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■電子商取引における契約法■

アメリカ・カリフォルニア州 弁護士 鈴木淳司

電子商取引における契約とは、コンピュータ等、従来コミュニケーションの手段ととしては使われていなかった電子的な方法で契約の内容を表示したり、契約を締結したりすることである。 特にインターネットによる通信手段が発達したために、消費者は自宅やオフィスのコンピュータの画面から情報を得るだけではなく、消費者として商品を購入したり、サービスの提供を受けることができるようになった。 ちなみにアメリカ政府が発表した最近の四半期で、電子商取引(E-Commerce)での消費売上は53億ドル(5.3 Billion dollars)を越えると発表した。
従来、インターネットで商品を購入するという場合でも、インターネットのみに頼らず、例えば商品支払の方法は、ネット決済ではなく銀行振込を利用したり、当初の契約は直接、書面によって行われ、以後のサービスの利用はインターネット上で行われるというケースがほとんどであった。 例えば、プロバイダーへの接続に関する継続契約においても、契約の締結には、電話や書面を利用するといった場合が通常であった。 
ところが、最近では契約の申込から承諾を含む契約の締結および、契約上の支払い、契約内容の履行など、一連のステップが全てインターネットで行えるという契約が増えている。 また、消費者にとっても、ネット決済など不安な要素はあるものの、インターネットの普及に伴って、だんだんに慣れ親しんできている現状だ。 アメリカではクレジットカードによる決済が日常的なため、ネットでの決済に非常に積極的である。 日本では、一般的な小売商はまだまだクレジットカードを受け入れるということが少ない。 アメリカではクレジットカードを使えないというところが極端に少ないのである。 アメリカがカード社会であるという事実がネット決済に積極的な理由の一つであろう。

電子商取引における契約法といっても、基本的になんら通常の契約と比べて法律のコンセプトを異にしない。 しかし、従来の契約と明らかに違う点は、契約の当事者同士がお互いに相手方を認識しづらい点や本人かどうかが確認し難い点が考えられる。 従来の契約のコンセプトと比較して電子商取引特有の問題等を考えたい。

契約の成立

伝統的な契約は申込と承諾というプロセスを経て契約の内容を合意して成立する(民法521条以下)。 通常は、例えば本屋で「この本を買おう」、「お買い上げありがとうございます、1000円です。」といったようなプロセスで売買契約は成立するのである。 民法では典型契約として様々な契約、例えば消費貸借などを規定しているが、電子商取引については売買契約がメインなので、以後契約といえば、売買契約を指していると考えて欲しい。 
この申込と承諾があって契約が成立するということは契約法上の根底にあり、電子商取引においても変わりはない。 アメリカの判例では、コンピュータを使って、電子的に申込と承諾が為された契約は有効とされているのである。 See Hotmail Corporation v. Van Money Pie, 47 U.S.P.Q. 2d (BNA) 1020 N.D. Calif. (1998). また、1999年7月29日にNCCUSL(the National Conference of Commissioners on Uniform State Laws)という全米の基準となる法律の指針を打ち出す団体が、UETA(the Uniform Electronic Transactions Act)という日本語約すれば、統一電子取引法を制定した。 この統一電子取引法の14条に、電子機器を使用して行われた契約については有効としている。 さらにこの14条には、契約の内容を知らなかったり、電子機器の使用方法に無知があっても契約が成立するものとした。 インターネットなどを使い契約を締結することは増加傾向にあるが、法律も電子機器をつかっての契約の成立を広く認める方向に動いているのである。
基本的な契約が電子商取引においても成立するとして、伝統的には考えられなかった論点が浮上してきた。 
第1に電子的なメッセージの交換で契約が成立するのかという問題が考えられる。 基本的には電話で話して合意しようと、手紙を交換して合意しようと合意があれば契約の方式としては問題はない。 同じように、電子的なメッセージの交換でも充分に契約が成立するのである。 この点について電子署名が有効かどうか合意するための意思表示があったのか問題となっていたが、アメリカの統一電子取引法7条で電子的な方法によって作成された書名や記録は法的に効力を持つことが明らかになった。
第2に契約の当事者の問題が挙げられる。 ひとつは、契約の当事者が契約を締結する能力がない場合が考えられる。 無能力者の場合は、契約は無効、または取消になることは通常の場合と変わりはないであろう。 相手方がどのような人物かわかり難いので、契約当事者は相手方が未成年者であるか確認する事を怠ってはならない。 もうひとつ、契約の当事者として問題になるのが、契約を締結する権限のない者が契約の当事者である場合や「なりすまし」的な状況である。 これらの問題を避けるために、事前に相手方を認証必要が生じ、多くのウェブサイトでは物を販売する際に、様々な質問を用意し、契約の相手方を確認する手段を講じている。

契約の内容、特にポイント&クリック契約

電子商取引で発生する契約には附合契約とよばれるものが多い。 附合契約とは一方的に契約の内容を提示し、その内容を受けるか受けないかという二者択一しか与えられていない契約を指す。 例えば、ウェブサイトで本を購入しようと考え、ウェブ上にある契約書に目を通したとしよう。 例えば、そのなかに不満な条項があったとしても、基本的にはその条項が気に入らないから交渉したいとは言えないのである。 あくまで、ウェブにある契約に合意するかしないかの選択があるのみだ。 消費者側にはウェブ上のボタンをクリックしていくということのみで契約が成立する事から、アメリカではポイント&クリック契約と呼ばれている。 商品の売主側の立場に立つと、あまりにも消費者に不利な内容のポイント&クリック契約を作成してしまうと、後になって契約が公序良俗違反となり兼ねないので注意が必要である。

またアメリカでは、伝統的に書面に署名をして契約を締結した場合、その書面を読んでいなかったということは契約の履行を拒む事由にはなっていない。 アメリカの長文な契約書を内容そのままに日本語訳にし、使用している場合をよく見かける。 日本ではあまり親しみのない契約内容だったりすることもある。 ポイント&クリック契約の場合には、契約内容を契約の相手方にはっきり示したいのであれば、画面上でスクロールや画面をいくつも使って、少なくともすべて読んだうえでなければ契約の締結ができないようにしておく事が重要である。 消費者側にしても、契約の内容をよく読み、理解することが大切だ。 簡単にクリックをするのではなく、クリックする事は法律上の意思表示と同じ効力があるということを念頭において契約の前に内容を確かめて欲しい。 このポイント&クリック契約についてアメリカで昨年制定されたUCITA(The Uniformed Computer Information Transactions Act)で、「合意します」という画面上のボタンを過失無くして押した場合には、契約をたとえすべて読んでいなくても、合意があり契約が成立すると規定された。 UCITAも前述のNCCUSLが軸となって制定されたものである。 これからますますポイント&クリック契約が増える事であろう。
このポイント&クリック契約に関して、合意の意思もないのにクリックを間違って押してしまったという場面が考えられる。 後日契約の意思がなかったという主張を避けるために、複数回のクリックを要求したり、なんらかのIDナンバーを要求するウェブサイトも増えているのが現状である。
契約締結における通信手段としての電子メールについて考えたい。 電子メールは後日になって内容を変えることが可能である。 書面による契約書とは性質が異なるのである。 電子メールのやり取りによって契約の内容を明らかにするといったような場合は、第3者が間に入るか(つまり、中立な機関が電子メールのやり取りを保管する)電子メールの内容を変更することを防ぐためのプログラムなどが必要となってくるであろう。 前述のポイント&クリック契約は、電子メールでのやり取りの過程で契約が成立してしまう問題点を防ぐ役目もしている。 ポイント&クリックでは契約の内容がすでに決定されているので、電子メールの内容の変更が問題になるようなリスクが最小限になるのである。

電子商取引における契約に関する注意点

電子商取引の特殊性を基本的な契約法との対比を使って考えたが、電子商取引において、特にポイント&クリック契約を念頭に考え、契約を有効なものにするため、また契約を結ぶ際の注意点をいくつか述べたい。 まずウェブの運営者からの見地で考える。
第一に、ウェブ上に契約を載せるに際して、一ページに集約してスクロールできる契約よりも、一ページ毎にクリックをしなければ次のページに行くことができないようにする方が良いであろう。
第二に、契約に関する質問等が出てくることを考えて、ウェブ上に出きる限りの規約や、FAQ(Frequently Asked Questions:よくある質問)を載せておくことである。 そして、個人的な電子メールによる質問や回答は、極力避けるべきである。 
第三に、可能であれば、契約の内容、つまりウェブに載せてある契約書を書面にして、各ユーザーに通知したい。 
第四に、契約に合意するか合意しないかをクリックで決定する場合、必ずクリックした場合には、契約が成立するという注意書きをウェブで目のつくところに入れておくことが必要だろう。
第五に、契約を締結したならば、ユーザーの情報、つまりいつ契約をして、いつ支払いがあったかなどの記録を残しておく必要があるだろう。
次に消費者の見地からだが、
第一に、ウェブ上で契約した場合、少なくとも消費者も、ウェブの契約書を印刷して保管するべきである。 契約書の内容は予告無く変更される可能性が常時あるからである。 
第二に、契約の相手方となる会社または個人が、どのような人間または団体であるか、事前に調べておくと無難である。 メーリング・フォーラムなどを使って情報を入手するのも手である。
第三に、契約して商品を購入する場合など、支払いには非常に注意を払う必要があるということである。クレジットカードなどの番号が悪用された場合などの免責条項なども契約の中で気をつけて見ておきたいところである。

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