益山兼太郎「インターンを通じて感じたこと」
早稲田大学大学院法務研究科3年 益山兼太郎
私は、2007年9月末に約10日間、マーシャル・鈴木総合法律グループで研修をさせていただきました。
これから先、マーシャル・鈴木総合法律グループの門を叩く、多くの方々を念頭に、私の体験したこと、感じたことを書いてみたいと思います。
・研修に行かせていただくことになった経緯
私の場合、非常に幸運なことに、日本で鈴木淳司弁護士と出会う機会に恵まれ、鈴木弁護士に、「是非、自分の事務所に研修に来なさい。」とお声を掛けていただいたこと、それがきっかけでした。
中学三年生のとき、公民という科目の授業がきっかけで、漠然と、大学では法律を勉強してみたいと考えるようになりました。その後、大学受験で法学部に進学し、様々な経験を経て、大学院の入試のときには、所謂「町弁」(‘町医者’のような弁護士)になりたい、そう考えるようになりました。働く場所、業務などに具体的な志望はなく、自分を必要としてくれる場所に行って、その状況に合わせて、依頼人一人一人の顔が見える、人と深く関わって喜怒哀楽を共にできる、そういう仕事がしたいと考えていました。当時、司法制度改革に際し、ゼロワン地域と呼ばれる弁護士過疎の問題がクローズアップされていたこともあり、弁護士の資格を得て、こういう問題を解決する一助になれれば、と考えていました。
「将来は日本で働く弁護士になろう」と随分前から考えていたこともあり、私は、大学受験を境に英語の勉強を放棄してしまい、大学院の入試の時点で、既に英語が殆ど使い物にならない状況でした。そのため、アメリカの法律事務所でインターンをする機会を得られるとは夢にも思っていませんでしたし、アメリカの法律事務所でインターンをすることには少なからず不安がありました。
それでも、「弁護士の仕事というのがどういうものか」、敬愛して止まない鈴木弁護士の事務所でそれを「感じる」ことができるのなら是非行ってみたい、そう思ってお言葉に甘えさせていただきました。
・研修中に経験したこと
アメリカの法律事務所ですから、当然のことながら、英語ができなくては殆ど仕事になりません。それでも、鈴木弁護士並びにマーシャル・鈴木総合法律グループのスタッフの皆様、インターンをご一緒させていただいた工藤良平さんのご理解とご協力のお陰で、幾つか主体的に取り組むことのできる役割を与えていただきました。
工藤さんの体験記にもある通り、私も、民事事件と刑事事件の両方について、鈴木弁護士に同行して、法廷で、相手方弁護士と検事とのやり取りを見学することができました。私のインターン中に与えられた主な役割は、この裁判についてのものでした。
民事事件については、相手方準備書面に対する反論書を作成するための、事実の整理をしました。当事者同士の膨大なやり取りの中から、相手方の主張を崩し、依頼人の主張を裏付けるための事実を、もう一度洗い直す作業でした。依頼人にも直接お会いすることができ、資料だけでは不明瞭な部分については直接質問をさせていただきました。そして、反論書に添付する資料の取りまとめを行いました。
刑事事件については、起訴状などの資料に目を通した後、事件のあったとされる現場に出張し、事件当時の状況の再現ビデオの撮影を行い、直接依頼人の話を聞き、不明な点については直接質問をしました。次の日に予定されていた、検事との司法取引について、その前夜に、鈴木弁護士から、思ったことを述べる機会を与えていただきました。
訴訟案件以外では、行政機関に対する書面代行作成に係る詳細な事実の聞き取りとその報告書作成、契約書のレビュー、一般法律相談に関する回答書の作成等を行いました。
そして、弁護士を目指す者として、様々な紛争を抱えた依頼人から、どのように対価をいただくのか、依頼人はどういう負担をして弁護士を使うのか、を知っておかなければいけない、という鈴木弁護士の信念から、どの仕事でどの程度の対価を依頼人は支払っているのかについても、丁寧に教えていただきました。
・研修中に感じたこと
鈴木弁護士の事務所で、とにかくいろいろなことを「感じて」きたい、そう考えていた私にとって、これほど様々なことを「感じる」ことのできる10日間は今までの人生になかったなと思えるほど、非常に収穫の多い、濃密な10日間でした。その中でも、インパクトの強かったものについて幾つか紹介させていただきたいと思います。
第一に、鈴木弁護士の、民事事件に対する対応を拝見し、「弁護士としてあるべき視野の持ち方・視点の置き方」を、垣間見ることができました。
私が関わった民事事件は、もう1年以上紛争が続いている事件で、いよいよ陪審裁判かと、緊迫した状況にありました。鈴木弁護士ともう一人の担当の弁護士さんは、法廷の日まで、週末返上で、十分な睡眠も取らずに、必死に準備をしていました。
全ての準備が整い、いつ陪審裁判になっても大丈夫という状態で、鈴木弁護士と担当の弁護士さんと我々インターン2人と総勢4人で、裁判所に行きました。
午前中から審理が始まり、昼休みに裁判所の外で、昼食を食べているとき、鈴木弁護士が突然「当事者同士、話をしてもらうか。」と仰いました。午前中、決して旗色が悪かったわけではないと聞いていたので、私は「なぜ?!」と思いました。今思うと、直接様々な証拠に接し、依頼人と直接お会いしてお話を伺い、鈴木弁護士や担当の弁護士さんが必死に準備をしているのを見て、私は「陪審裁判で完全勝利」を、どこか気持ちの中で、期待していたのだと思います。ただ、その場では、それ以上話を聞くことはできませんでした。
昼食を終え、裁判所に帰ってきてから程なくして、「和解成立」の知らせが、裁判所の傍聴席で午後の審理開始を待っていた私のもとに届きました。当事者が直接話し合って、数十分での和解でした。その瞬間、1年以上ずっと争ってきた問題が解決を見たのでした。また、それは同時に、私がインターンに伺ってから、長い時間を掛けて作られた訴訟資料が、全て使わないで役目を終えることを意味しました。
びっくりして、慌てて法廷を出ると、そこには、依頼人と相手方当事者が二人で笑い合って話をしていて、両者の代理人である弁護士が少し離れた所から穏やかな雰囲気でこれを見守るという映像がありました。これは、一生忘れられないだろうと思えるほど、私にとって印象深いものになりました。また、事件が解決して、それを心から喜ぶ鈴木弁護士の姿、依頼人が喜んで度々お礼の言葉を口にされる姿も非常に印象深いものでした。
私は、今まで法律を勉強しながら、自分の目指す弁護士という職業について、一つだけ、どうしても分からないことがありました。それは、「弁護士」としての視野の持ち方、視点の置き方でした。
弁護士は、依頼人の代理ですから、依頼人の主張を法廷で代弁し、その主張が認められるよう最大限の努力をしなければなりません。ただ、他方で、一法律家として、「問題の妥当な解決」ということも視野に入れて仕事をしなければなりません。その2つの要請を、どのように調整して仕事をすべきなのか、「顔のない」判例や演習課題に接している限りでは、どうしても分かりませんでした。
しかし、依頼人のご理解もあって、完全に‘生’の事実に接することができ、依頼人と直接お話をさせていただくこともでき、非常に僅かながら自分も汗をかいたことによって、また、その日の夜、鈴木弁護士から、鈴木弁護士の考えたことを具に教えていただいたことによって、僅かながら、その‘あるべき姿’を垣間見ることができました。依頼人にとって何が良い結論かは、そこに現実にある紛争をどのように解決すべきかと全く無関係なのではなく、それは大きく重なり合う部分があるということが、当たり前のことなのかもしれませんが、少し理解出来たような気がしました。その結論に近づけられるように、当事者を最大限サポートすること、それが弁護士のあるべき視野の持ち方であり、視点の置き方なのだということを感じることができました。これは自分にとっては非常に大きな収穫でした。
第二に、鈴木弁護士の、刑事事件に対する姿勢を拝見し、「法律家としてあるべき‘真実’に対する姿勢」について、多くのことを感じることができました。法律家は、自分の知らない時と場所で起こった事件について、社会的な解決を図ることに携わります。刑事事件の場合は、依頼人の人生に深く影響する解決となることが多いわけですが、法律家は現場で実際に起こった‘真実’を、様々な資料から推測・想像することはできても、それを‘目の当たり’にすることも、それを完全に‘知る’こともできません。その中にあって、鈴木弁護士の‘真実’に対する姿勢はあくまで謙虚で、真摯なものでした。
裁判の前日に、車で何時間もかかる現場に、事件が起こったとされる時刻に足を運び、非常に寒い時間帯であったにも関わらず、外で納得できるまで、懸命に‘真実’に迫ろうとしていました。私は、その状況を見て、起訴状に書かれていることの杜撰さを、安易に確信してしまいました。
裁判当日、担当検事に前夜撮影した現場の再現ビデオを見ることを拒否され、そのことに悔しい態度を隠せない私を、鈴木弁護士は「弁護士が幾ら調べても、事件当夜に何があったかは究極のところ分かりえないからね。だからこそ、自分の感性を大事に、一生懸命調べないといけないんだよ。」と嗜め、その後も、調書を書いた警察官に直接会うべく努力を続けていました。事件現場の映像に興味すら持たない検察官の対応と、現場を見てきたことで変な自信を持って検事を批判する私とは、「同じ穴のムジナ」であったことを深く恥じました。
法律家として当然といえば当然なのですが、「‘真実’に対する謙虚さとは何か」について、身をもって教えていただき、そのことに深い感銘を受けました。
第三に、「事務所の雰囲気」に感動しました。私の場合、他の法律事務所の雰囲気を感じたことがないため、他の事務所との比較をすることはできませんが、鈴木弁護士が日頃からおっしゃるところの「人を幸せにするためには、まず自分が幸せでなければならない」という言葉、それを体現するといいますか、それを文字通り具体化したような、そういう事務所の雰囲気でした。
沢山の人間が集まると、どうしても衝突や軋轢が生まれ、ときに無用な足の引っ張り合いや馴れ合いが生じてしまいます。私も、アルバイト等を通じて、何回かそういう経験をしてきました。組織であることが個人の能力を阻害し、本来の目的を忘れ、いつのまにか組織を守ることが第一になってしまう、日本では良く問題とされるところです。ところが、マーシャル・鈴木総合法律グループには、沢山の個性的な弁護士が在籍し、そして、沢山の大変優秀なリーガルアシスタントやスタッフの皆様が勤務しているにも関わらず、そういった無用な足の引っ張り合いや馴れ合いは一切なく、毅然とした個が集まり、その力が無駄なく一つの方向へと向かう、完成されたチームの雰囲気がありました。鈴木弁護士の細かい心遣いはもちろんのこと、事務所で勤務する全員の努力なくしてはありえない、それはもう素晴らしいものでした。
具体的には、私がインターンに伺ったときには、抱えている案件も多く、それこそ猫の手でも借りたいくらい忙しかったにも関わらず、全く使い物にならない、自分のようなインターン生が、分からないことがあって、何か質問しに行っても、誰一人として嫌な顔一つせず、自分の仕事の手を止めて、皆さん素敵な笑顔で、丁寧に対応してくださいました。また、仕事中は無駄話をすることもなく、一人一人が真剣に業務に当たっていますが、変に殺伐とした雰囲気はなく、業務上必要な情報交換は、お互いに嫌な顔一つせず随時行われ、弁護士の方とリーガルアシスタントの方も仕事については対等に真剣に議論をしていました。
「依頼人のために良い仕事をする」、法律事務所としては当然の、第一の目的です。そのために必要なことは全て行い、そのために不必要なことは極力排除する、それができている法律事務所が一体幾つあるのか、自分には判断しかねますが、少なくともマーシャル・鈴木総合法律グループにはそれがあったように思います。それが、非常に印象的でした。「人の幸せ」のお手伝いするための雰囲気、それを感じることができました。
・研修を終えて感じること
「人の幸せをお手伝いできるような仕事がしたい」、それが、日々様々な状況の中で悩み、途中で幾度となく挫折しそうになりながら、今日まで弁護士を目指し続けてきた私の、弁護士という職業へのモチベーションでした。
私は、今日まで約7年間、私立中学校を受験する小学生の受験指導を続けてきました。可塑性に富んだ子供達を相手にする、非常に魅力的な仕事です。この仕事と巡り合ったことが、何よりも弁護士の夢への「モチベーション」であり、一方で、弁護士の夢への「迷い」でもありました。
7年間、その時々で可能な限り、必死に子供達と接してきましたが、果たして自分は本当に子供達を「幸せ」に出来ているのだろうか、不安で仕方がありませんでした。これを書いている今この瞬間も、その迷いは消えません。
しかし、今回マーシャル・鈴木総合法律グループで研修をさせていただき、鈴木弁護士を始めマーシャル・鈴木総合法律グループの皆様が、たった10日余りと短い時間であったにも関わらず、数多くの「人の幸せ」、少なくとも数多くの「笑顔」を作り出すさまを、目の当たりにすることができました。それがそのまま弁護士という職業の性質であるとは言えないとは思いますが、今回の研修は、私の中で、弁護士の夢への「迷い」を「モチベーション」へと吸収させていく、そんな経験となりました。
7年間必死に取り組むことができた「中学受験の指導」という仕事に心から感謝をしつつ、結論の出なかった「人の幸せ」について、弁護士という職業を通じて今一度考え直してみよう、そう思うようになりました。
・最後に
最後になりましたが、私のような人間に、多大なコストを掛け、かけがえのない体験をする機会を与えてくださった鈴木弁護士とマーシャル・鈴木総合法律グループの全ての皆様方に、深く感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
また、適切な場所とは思えませんが、理由も分からないまま2週間代わりの先生の授業を受けることになってしまった小学6年生の生徒達、大学受験が始まっていたにも関わらず2週間の渡米に理解を示してくれた高校3年生の生徒、その他、自分の渡米に際し様々なご協力を戴いた全ての皆様に、この場を借りて、深く御礼申し上げたいと思います。
そして、全ての皆様に、いつの日か、鈴木弁護士を始めマーシャル・鈴木総合法律グループの皆様方のように、人を「幸せ」に近づけることができる、そんな人間になれるよう、最大限の努力をすることをお約束し、私のインターン感想文とさせいただきたいと思います。
工藤良平「インターン日記」
東京大学法科大学院1年 工藤良平
2007年9月の2週間、インターンをさせて頂きました。私自身、HPの研修生体験記を見てインターンに応募しようと思ったので、主として法科大学院生を念頭におきつつ、インターンとして経験したことを中心に、若干の感想も書きたいと思います。
1 インターン期間中に体験させて頂いた仕事
(1)訴訟案件
丁度訴訟が多い時期に研修させて頂いたため、民事(家事含む)・刑事裁判について一通り経験することができました。いずれの事件についても、鈴木先生に同行して法廷に入り、相手方弁護士や検事と、鈴木先生のやりとりを間近で拝見することができました。
民事裁判に関しては、(1)証拠法に関する判例・文献調査、(2)相手方準備書面に対する反論の作成、(3)相手方会社の財務諸表分析と損害賠償額の算定、(4)Summary Judgmentを求める申立ての起案、(5)訴状の裁判所への提出と被告への送達(訴状を直接被告へ手渡しました)、などを行いました。
刑事裁判に関しては、事務所から離れた事件現場に鈴木先生と出張して、クライアントである被告人に有利となる証拠の収集や、証人との面談などを行い、また法廷では検事との司法取引の場面を見せて頂きました。
(2)契約書・定款のレビュー
英文・和文契約書や会社の付随定款(By-Laws)のレビューを5件ほど行いました。
(3)その他
そのほか、M&Aに関するメモ作成を行いました。
2 全般的な感想
憲法を除く基本7法科目の実務に触れることができ、また鈴木先生とほぼ一日中行動をご一緒させて頂きながら色々話を伺うことができたので、自分が仮に弁護士になったときにどのような仕事をすることになるのかということの「雰囲気」程度は感じることができたのではないかと思います。
また、普段の学校生活では経験できないであろう強い喜怒哀楽も経験できました。事件が解決した後にクライアントからお礼を言われたときの喜び、Summary Judgmentを起案した事件の概要を知ったときの被告に対して感じた怒り、案件でかかわった方の身の上話を聞いて感じたやるせなさなど、生の事件を通じて感じた感情はおそらく一生忘れることはないと思います。楽しかったことも沢山あったのですが、一番の思い出は山荘での「合宿」でしょうか。丁度週明けの月曜日に1年近くこじれて調停も不成立に終わった事件の陪審裁判が始まるということで、事務所ではなくある田舎の山荘に訴訟資料一式を持ち込んで、前の金曜から泊まりこみで裁判の準備を行いました。バーベキューや観光などにより英気を養いつつ、もう1人のインターン生の益山さんと鈴木先生と3人で夜を徹して議論したり準備書面を作成したりしたのは良い思い出になりました。
3 最後に:事務所の皆様へ
笑いの絶えない職場で、また折に触れて色々親切にしていただいたので毎日出勤するのが楽しみでした。学生生活では得がたい経験をするチャンスを下さった鈴木先生や事務所の皆様に、心の底からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
私は、2007年9月末に約10日間、マーシャル・鈴木総合法律グループで研修をさせていただきました。
これから先、マーシャル・鈴木総合法律グループの門を叩く、多くの方々を念頭に、私の体験したこと、感じたことを書いてみたいと思います。
・研修に行かせていただくことになった経緯
私の場合、非常に幸運なことに、日本で鈴木淳司弁護士と出会う機会に恵まれ、鈴木弁護士に、「是非、自分の事務所に研修に来なさい。」とお声を掛けていただいたこと、それがきっかけでした。
中学三年生のとき、公民という科目の授業がきっかけで、漠然と、大学では法律を勉強してみたいと考えるようになりました。その後、大学受験で法学部に進学し、様々な経験を経て、大学院の入試のときには、所謂「町弁」(‘町医者’のような弁護士)になりたい、そう考えるようになりました。働く場所、業務などに具体的な志望はなく、自分を必要としてくれる場所に行って、その状況に合わせて、依頼人一人一人の顔が見える、人と深く関わって喜怒哀楽を共にできる、そういう仕事がしたいと考えていました。当時、司法制度改革に際し、ゼロワン地域と呼ばれる弁護士過疎の問題がクローズアップされていたこともあり、弁護士の資格を得て、こういう問題を解決する一助になれれば、と考えていました。
「将来は日本で働く弁護士になろう」と随分前から考えていたこともあり、私は、大学受験を境に英語の勉強を放棄してしまい、大学院の入試の時点で、既に英語が殆ど使い物にならない状況でした。そのため、アメリカの法律事務所でインターンをする機会を得られるとは夢にも思っていませんでしたし、アメリカの法律事務所でインターンをすることには少なからず不安がありました。
それでも、「弁護士の仕事というのがどういうものか」、敬愛して止まない鈴木弁護士の事務所でそれを「感じる」ことができるのなら是非行ってみたい、そう思ってお言葉に甘えさせていただきました。
・研修中に経験したこと
アメリカの法律事務所ですから、当然のことながら、英語ができなくては殆ど仕事になりません。それでも、鈴木弁護士並びにマーシャル・鈴木総合法律グループのスタッフの皆様、インターンをご一緒させていただいた工藤良平さんのご理解とご協力のお陰で、幾つか主体的に取り組むことのできる役割を与えていただきました。
工藤さんの体験記にもある通り、私も、民事事件と刑事事件の両方について、鈴木弁護士に同行して、法廷で、相手方弁護士と検事とのやり取りを見学することができました。私のインターン中に与えられた主な役割は、この裁判についてのものでした。
民事事件については、相手方準備書面に対する反論書を作成するための、事実の整理をしました。当事者同士の膨大なやり取りの中から、相手方の主張を崩し、依頼人の主張を裏付けるための事実を、もう一度洗い直す作業でした。依頼人にも直接お会いすることができ、資料だけでは不明瞭な部分については直接質問をさせていただきました。そして、反論書に添付する資料の取りまとめを行いました。
刑事事件については、起訴状などの資料に目を通した後、事件のあったとされる現場に出張し、事件当時の状況の再現ビデオの撮影を行い、直接依頼人の話を聞き、不明な点については直接質問をしました。次の日に予定されていた、検事との司法取引について、その前夜に、鈴木弁護士から、思ったことを述べる機会を与えていただきました。
訴訟案件以外では、行政機関に対する書面代行作成に係る詳細な事実の聞き取りとその報告書作成、契約書のレビュー、一般法律相談に関する回答書の作成等を行いました。
そして、弁護士を目指す者として、様々な紛争を抱えた依頼人から、どのように対価をいただくのか、依頼人はどういう負担をして弁護士を使うのか、を知っておかなければいけない、という鈴木弁護士の信念から、どの仕事でどの程度の対価を依頼人は支払っているのかについても、丁寧に教えていただきました。
・研修中に感じたこと
鈴木弁護士の事務所で、とにかくいろいろなことを「感じて」きたい、そう考えていた私にとって、これほど様々なことを「感じる」ことのできる10日間は今までの人生になかったなと思えるほど、非常に収穫の多い、濃密な10日間でした。その中でも、インパクトの強かったものについて幾つか紹介させていただきたいと思います。
第一に、鈴木弁護士の、民事事件に対する対応を拝見し、「弁護士としてあるべき視野の持ち方・視点の置き方」を、垣間見ることができました。
私が関わった民事事件は、もう1年以上紛争が続いている事件で、いよいよ陪審裁判かと、緊迫した状況にありました。鈴木弁護士ともう一人の担当の弁護士さんは、法廷の日まで、週末返上で、十分な睡眠も取らずに、必死に準備をしていました。
全ての準備が整い、いつ陪審裁判になっても大丈夫という状態で、鈴木弁護士と担当の弁護士さんと我々インターン2人と総勢4人で、裁判所に行きました。
午前中から審理が始まり、昼休みに裁判所の外で、昼食を食べているとき、鈴木弁護士が突然「当事者同士、話をしてもらうか。」と仰いました。午前中、決して旗色が悪かったわけではないと聞いていたので、私は「なぜ?!」と思いました。今思うと、直接様々な証拠に接し、依頼人と直接お会いしてお話を伺い、鈴木弁護士や担当の弁護士さんが必死に準備をしているのを見て、私は「陪審裁判で完全勝利」を、どこか気持ちの中で、期待していたのだと思います。ただ、その場では、それ以上話を聞くことはできませんでした。
昼食を終え、裁判所に帰ってきてから程なくして、「和解成立」の知らせが、裁判所の傍聴席で午後の審理開始を待っていた私のもとに届きました。当事者が直接話し合って、数十分での和解でした。その瞬間、1年以上ずっと争ってきた問題が解決を見たのでした。また、それは同時に、私がインターンに伺ってから、長い時間を掛けて作られた訴訟資料が、全て使わないで役目を終えることを意味しました。
びっくりして、慌てて法廷を出ると、そこには、依頼人と相手方当事者が二人で笑い合って話をしていて、両者の代理人である弁護士が少し離れた所から穏やかな雰囲気でこれを見守るという映像がありました。これは、一生忘れられないだろうと思えるほど、私にとって印象深いものになりました。また、事件が解決して、それを心から喜ぶ鈴木弁護士の姿、依頼人が喜んで度々お礼の言葉を口にされる姿も非常に印象深いものでした。
私は、今まで法律を勉強しながら、自分の目指す弁護士という職業について、一つだけ、どうしても分からないことがありました。それは、「弁護士」としての視野の持ち方、視点の置き方でした。
弁護士は、依頼人の代理ですから、依頼人の主張を法廷で代弁し、その主張が認められるよう最大限の努力をしなければなりません。ただ、他方で、一法律家として、「問題の妥当な解決」ということも視野に入れて仕事をしなければなりません。その2つの要請を、どのように調整して仕事をすべきなのか、「顔のない」判例や演習課題に接している限りでは、どうしても分かりませんでした。
しかし、依頼人のご理解もあって、完全に‘生’の事実に接することができ、依頼人と直接お話をさせていただくこともでき、非常に僅かながら自分も汗をかいたことによって、また、その日の夜、鈴木弁護士から、鈴木弁護士の考えたことを具に教えていただいたことによって、僅かながら、その‘あるべき姿’を垣間見ることができました。依頼人にとって何が良い結論かは、そこに現実にある紛争をどのように解決すべきかと全く無関係なのではなく、それは大きく重なり合う部分があるということが、当たり前のことなのかもしれませんが、少し理解出来たような気がしました。その結論に近づけられるように、当事者を最大限サポートすること、それが弁護士のあるべき視野の持ち方であり、視点の置き方なのだということを感じることができました。これは自分にとっては非常に大きな収穫でした。
第二に、鈴木弁護士の、刑事事件に対する姿勢を拝見し、「法律家としてあるべき‘真実’に対する姿勢」について、多くのことを感じることができました。法律家は、自分の知らない時と場所で起こった事件について、社会的な解決を図ることに携わります。刑事事件の場合は、依頼人の人生に深く影響する解決となることが多いわけですが、法律家は現場で実際に起こった‘真実’を、様々な資料から推測・想像することはできても、それを‘目の当たり’にすることも、それを完全に‘知る’こともできません。その中にあって、鈴木弁護士の‘真実’に対する姿勢はあくまで謙虚で、真摯なものでした。
裁判の前日に、車で何時間もかかる現場に、事件が起こったとされる時刻に足を運び、非常に寒い時間帯であったにも関わらず、外で納得できるまで、懸命に‘真実’に迫ろうとしていました。私は、その状況を見て、起訴状に書かれていることの杜撰さを、安易に確信してしまいました。
裁判当日、担当検事に前夜撮影した現場の再現ビデオを見ることを拒否され、そのことに悔しい態度を隠せない私を、鈴木弁護士は「弁護士が幾ら調べても、事件当夜に何があったかは究極のところ分かりえないからね。だからこそ、自分の感性を大事に、一生懸命調べないといけないんだよ。」と嗜め、その後も、調書を書いた警察官に直接会うべく努力を続けていました。事件現場の映像に興味すら持たない検察官の対応と、現場を見てきたことで変な自信を持って検事を批判する私とは、「同じ穴のムジナ」であったことを深く恥じました。
法律家として当然といえば当然なのですが、「‘真実’に対する謙虚さとは何か」について、身をもって教えていただき、そのことに深い感銘を受けました。
第三に、「事務所の雰囲気」に感動しました。私の場合、他の法律事務所の雰囲気を感じたことがないため、他の事務所との比較をすることはできませんが、鈴木弁護士が日頃からおっしゃるところの「人を幸せにするためには、まず自分が幸せでなければならない」という言葉、それを体現するといいますか、それを文字通り具体化したような、そういう事務所の雰囲気でした。
沢山の人間が集まると、どうしても衝突や軋轢が生まれ、ときに無用な足の引っ張り合いや馴れ合いが生じてしまいます。私も、アルバイト等を通じて、何回かそういう経験をしてきました。組織であることが個人の能力を阻害し、本来の目的を忘れ、いつのまにか組織を守ることが第一になってしまう、日本では良く問題とされるところです。ところが、マーシャル・鈴木総合法律グループには、沢山の個性的な弁護士が在籍し、そして、沢山の大変優秀なリーガルアシスタントやスタッフの皆様が勤務しているにも関わらず、そういった無用な足の引っ張り合いや馴れ合いは一切なく、毅然とした個が集まり、その力が無駄なく一つの方向へと向かう、完成されたチームの雰囲気がありました。鈴木弁護士の細かい心遣いはもちろんのこと、事務所で勤務する全員の努力なくしてはありえない、それはもう素晴らしいものでした。
具体的には、私がインターンに伺ったときには、抱えている案件も多く、それこそ猫の手でも借りたいくらい忙しかったにも関わらず、全く使い物にならない、自分のようなインターン生が、分からないことがあって、何か質問しに行っても、誰一人として嫌な顔一つせず、自分の仕事の手を止めて、皆さん素敵な笑顔で、丁寧に対応してくださいました。また、仕事中は無駄話をすることもなく、一人一人が真剣に業務に当たっていますが、変に殺伐とした雰囲気はなく、業務上必要な情報交換は、お互いに嫌な顔一つせず随時行われ、弁護士の方とリーガルアシスタントの方も仕事については対等に真剣に議論をしていました。
「依頼人のために良い仕事をする」、法律事務所としては当然の、第一の目的です。そのために必要なことは全て行い、そのために不必要なことは極力排除する、それができている法律事務所が一体幾つあるのか、自分には判断しかねますが、少なくともマーシャル・鈴木総合法律グループにはそれがあったように思います。それが、非常に印象的でした。「人の幸せ」のお手伝いするための雰囲気、それを感じることができました。
・研修を終えて感じること
「人の幸せをお手伝いできるような仕事がしたい」、それが、日々様々な状況の中で悩み、途中で幾度となく挫折しそうになりながら、今日まで弁護士を目指し続けてきた私の、弁護士という職業へのモチベーションでした。
私は、今日まで約7年間、私立中学校を受験する小学生の受験指導を続けてきました。可塑性に富んだ子供達を相手にする、非常に魅力的な仕事です。この仕事と巡り合ったことが、何よりも弁護士の夢への「モチベーション」であり、一方で、弁護士の夢への「迷い」でもありました。
7年間、その時々で可能な限り、必死に子供達と接してきましたが、果たして自分は本当に子供達を「幸せ」に出来ているのだろうか、不安で仕方がありませんでした。これを書いている今この瞬間も、その迷いは消えません。
しかし、今回マーシャル・鈴木総合法律グループで研修をさせていただき、鈴木弁護士を始めマーシャル・鈴木総合法律グループの皆様が、たった10日余りと短い時間であったにも関わらず、数多くの「人の幸せ」、少なくとも数多くの「笑顔」を作り出すさまを、目の当たりにすることができました。それがそのまま弁護士という職業の性質であるとは言えないとは思いますが、今回の研修は、私の中で、弁護士の夢への「迷い」を「モチベーション」へと吸収させていく、そんな経験となりました。
7年間必死に取り組むことができた「中学受験の指導」という仕事に心から感謝をしつつ、結論の出なかった「人の幸せ」について、弁護士という職業を通じて今一度考え直してみよう、そう思うようになりました。
・最後に
最後になりましたが、私のような人間に、多大なコストを掛け、かけがえのない体験をする機会を与えてくださった鈴木弁護士とマーシャル・鈴木総合法律グループの全ての皆様方に、深く感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
また、適切な場所とは思えませんが、理由も分からないまま2週間代わりの先生の授業を受けることになってしまった小学6年生の生徒達、大学受験が始まっていたにも関わらず2週間の渡米に理解を示してくれた高校3年生の生徒、その他、自分の渡米に際し様々なご協力を戴いた全ての皆様に、この場を借りて、深く御礼申し上げたいと思います。
そして、全ての皆様に、いつの日か、鈴木弁護士を始めマーシャル・鈴木総合法律グループの皆様方のように、人を「幸せ」に近づけることができる、そんな人間になれるよう、最大限の努力をすることをお約束し、私のインターン感想文とさせいただきたいと思います。
工藤良平「インターン日記」
東京大学法科大学院1年 工藤良平
2007年9月の2週間、インターンをさせて頂きました。私自身、HPの研修生体験記を見てインターンに応募しようと思ったので、主として法科大学院生を念頭におきつつ、インターンとして経験したことを中心に、若干の感想も書きたいと思います。
1 インターン期間中に体験させて頂いた仕事
(1)訴訟案件
丁度訴訟が多い時期に研修させて頂いたため、民事(家事含む)・刑事裁判について一通り経験することができました。いずれの事件についても、鈴木先生に同行して法廷に入り、相手方弁護士や検事と、鈴木先生のやりとりを間近で拝見することができました。
民事裁判に関しては、(1)証拠法に関する判例・文献調査、(2)相手方準備書面に対する反論の作成、(3)相手方会社の財務諸表分析と損害賠償額の算定、(4)Summary Judgmentを求める申立ての起案、(5)訴状の裁判所への提出と被告への送達(訴状を直接被告へ手渡しました)、などを行いました。
刑事裁判に関しては、事務所から離れた事件現場に鈴木先生と出張して、クライアントである被告人に有利となる証拠の収集や、証人との面談などを行い、また法廷では検事との司法取引の場面を見せて頂きました。
(2)契約書・定款のレビュー
英文・和文契約書や会社の付随定款(By-Laws)のレビューを5件ほど行いました。
(3)その他
そのほか、M&Aに関するメモ作成を行いました。
2 全般的な感想
憲法を除く基本7法科目の実務に触れることができ、また鈴木先生とほぼ一日中行動をご一緒させて頂きながら色々話を伺うことができたので、自分が仮に弁護士になったときにどのような仕事をすることになるのかということの「雰囲気」程度は感じることができたのではないかと思います。
また、普段の学校生活では経験できないであろう強い喜怒哀楽も経験できました。事件が解決した後にクライアントからお礼を言われたときの喜び、Summary Judgmentを起案した事件の概要を知ったときの被告に対して感じた怒り、案件でかかわった方の身の上話を聞いて感じたやるせなさなど、生の事件を通じて感じた感情はおそらく一生忘れることはないと思います。楽しかったことも沢山あったのですが、一番の思い出は山荘での「合宿」でしょうか。丁度週明けの月曜日に1年近くこじれて調停も不成立に終わった事件の陪審裁判が始まるということで、事務所ではなくある田舎の山荘に訴訟資料一式を持ち込んで、前の金曜から泊まりこみで裁判の準備を行いました。バーベキューや観光などにより英気を養いつつ、もう1人のインターン生の益山さんと鈴木先生と3人で夜を徹して議論したり準備書面を作成したりしたのは良い思い出になりました。
3 最後に:事務所の皆様へ
笑いの絶えない職場で、また折に触れて色々親切にしていただいたので毎日出勤するのが楽しみでした。学生生活では得がたい経験をするチャンスを下さった鈴木先生や事務所の皆様に、心の底からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。