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■最近の感動をあなたにも■ 先月、「その1」で、「忙しい」ということを強調しすぎたことを後悔しています。 考えてみれば忙しいことが当たり前の仕事ですからね。 顧問先や色々な方から「お忙しいところ済みませんね」とのコメント。 もう忙しいということを書くのはやめましょう。 それから、なんで、「呑んでソウロウ」なんだというコメントいただきました。 「鈴木は酒を飲んでからでないと、原稿書かないんだろう」と思われているのですかね。 残念でした。 皆さんもそうでしょうが、日々仕事をしていると、あらゆるところで目に見えない拘束があり、ゴクリと自分のエゴを抑えなくてはならないことがたくさんあるからなのです。 結果、「呑んでソウロウ」。 それはさておき。 弁護士の醍醐味は毎日ではないですけれど、やはりお金では買えない感動を味わうことができることでしょう。 たくさんの人に接して、様々な意見を聞くことにも感動はありますし、事件を解決してすっとする感動もあります。 色々な感動がある中で、やはりクライアントの方と感動を共にすることほど嬉しいことはありません。 例えば先日も、二年ほど前に刑事弁護を手掛けた事件の元被告人の方がわざわざ遠方よりお電話を下さって、元気にやっていることを伝えてくれました。 その人の明るい声を聞いたのははじめてでした。 辛かった時間を一緒に乗り越えた感動がそこにはありました。 今日は、そういった私の最近の感動のなかから一つ。 訳あって、年に3,4件ほどボランティアの法律相談所から私のところに事件が回ってきます。 これらの事件は一見平凡な事件に見えるのですが、当事者にとっては、生活がかかっている事件であることが殆どです。 なぜかというと、ボランティアの法律相談所が受け付ける事件は、低所得者だけが対象なので、一ドル一セントで家庭の経済のバランスが崩れてしまうような事例が持ちこまれてくるのです。 また機会があったら、このボランティアの法律相談所の影で働く人々のことは書いてみたいものです。 この人たちには、私に勇気をくれる本当の法律家の姿があります。 最近、私がバタバタ仕事をして事務所を出たり入ったりしているとき、このボランティアの相談所から連絡が入り、事件の委任の要請がありました。 相談所内で解決できない事例はもう相手方に弁護士がついて裁判が起こされ、こちらにも弁護士がついて闘わなくてはいけない事例という場合が大多数ですから、私としても受任する際に細心の注意を払うわけです。 入ってきたファックスを良く読みました。 事件は、原告である大家からの立ち退き請求を受けた借主を弁護せよという内容でした。 大家はアパートを何軒も持つ大金持ち。 私のクライアントとなる借主は二人の子供を抱える女性。 それも、子供の一人が小児麻痺で一生車椅子で生活を送らなくてはならない状態でした。 内容を吟味して、事件を受任することにし、クライアントの方にすぐにでも、事務所に来てもらうように指示しました。 私がこのファックスを受け取ってから、次の法廷まで準備期間は3日間。 一刻も早くクライアントに会って事情を聞くことは何よりですが、当面の課題として3日後、裁判所に出廷すると、事件が陪審裁判になるかならないかの瀬戸際ですから、法律的に私のクライアントがとにかくそのアパートに居続ける事ができるようにするのが私の最大の課題でした。とにかくごはんを食べている時間でも、コーヒーを飲んでいる時間でも構わず、書類を読み、法律論を組み立てていきました。 書面を読むと疑問が生じます。とにかく、クライアントと話がしたい、そう思ってコンタクトを続けて、受任の翌日面談することができました。 法廷まであと二日です。 私の所に面談に来た黒人女性は非常に穏やかで、なおかつ説得性のある証拠をたくさん持参してくれました。 訴えられていた原因は、大家側が家賃を払っていないと主張しているのですが、この女性、大家と以前一回トラブルがあってからは、銀行振出の小切手で支払っていたのです。 賃貸借に関する法律では、一回でも家賃を払うのを遅れてしまうと、立ち退きの訴訟を起こされる可能性がありますから、このケースも二ヶ月分家賃を受け取ってないと大家が主張し、裁判を起こされたのです。 それにしても、こちら側では払いましたという証拠を提出できる準備があり、私自身も払った事実に間違いはないと確信していましたので、何故そこまで、大家が立ち退きを迫るのかその裁判を起こす心理の裏側に興味を持ちました。 この女性に質問をさせてもらううちに、ある一つの事に気がつきました。 このアパートの更新時期が毎年この時期なのです。 不動産の値段が右肩上がりのこの時期、うまく追い出させれば、家賃を値上げできる、そう思う大家がいてもおかしくないですよね。 過去にも、同じような時期に、そういう類の「脅迫」があったそうです。 相手の意思さえ読めれば、ばば抜きのばばがどのカードなのか分かったようなものですから、私の法廷準備の用意もグンとはかどりました。 出廷の日、クライアントの女性は非常に緊張している様子でした。 なんとか、結果が不安定な陪審裁判に臨む前に、ほっとさせてあげたいと思って、相手の弁護士と裁判官を交え交渉を進めていきました。 交渉といっても、私の側は、絶対出ていかない、相手は絶対出ていけ、という主張ですから、平行線のまま時間は過ぎていきます。 クライアントにも疲れが見え始め、ため息が多くなってきました。 勝算のある裁判であると見た私は、話し合いも時間切れという時に、車椅子に乗ったクライアントの息子さんを連れてきました。 それまで温存していた事実だったのですが、小児麻痺の子供を一生懸命育てているシングルマザーという姿を強調したのです。 相手の弁護士は車椅子を押してくる私のクライアントを見て、一瞬たじろいだ様子でした。 その時、私はお金の計算のみを念頭においていた相手方が、自分で雇った弁護士に、こちらの家族がどの様に暮らしているかの説明をあまりしていなかった様に見えたのです。 「この家族がどういう思いをして、どのように暮らしているのか、陪審員の皆さんにも見て聞いてもらいましょう。」 すっ飛んでクライアントである大家と話をしてきた相手方の弁護士は、こちらの言い分を呑んで、訴訟を全面的に取り下げました。 勝利です。 それでも私のクライアントは憮然としたまま法廷でこう言いました。 「私は、道徳に外れたこと決してしていません。 子供を守るために。」 それだけいって法廷を出て行きました。 私は色々な書類を相手の弁護士と整え少し遅れて法廷を出ました。 裁判所の外で私を待っていてくれたクライアントは一転して目に涙を浮かべ、もし追い出されたら、今の住宅事情ではどのようになっていたかわからないとほっとしていました。 クライアントと抱擁しつつ私も目頭が熱くなってきました。 彼女いわく「ボランティアの法律相談所に出す、弁護士の評価アンケートにはAプラスと書いてあげるからね。」 私いわく「Cマイナスと書いたら訴えるからね。」 二人で大笑いして、別れを告げました。 お互いもう会う事もないのでしょうか。 彼女の笑った白い歯が、雲一つない空に良く映えていました。
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