉛筆を50円で買おう」というのが承諾だとすると、この契約では、「当事者同士で50円と鉛筆を交換すること」が、約因となります。英米法ではこの「約因」というのがあってはじめて契約が成立することになりますから、契約書を見ても、必ず、For the value receivedとか、In consideration thereofなどという、当事者同士で交換していることを明確にしている文章が記載されているのです。ですから、翻訳をするときには、必ず契約書を読み、どのようなものが交換の対象になっているのかを考えなくてはいけません。不動産を借りるときには、住む権利と家賃を支払う義務が交換されていますよね。弁護士に仕事を委任するときには弁護士が業務を行うことと、その報酬を支払うことが交換されることになります。 日本では、「贈与」というと契約の一形態と位置づけられています。一方の当事者が他方になにかあげることが贈与契約とされていますが、アメリカでは一方がもう一方の当事者にものをあげることは契約とはみなされていません。なぜかといえば、一方がもう一方にものをあげるだけでは、ものを交換していないですよね。交換がなければ対価性がないですから、約因もないとみなされ、契約としては成り立ちません。こういった贈与を契約としたいときによく使われるのが、1ドルを対価として、ものをあげるといった形にすることです。たとえ1ドルでも交換していれば、対価として成り立ちますので、約因とすることができるのです。契約を成り立たせるためによく使われていたテクニックなのです。 以上で約因というコンセプトがある程度おわかりになっていただけたでしょうか。最近の学説では、約因というコンセプト自体が必要ないものではないかという議論も活発に行われています。果たして、対価性が実際に必要なのか、学者にしても意見が分かれるところなのですね。ただ、一般的なレベルでは、現在でも「価値を交換すること」が契約では必要だと認識し、契約書を作るときには必ずこの対価性を反映させることを忘れないでくださいね。 Comments are closed.
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