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■体張ってます■

 日本のテレビでハンマー・プライスという番組ありましたよね。 有名人の持ち物や有名人となにかをする権利を競り落とすというやつです。 時には、あんなもの誰が買うんだろうなんていうものまで、何十万円という値段がついていました。 物好きな人もいるんだなぁと思っていましたが、人は各人各様の価値観を持っているのだなと思い知らされましたね。 自分でも熱がはいってしまった時代がありましたからね。 私がまだ学生だった頃、探偵物語という映画があって、故・松田優作と共演していた薬師丸ひろ子という女優さんがでていました。 あの映画をみてからすごく彼女が好きになった記憶があります。 今でも最後のシーンは成田空港だったな、とか覚えています。 なんでも商品化するビジネス戦略に負けて、レコードやポスター、果ては下敷きなんかまで買っていたような気がします。 あの時、「探偵物語」で薬師丸ひろ子が使っていたうんぬん、というのを売りに出されていたら買っていたかもしれませんね。 でも、その後、「里見八犬伝」という映画で、真田博之と共演していたのですが、その映画のキス・シーンを見て、熱が下がってしまいました。
 今回は、なんでこのような前置きになったかというと、人の価値観をうまく利用する詐欺まがいの商売について書こうかな、と思ったからです。 もう何年も前になりますが、ある相談を日本人の学生さんから受けました。 依頼内容は、あるお店で高価なペルシャ絨毯や壷を買ったのだけれども、どうもニセモノ臭いので返品したいという内容でした。 どのような状況で購入がなされたのか、どのようなモノを購入したのか等など、疑問がたくさんあったので、お会いしてからでないと、アドヴァイスはできませんと伝えたところ、直接、私に会いに来られました。
 話を聞いてみると、どうしたものかなと考え込んでしまいました。 まず、購入したものですが、本物かニセモノか判断しなければなりませんが、肝心の購入した品はその店から直接日本に送られていて、私が直接見て判断することができないという点でした。 ただ、購入した金額はなんと数百万円程度と高額でしたが、もし購入した品が本物であれば、もっともっと高価なはずだったので、たぶん一桁間違えていなければ、ニセモノであろうと判断しました。
 ニセモノを本物として売っているなら、詐欺ですよね。 ところが、唯一の書面による証拠は、レシートのコピーなのですが、そのレシートにはしっかり日本で言う「〜風」の絨毯とか、「〜タイプ」の壷と書いてあるのですね。 本物ではないと明記されているのです。 その上、そのレシートには、上記間違いありません、という欄があり、そのクライアントは署名をしているのです。 これではニセモノをニセモノとして買ったということになってしまいますよね。 本人は絶対に店の人は本物だと言ったと言い張るのですが、物的証拠はもちろん何も無い訳です。
 しかし、ニセモノにしては原価がいくらかわからないのだから、何百万円というのは高すぎるではないか、という主張をクライアントの方はされたのですが、人の価値観は様々ですから、原価は100円のボールペンでも、有名人が使えば何十万円でも買う人はいるのです。 ですから、ニセモノを何百万円で買ったとしても、その人が納得していれば、何らの詐欺にはならないのですね。 
 まあ、実際は商談のときに本物だよと言われていたのでしょうし、なかなか店から流れで出られなくなったということもあり購入してしまった様子でしたが、本人の落ち度もあり、詐欺の立件は正直言って難しいかなと思っていました。 加えて、日本人だったということもあり、英語がそう話せないことも状況を複雑にしていました。 検察庁の友人に聞いても、良い答えは返ってきませんし、警察も動いてくれません。 刑事的な詐欺の立件はきついのですね。 相手も、日本人やその他の観光客をターゲットに商売をしていますから、それはもう巧妙ですし、どのような人が裏にいるかわからない状況なのです。
 クライアントにしても、自分のしてしまったことで家族に迷惑がかかると頭を抱えていました。 そんな状態になってしまったら、私がナントカするしかないじゃないですよね。 他に誰も頼れる人や機関がないのですから。 
 弁護士ができることというのももちろん限られていますが、もうこの際、しょうがない、直接乗り込んで、返品してお金を返してもらうしかないと判断しました。 相手に「騙したでしょ」なんていっても話が通じるわけ無いですし、一番良い方法は、返品することだと考えたのです。 レシートを持って、その店に行きましょうと私が言うと、クライアントはあそこの店には二度と行きたくない、というのですね。 そんなこといってもナントカしなきゃ、と私が説得して店に乗り込みました。 クライアントは入り口で待っていましたが、私が交渉しに中に入っていきました。
 まず、店員がスマイルとともに近づいてきたので、自分の身分と用件を伝えました。 まず、スマイルがどこかに行ってしまい、次には店員さんもどこかに行ってしまいました。 しばらく待っていたのですが、店の中の構造もわからないですし、ちょっと見える範囲できょろきょろ店内の「高価」な商品を見させてもらいました。 たぶんどこかに店内を見るカメラか隠し窓があるのでしょうね、動き出した瞬間に店内の電気をすべて消されたのです。 真っ暗になっちゃったんですね。 「やばいな」と思いました。 窓が無いビルですし、暗闇でなんかされたら相手もわからないですからね。 私は大きいので体を伏せ気味にして壁があるほうまで移動して、様子を見ました。 弁護士なのに遺言も書いてないな、なんてことを考えて、しばらく黙っていたら、照明がついてちょっとマネージャーと名乗る男が出てきました。 予想していたようにいくら話しても平行線でした。 埒があかないので相手にも弁護士を呼ぶように言いました。 電話で話をしてくると言い、中の方に入っていってしまうと、また照明が消えるんですよね。 わざとやっていることがわかったので、大声で警察呼びますよと何回か言うと、私がスイッチも入れていないのに照明がつくのです。 便利な照明ですよね。 私のクライアントは入り口の所にいるので、私一人で「お金返してください」と呪文のように長時間唱えていたら、結局、相手の弁護士を通して返金するということで話はまとまりました。 まとまったといっても、そんな話はしていないと後で言ってごねる可能性があるので、その店からその弁護士と話をして、確認を取っておきました。 結局、何日か経った後で、日本からまた「商品」を送り返してもらい、全額とはいきませんでしたが、手数料を引いた分だけ取り戻すことに成功しました。 相手が相手だけに最後まで気を抜けませんでしたね。 弁護士は肉体労働にも強くなくてはならないのです。
 その後、お金をほとんど取り戻したことを検察庁の消費者担当の人と話していたら、えらくびっくりしていました。 通常、泣き寝入りになってしまったり、裁判でも負けたりするケースがほとんどだそうなのです。 まさにやってみなければわからないとはこの事件でしたが、あんな目に遭うなら危険手当でももらっておけば良かったかな、なんて思ってしまいます。

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