訳例:不可抗力
不可抗力については、日本で理解される不可抗力とほぼ同様の理解で足りる。 外部からの事変であっていっさいの方法を尽くしても損害の発生を防止しえないようなものをいう。たとえば、一定の物を送付すべき債務を負う場合に、大地震で交通機関が断たれて送付できなかったような場合である。(日本大百科全書 ニッポニカより引用) Force Majeureというのはフランス語である。アメリカではラテン語は知識層が勉強するという一般的なイメージがあり、(それが格好良いのか)ラテン語をそのまま法律用語として使っている場合が多いが(筆者は、やはり英語で平易に記述するほうが現代には合っていると考える)、フランス語も使うのである。この意味は、Superior Force、すなわち「上位の力」となる。 Force Majeure条項に関しては、その概念は抽象的には理解が容易だが、契約書にどのように記載するのかよく考えなければならない。Force Majeureと関連するImpossibility (履行不能)やImpracticability(履行困難)による履行不能の場合も同様であるが、どのような事態がありうるかを具体的に考え、そのうちのどこまでを履行不能や不可抗力として扱うのかを検討し、契約書に落とし込む必要がある。 また、債務の履行の全部ではなく一部に影響がある事態も考えられる。この場合、全部の履行が不能となる場合だけではなく、一部の履行が不能となる場合(契約上規定されている目的物、支払額の不足など)にも、対応できるような条文の設定をしたいところである。 Force Majeure条項は、単に定型文をそのままコピペするのではなく、契約内容に合致した内容を反映させる必要がある条項である。 J Weekly 12月7日号資産運用特集にMSLGメンバーが執筆した記事が掲載されました。
---------- 1 はじめに−自分の死後を考えるきっかけ 昨年は具体的な相続などの話題について取り上げましたが、今年は、総論的な視点から原稿にしたいと思います。アメリカでは相続に関してエステートプランニングという言葉が一般的に使われていますが、その内容をある程度理解されると、どういったことから着手したらよいのか、わかると思います。実際、皆さんは普段の生活の営みでは、あまり相続などについて考えていないと思います。なぜなら、皆さんはこの原稿を読んでいるのであれば、生きていて、長い人生そのものを考えていて、死後のことを考える時間はなかなか割けないからです。また、自分の死後のことを考えたくもない人もいると思います。現実問題として、自分の死後のことを考えなくても生きていけるわけですから、プライオリティは低いのかもしれませんね。 自分の死後について考えるきっかけとなるのは、近親者や友人の家庭で相続の紛争が発生した場合です。財産を巡って人が愚痴を言い、親族を罵倒し、少しでも多くの金銭を懐に入れようとする姿を周りから見ると切ないものです。相続事件で争いが生じると、10年以上も続くものがあります。こういったことが身の回りで起きると、「自分もそろそろ用意しておかなければなぁ」と人は思いはじめるようです。もちろん、ある程度の歳になると、このような出来事に接することが多くなるのかもしれません。しかし、若くても不慮の事故などで亡くなってしまうということも人間にはあり得ます。人は必ず死ぬわけですから、今回の原稿をきっかけに漠然とでも良いので、相続を考えるきっかけになればよいのではないかと思います。 2 エステートプランニングとは エステートというのは、相続財産という意味です。相続財産というのは、誰かが所有していて、その人の死後残された財産を指します。エステートプランニングというのは、自分で持っている財産を自分の死後、どのように分配するのか生きているうちに計画しておくということです。相続計画とでもいいましょうか。死後に自分の親族が醜い争いをすることを避けるためにも、生きている間に計画しておこうというものです。実際のところ、「弁護士にまで話を聞くほど財産を持っていないよ」という考えもあると思います。そういう考え方もあって当然です。「宵越しの銭は持たない」方であればあるほど、死後の財産について考える必要は少なくなるわけですね。ところが現代社会では、死ぬときに無一文という人は少なく、なんらかの動産や不動産を所有しているものです。中古コンピュータ一台でも立派な財産です。そして、たいしたことはないと自分は考えていても、自分の親族はそのように考えていない場合もあります。残された人にとっては、お金の価値はどうでも良く、故人がどのような気持ちを持っていてくれたを考えることがよくあります。遺言のことをWillと言いますが、人間が残された人たちに最後に意思表示をすることを意味します。そういう観点からも、相続設計が必要になる場合があります。以下、具体的にどのようなことをしていったら良いのか考えていきましょう。 3 具体的にまず何をしたら良いのか さて、相続設計と言っても普通何をしてよいのかわかりませんね。そこで、ここでは、初動で何をするのか考えましょう。結局専門家である弁護士に相談するにしてもやらなくてはいけないことなので、自分で整理しておくと考える道筋ができます。やることは2つあります。一つは財産のリスト化、もう一つは、自分の死後、誰(人でなくても団体でも構いません)に最終的に財産を帰属させたいか、ということです。ということは、人(団体)のリスト化ということになります。財産のリストについては、あまりにも細かいものは必要ありませんが、不動産、銀行預金、金融商品、生命保険、大きな動産などを箇条書きにしてみましょう。さらに、思い出がある品などもリストをつくっておくと良いです。そして、リスト化したものを誰にどのように帰属(相続)させていきたいか、さらに人のリストをつくるということになります。この人のリスト化は、家族だけではなく、団体や友人など、自分が財産を渡したいという人はすべて書くべきです。この時点では、住所や電話番号、メールアドレスがわからなくても良いので、とにかく考えられるだけのリストをつくるということが重要です。 これらのリストを作ったら、実はエステートプランニングの作業の半分は終わったと思ってください。ここからは相続財産に関するメカニズムをつくることになります。この時点で、専門家に相談しても良いですし、何もしないのも一つの考え方だと思います。フェアな専門家であれば、そもそもエステートプランニングが必要かどうかについても考えを教えてくれるはずです。 4 エステートプランニングのメカニズム 何も相続財産に関して計画しなくても、財産を政府に没収されることはまずありません。日本でもアメリカでも法定相続(Intestate)というメカニズムが法律で定められていて、遺言など何もなくても、親族で血が近い人から順番に相続を受けられるようなシステムになっています。したがって、相続設計をしなくても、原則としては親族に財産は相続されていくことになります。 しかし、法定相続は紛争の原因にもなります。ですので、自身で計画をしておくことが良いということになります。加えて、日米(または他の国)に財産をお持ちの方は、日本にある財産の相続手続には、日本法が適用され、アメリカにある財産の相続手続にはアメリカの各州法が適用されるので、財産所在地の相続手続法に配慮した遺言やトラストによって、交通整理をして、死後の相続をスムーズにするメリットはあります。それから、死後の財産の使いみちをそれなりに設定したい場合、たとえば、幼い孫にお金を残すとか、基金を設立して特定の目的のために財産を使いたいといった場合には、トラストというメカニズムが用意されています。トラストというのは、信託と呼ばれますが、生きている間に自分の財産がどのように死後使われるのかを託しておく生前信託もあります。死後のことだけでなく、生存中でも意思表示が自分でできないような場合に、トラストの財産管理を第三者に委託できるという特徴が生前信託にはあります。。 さて、エステートプランニングというのは、アメリカでは主に次の4つの書類を作成することを言います。(1)トラスト、(2)遺言、(3)財産に関する委任状、そして、(4)医療・健康に関する委任状です。(1)と(2)は、目的は同じものですが、2つ用意しておくと良い場合が多いです。(2)だけでも良いことも多くあります。(3)と(4)は、皆さんの死後のためではなく、皆さんが意思表示できない、極端な例では植物人間状態になったときに有効になります。(3)は、意思表示が自分でできない場合、財産について代理してくれる人を指定する書類、(4)はこれ以上、医療や健康に関する最終的な判断をする人を指定する場合に使われます。上述した、皆さんの2つのリストを利用して作成するのが(1)と(2)になります。(2)については、単純に皆さんが死亡した場合に、相続財産がバトンタッチするという一場面を想定して作成する書類です。いわばスナップショット的な役割を負います。(1)は、死後、相続財産(受託財産ともいう)をどのように利用してくのか、ある程度細かく指定でき、さらに生存中意思表示が自分でできない場合にトラストの財産について(3)と同じ役割を果たせるメリットがあります。死後の点だけ見ると(1)と(2)は役割的には、ほぼ一緒なのですが、(1)については、時間とお金のかかる裁判所での相続手続の回避、親族間での紛争防止、相続財産・相続人に関するプライバシーの保護、および節税対策、のメリットがあると言われています。上記のようなメカニズムをつくっておくことで、様々なメリットは存在します。ですので、専門家に相談するメリットは、上記の内容を踏まえて各自で判断されたら良いと思います。 訳例:完全合意
Entire Agreementを完全合意と訳することがあるが、違和感を感じる。ここで考えてみたい。Entire Agreementの条項を、Integration Clause とか、Merger Clauseとも呼ぶが実質的に同一の概念を指す。 そもそも、Entire Agreementという概念が契約書に明記されるようになったのは、一連の判例の生成による。簡単に説明すると、契約書の内容が争われるとしよう。その内容を吟味するにあたって、交渉の経緯、当事者の発言、以前の契約内容、証言、など訴訟において、様々な証拠が用いられることがあった。その結果、当事者に予期しない結果が判決に顕出することもあった。そこで、」契約書に当事者間の合意は契約書に記載されている内容がすべてである。」という条項を入れることにより、証拠調べを短縮し、さらに結果の安定性にも寄与するということになったのである。契約の両当事者がEntire Agreementであるということに合意をすれば、私人間の契約の効力を否定する理由もない。一方で、当事者にとっても契約内容は契約書に書かれていることで全てであるとすれば、不意打ちてきな要素も少なくなる。さらに、裁判所にとっても、証拠調べが省けるのだから、リソースの節約にもなる。 このように、Entire Agreementの趣旨は紛争時に、契約書以外の証拠提出を許さないというものだから、実質的には当事者の権利義務に影響するのではなく、訴訟になったときの証拠提出の制限をするための訴訟法に関する条項である。裏を返せば、証拠調べについて熟知し、紛争に発展した際にどのような証拠開示手続等が想定できるのかを契約書全体を見て考察しなければならない。 このように主に証拠法の観点から規定される条項であるので、「完全合意」とは訳せるものの、本意は「契約書記載内容以外の証拠排除条項」とするのが理解としては正しい。 本記事は、本ブログ作成前(2000年代)にMSLGのメンバーが執筆したコラム等のアーカイブです。現時点の法律や制度を前提にしたものではありませんので、ご留意下さい。
==== 今回はパートナーシップについて考えていきたいと思います。アメリカでビジネスをするのに一人でやるには、荷が重いとか、専門的な知識が欲しいとかいろいろな場面が考えられ、パートナーシップという形でのビジネスをはじめようとされている方も多いと思います。私もレストランをはじめたい、専門的な店をはじめたい、いろいろな相談を受けます。皆さん夢があって素晴らしいなと思いますが、多くの場合に、「パートナーと一緒に仕事をする予定です」という話を聞きます。皆さん、信用している相手をパートナーと呼び、仕事を一緒にしていくということを考えていらっしゃるのでしょう。人が力を出し合ってビジネスをすすめていくということは素晴らしいのですが、その人間関係に何らかの亀裂が生じると、パートナーシップ、ひいてはビジネスに対して多大な悪影響を及ぼす可能性があります。 ここで、パートナーシップというビジネス形態について、どのようなものか考えておきましょう。日本の法律で考えると組合という概念に限りなく近い形態で、経営の観点からは共同事業と訳して良いでしょう。この共同事業をするにあたっては、事業をはじめるにあたり、基本的にはなんらの紙もなくても、はじめられます。2人以上の個人が共同の目的を持って、仕事をしていく訳です。「日本人同士、あまり深く形式張らないでやっていこうや」なんて話して、契約書も作らずに仕事をしていくと、後でトラブルが発生したときにとんでもないことになります。 後になって、パートナーが働かない、お金を一人のパートナーがとっていってしまう、事業が傾いたときに、責任のなすりつけあいになる、なんて問題は皆さんが思っているよりも日常的に起こっていますし、そのような問題が持ち上がった時に、パートナーシップ契約がないと、訴訟になったとしてもパートナー間でのルールがなく、法律に頼らなくてはいけないので、非常に煩雑になり、時間もお金もかかってしまいます。 ですから、もし事業を共同ではじめると考えていたり、はじめていても何も書面が無い場合には、とにかく、最初にパートナーシップ契約書というものをつくる必要があります。一人一人がどのような仕事をするのか、どの程度の期間パートナーシップを存続させるのかなどを規定しておくのです。特にお金の関係ははっきりさせておいた方が良いのです。 ただ、パートナーシップを書面にしておいても、いろいろと問題が発生する場合があります。一番典型的な例を考えておきましょう。パートナーシップをつくり、その共同事業を「幸せパートナーシップ」という名前にしたとしましょう。私と、これを読まれている皆さんが二人で経営していくということになりました。よし!レストランをつくって、どんどん日本食を食べてもらおう!と意気込み、私はこの幸せパートナーシップ名で、どんどんものを買ったり、契約を締結したり、お金を借りたりしたとします。レストランの経験がない私のもくろみははずれて、倒産してしまうとします。そうすると、私と一緒に幸せパートナーシップを組んだ読者の皆さんは、私が借りた金額すべて連帯して責任をとらなくてはいけなくなります。つまり私が返せなければ、すべて皆さんが返さなくてはならなくなります。皆さんの知らないところで、私がどんどんお金を借りてしまう、なんてシナリオも充分に考えられるのですね。これを連帯債務といいますが、非常に怖いことです。幸せではなくなってしまうのです。 このようにパートナーシップは怖い一面もあるので、私はあまりお薦めしません。できれば、共同で事業をはじめるというときには、株式会社の形態にしたり、LLCという形態にしたりして、個人に責任がかかったり、連帯して人の責任まで負うということを避けるほうが賢明ですし、人と人との信頼関係も維持できると思います。この辺のコツはまた機会を見つけて考えていきましょうね。 |
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